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築250年の古民家「旧用賀名主邸」が耐震改修 三井不動産
2025年8月19日 18:51
三井不動産と三井ホームは、江戸時代後期に建築された築250年以上の古民家「旧用賀名主邸」の耐震改修工事を完了し、7月31日に竣工したと発表。改修した古民家をメディア向けに公開した。
旧用賀名主邸は世田谷区に現存する歴史的建造物。三井不動産の“経年優化”の思想のもと、一般的な耐震工事と比べ解体する箇所を極力減らし、既存の床や天井、縁側等の建物の伝統的な意匠を残したまま耐震性能を向上させ、安全性の高い物件に再生した。
日本の住文化や趣を体感できる古民家は注目を集める一方で、地震災害への備え等に課題を抱えている。旧用賀名主邸については、三井不動産 レッツ資産活用部にオーナーの飯田浩一氏からの相談があり、「所有する古民家を最大限残しながら、安全な状態で次代へ残す」耐震改修工事を実施した。工事は三井不動産レッツ資産活用部が総合計画、三井ホームが設計・施工を担った。
耐震改修工事では、伝統的構法の建物にも設置可能な制震システムを導入。これにより解体する箇所を極力減らし、意匠を最大限保存するとともに、工事費を抑えながら耐震性能を向上させることを可能とした。
導入した工法は、江戸川木材工業が開発した技術である「Hiダイナミック制震工法」。建物の壁に複数の制震オイルダンパーを取り付けることで、大地震時の建物の変形を吸収し、柱や梁、壁等への負担を軽減できるという。床や天井の仕上げ材を極力壊さず、耐震性を満たせることを特徴とする。
旧用賀名主邸では、建物南側の特徴的な意匠を残すため、南面の居室の天井・床、縁側は仕上げ材も含めて改修は行なわず、その他の部屋にて制震オイルダンパーを設置することで建物全体の耐震改修が可能となるように計画した。
また、従来の重い瓦屋根は、日本家屋における伝統的構法である柔構造の特性上、地震時に建物が揺れやすくなることから、屋根材を変更して軽量化。日本瓦から軽い金属素材へ葺き替えることで、屋根の総重量を約1/16に抑え、建物全体の軽量化を図った。従来は1m2あたり約80kg、計約24トンだったところ、改修後には1m2あたり約5kg、計約1.5トンとした。
日本建築防災協会による一般耐震診断においては0.7未満は震度6強の地震に対して倒壊する可能性が高いとされる。「旧用賀名主邸」では、従来の0.3程度から、改修により1.0相当以上となった。
三井不動産レッツ資産活用部の石田宏次氏によれば、オーナーの飯田氏が25年前に不動産の活用に関して同社に相談したことをきっかけとした付き合いがあった。1年ほど前に、耐震性のほか、雨漏りや床の傷みなどの問題があるとの相談があり、今回の改修につながった。
旧用賀名主邸について、三井ホームの内田敦氏は、太い柱に貫(ヌキ)を貫通させて楔でとめるという伝統的構法でできていると説明。釘などは一切使用しておらず、壁は土壁でできている。
一般的な改修では基礎の補強したり、接合部に金物をつけたり、壁を増やすなどにより耐震性を高める。しかし同じやり方では解体箇所が増えてしまい、また、元々の伝統的構法による耐震性を持っていたことから、その良さを活かしながら制震ダンパーを設置して揺れを軽減させるという改修を決定した。
ダンパーは全部で5カ所入っているが、それだけでは一般耐震診断1.0相当には至らないため、屋根の改修も行なうこととなった。
オーナーの飯田氏は江戸時代後期から受け継がれてきた旧用賀名主邸の16代目。2006年までは住居として使っていて、飯田氏本人も住んでいた。現在はロケーションスタジオや結婚式などに活用されている。
耐震性を向上させて、改めて住居として使用する予定はない。ただし、安全性が確保できていないがゆえに活用の幅に制限があったが、耐震性向上により制限がなくなれば今後、次世代の人や地域の人に楽しんでもらえるような、様々な在り方を考えていけると期待を語った。
所在地は東京都世田谷区上用賀3-11-3。構造は木造平屋、間取りは4SLK、延床面積は約220m2。





















