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マンガ海賊版サイトの訴訟、クラウドフレアに著作権侵害ほう助の判決
2025年11月19日 20:06
日本の出版大手4社が、海賊版サイトにCDNを提供したとして米Cloudflare(クラウドフレア)に対して起こしていた著作権侵害訴訟で、東京地方裁判所は11月19日、クラウドフレアの損害賠償責任を認め、約5億円の支払いを命じる判決を下した。クラウドフレアは報道関係社向けの声明で、控訴する意向を明らかにしている。
2022年2月に起こされた著作権侵害訴訟は、KADOKAWA、講談社、集英社、小学館の4社が、米クラウドフレアに対し、海賊版サイトにおけるコンテンツの公衆送信・複製の差し止めと、4社合計で4億6,000万円の損害賠償を求めていたもの。原告は、漫画作品などを掲載する悪質な海賊版サイトでクラウドフレアのCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)が多く利用されていることを問題視し、対策するよう求めていたが、満足のいく対策・説明がなかったとして、提訴に踏み切っていた。
“インフラが被告”で注目された著作権侵害訴訟
判決では、大規模なマンガ海賊版サイトにCDNを提供していたクラウドフレアが、原告が海賊版サイトでの悪用を通知しサービス提供の停止を求めた後も、サービスを提供し続けたことが、著作権侵害の幇助に当たるとされた。
判決ではまた、クラウドフレアが、本人確認の手続きなしに、高い匿名性を保ったまま巨大マンガ海賊版サイトの運営を行なえるようにしていた点も、同社の責任を認める理由として重視された。
原告らはCDNサービスについて、それ自体は有益なサービスであるとする一方、悪用されると効率化・大規模化が容易で、サイト運営者の身元を隠すことに特化したサーバーと連携することで、低コストで巨大海賊版サイトの運営が可能になると指摘。CDNサービスの事業者は違法コンテンツの配信に悪用されないよう対策を講じることが重要で、そうした対策が十分に行われていないと度々指摘されてきたクラウドフレアのサービスは、現在も海賊版サイトの温床になっていると非難している。
損害額は4社総額で約36億円と認定されたが、訴訟では原告が損害の一部のみを請求していたため、判決主文では約5億円の支払いが命じられた。
「CDNは中立」を訴えるクラウドフレア
クラウドフレアは判決について控訴する方針。同社は異議を唱える声明の中で、「CDNサービスはデータを配信するもので、コンテンツをホスティングするものではない」とした上で、「自らがホスティングしていないインターネット上のコンテンツを制御したり削除したりすることはできない。CDNサービスが停止されてもコンテンツはホストサーバーに残り続ける。問題のあるコンテンツを制御・削除できるのはサイト運営者とホスティング事業者」と指摘、CDNは中立的なパススルーサービスとしている。
また、ホスティングしていないコンテンツについて法的責任を負うことは、「グローバルなインターネットの成長を支えてきた責任制限を取り除く」と指摘、日本だけでなく世界全体で、インターネットの信頼性に深刻な影響を及ぼす可能性があると訴えている。
こうした責任制限(日本ではプロバイダ責任制限法などが類似)が無くなった環境では、裁判所の命令ではなく、通知を受けただけでサービス停止を行なえることになり「濫用の可能性が大幅に高まる」と警鐘も鳴らしている。
判決について同社は「日本の技術的成長を促進するという立法趣旨とは相容れないものであり、日本の新興テクノロジー企業の技術革新を阻害するリスクがある」とも指摘。クラウドフレアは著作権を重要視する方針とした上で、「透明性、一貫性、衡平性のある解決策を見出すことができるよう、権利者や政府を含むすべてのステークホルダーと共に海賊版対策の支援に取り組む」と表明している。
CDNは、インターネット上でコンテンツを効率的に配信するために“中継”する役割を担うサービスで、クラウドフレアは世界の主要なCDNの1社。


