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「安全は競争力」 Anthropicと日本に求められる安全なAI

(左から)Anthropic マイケル・セリット氏、Anthropic Japan東條 英俊氏、Anthropicクリス・シアウリ氏、ポール・スミスCCO

AIモデル「Claude」を展開するAnthropicは29日、日本およびアジア太平洋地域での対応強化にむけた施策を発表した。ダリオ・アモデイCEOは、高市総理大臣と会談したほか、AI評価手法に関する協力のため「AIセーフティ・インスティテュート」との覚書に署名し、Anthropicの日本へのコミットメントやClaudeの日本企業の競争力維持のための貢献について説明した。

ダリオ・アモデイCEO(中央左)が高市総理大臣(中央右)と会談

AIセーフティ・インスティテュート(AISI)は、安全・安心で信頼できるAIの実現に向けて、AIの安全性に関する評価手法や基準の検討・推進を行なう機関。Anthropicでは、責任あるAIの推進と、安全を最優先としたモデル展開を進めているが、AISIとの協力により、日本における強固な安全基準と共通の評価方法・ベンチマークの整備を進めていく。

これにより、特に企業がAIを大規模に展開する際の信頼性を高め、責任ある開発を競争優位性に転換するという。

ダリオ・アモデイCEOとAISIの村上 明子所長

また、AIの安全性とガバナンスの促進に関する国際的な協力と、イノベーションのための「広島AIプロセス・フレンズグループ」に参加。Anthropicが2023年に署名した「広島AIプロセス」の行動規範に基づくコミットメントをさらに発展させ、安全で信頼できるAIの開発を世界的に推進していくという。

政府との取り組みは。安全と責任ある開発を軸としており、日本企業におけるAI開発の周辺環境を整備するもの。「経済と社会に利益をもたらすAIについて、日本のビジョンを支援する」(Anthropic グローバルアフェアーズ責任者 マイケル・セリット氏)とした。

またAnthropicは、初の海外拠点として東京オフィスを開設。今後日本の企業やスタートアップ、文化機関との連携を進めていく。その一環として、東京・六本木ヒルズの森美術館とのパートナーシップを拡張し、12月から開催される「六本木クロッシング2025展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」へ協力する。

企業に求められる「安全性」が強み

日本法人はスタートしたものの、現在の社員は3名。日本市場においては、今後、営業を担うソリューションエンジニアや、技術支援を行なうプロダクトエンジニアの採用などを進める。

特に要求が高いのが「パートナーシップ」(Anthropic Japan 東條社長)とのことで、Anthropicとの直接契約ではなく、法人では代理店などや技術パートーナーを介した契約を望む声が多いことから、早期の体制整備と採用を進めるという。こうしたパートナー担当やマーケティング、政府関係の渉外などのほか、法務や将来的には日本の研究開発拠点の立ち上げも含め、日本での対応を強化していく方針だ。

Anthropic Japan 代表執行役社長の東條英俊氏は、安全性を重視したAnthropicのAIモデル開発アプローチは、日本企業から支持されていると強調した。「まず製品を出して、問題が起きてから対応するのではなく、リスクを事前に評価し、適切な対策を講じている」と強調し、だからこそ企業が安心して使えるとする。

Anthropicのポール・スミスCCO(最高商務責任者)は「エンタープライスで最も重視されているのは、安全性、信頼性、責任を保証するためにモデルに組み込まれた設計だ。権利保有者や文化的なニュアンスを尊重しながら、企業がより優れたサービスを提供できるよう支援する。Anthropicは主にエンタープライズビジネスとして運営されているので、消費者向けのAI企業のような利用者拡大のための機能やプレッシャーがなく、信頼できるAI導入に注力できる」と、企業導入しやすい独自のポジションを強調した。

Anthropicのポール・スミスCCO

日本におけるClaudeの利用状況については、同社のEconomic Indexのデータを紹介。他の国と比較すると、日本では人間の判断の代替としてではなく、「人間の能力を増強する協働ツール」としてAIを使用されており、学術研究や執筆、文書編集などのビジネスタスクの利用が多い。特に「翻訳」に使われるケースが日本では顕著に多く、グローバル平均の1.5倍となっている。