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H3ロケット8号機打上げ失敗 第2段エンジンが正常に燃焼できず
2025年12月22日 20:15
12月22日、鹿児島県の種子島宇宙センターからH3ロケット8号機に準天頂衛星「みちびき5号機」の打上げが行なわれました。しかしH3ロケット第2段エンジンの2回目の燃焼が正常に始まらず早期にエンジンが停止。予定した軌道に「みちびき5号機」を投入することができず、JAXAは打上げに失敗したと発表しました。H3ロケットが安定した運用に入りかけたと思われた段階での失敗です。今後どのような影響があるのでしょうか。
明らかになった事実関係
H3ロケット8号機のミッションは、日本の測位衛星である準天頂衛星システム(QZSS)の中で測位信号の高度化実証の要となる「みちびき5号機」を打ち上げることでした。ロケット機体はH3ロケット22S(固体ロケットブースター×2本、ショートタイプフェアリングを使用)で、みちびきシリーズが使用する特殊な「準天頂軌道」に衛星を投入する計画でした。
準天頂軌道とは、近地点高度約370km、遠地点高度約35,586km、軌道傾斜角36の楕円軌道で、衛星が日本の上空に長くとどまることができます。このため、米GPSなどの測位衛星からの信号が受信しにくい都市部や山間部でも安定して位置情報サービスを利用することができます。
準天頂衛星は、7機が揃うとGPS衛星からの信号が得られない場合でも、日本周辺で24時間測位信号を利用することができるようになります。5号機は、7機体制の6番目の衛星(機体番号が6号機の衛星が先に打上げ)です。また5号機は将来みちびきシリーズだけで位置情報の精度を上げることができるようJAXAが開発した高精度測位システム(ASNAV)の実証を始める衛星でした。
H3 F8/QZS5の打上げは当初は12月初旬に予定されていましたが、機体の航法装置(IMU)の不具合から最初の延期、12月17日に予定されていた打上げでは、リフトオフの17秒前に種子島射場の散水設備(フレームデフレクタ)で冷却水の流量が不足するという事態から、再度延期されていました。
フレームデフレクタの不具合は、設備の設定が規定と異なっていたことから起きたと判明したため、正しく設定すれば速やかに打上げ再開が可能とのことで、12月22日を迎えたのです。
12月22日午前10時51分30秒、みちびき5号機を搭載したH3ロケット8号機は、安定した天候の中で打ち上げられました。第1段の燃焼と1段分離は正常に行なわれたように見えましたが、JAXAによる中継映像では、第2段エンジンの2回目の燃焼開始は予定よりも遅いように思われました。
そして打上げからおよそ25分後に第2段エンジンの2回目の燃焼は開始直後のわずか1秒ほどで終わってしまい、通常と異なる事象が発生していることがうかがえました。ほどなく第2段エンジンの早期燃焼停止は計画と異なる事象であることが発表され、H3ロケット8号機の打上げは計画通り達成できなかったと明らかになったのです。
これまでに判明した情報
12月22日午後のJAXA会見では、JAXA岡田匡史理事、有田誠H3プロジェクトマネージャ、砂坂義則 鹿児島宇宙センター所長が打上げ失敗の経緯を説明しました。
公表資料および岡田理事の説明によれば、第2段エンジンの1回目の点火と推力立ち上がり(エンジン燃焼が安定して所定の推力を生み出せるようになった状態)の時点から3秒ほどの計画値とのズレ(遅れ)があったといいます。
ただしこの時点ではまだ誤差の範囲内ともいえましたが、第2段エンジンの1回目の燃焼停止は予測より27秒遅れ、さらに第2段エンジンの第2回推力立ち上がりは15秒遅れました。第2段エンジンの燃焼は、機体のデータから第2段エンジン第2回推力立ち上がり(SELI2)の直後に停止したと言ってもよい状況だということです。
計画では、衛星の分離プロセスは第2段エンジンの燃焼が計画通りに終わった後に始まります。みちびき5号機がどのような状態にあるのか22日時点では明らかになっていませんが、衛星がロケットから分離できた可能性は低いと見られます。また最後に8号機がいた高度では約36,000kmの遠地点高度に到達するのは困難とみられ、このため今回の打上げミッションは失敗と言わざるを得ない結果となりました。
H3ロケットのチームは、飛行中にロケットから送信されたデータを元に調査を進めています。原因を特定するにはまだ情報が限られているため断定的なことは言えない状況ですが、会見で岡田理事は「第2段エンジンの燃料である水素のタンクの圧力が第1段の燃焼中から下がっている」との事象が発生したと明らかにしました。
2段エンジンの水素タンクは、1段が活動している飛行中も所定の圧力を保つ制御が行なわれています。この圧力が低かったということは、結果的に2段エンジンに正常に燃料が供給されていなかった可能性があります。
H3プロジェクトの有田プロジェクトマネージャは、「第1段の燃焼中に2段の水素タンク圧力が下がり始めたのはなぜか、というところが調査の中心になってくる」と述べました。「エンジンのせいではないという可能性もある」といい、今後の調査の進展が待たれます。
衛星の軌道投入ができなかったH3ロケット8号機の第2段機体ですが、現在は計画よりも低い高度で地球を周回している状況だと考えられます。
本来はスペースデブリ発生を防止するために、打上げミッション終了後に2段機体の近地点高度を下げて、早めに自然落下、大気に再突入をうながす計画でした。8号機機体が所定の軌道に投入できなかったことで、実質的に近地点高度を下げたのと同じような状況が発生していると考えられます。
有田PMは「断定はできないものの高度は低いと考えられる。軌道上寿命は短くなるものと思う」との見解を述べています。ただし、計画外の状況ですから今後どのように2段の高度が下がって再突入するのか、米国や日本の施設のデータから追跡していく必要があります。
今後の影響についてはまだ明らかになっていませんが、準天頂衛星シリーズは2026年2月に7号機の打上げを予定しており、7機体制の完成を迎える計画でした。原因調査と対策のためにこの打上げは延期される可能性があります。また5号機の機体が喪失している場合は、5号機の再製造と打上げが必須となります。当面、日本の政府衛星の整備計画は足踏みする可能性が高いといえるでしょう。
23日時点で判明していること 文科省が緊急会合
【12月23日更新】
12月23日午前、文部科学省において、H3ロケット8号機(H3 F8)の問題に関する宇宙開発利用部会/調査・安全小委員会の緊急会合が開催されました。JAXAから有田誠プロジェクトマネージャが出席し、現時点で判明しているH3 F8の飛行データについて説明しました。
12月22日の説明に加えて新たにわかってきたのは、1段燃焼中である打上げから225秒後に実施された衛星フェアリング分離のタイミングで、軌道投入失敗につながる一連の事象が始まったと考えられるということでした。ロケットの衛星搭載部には加速度を測るセンサーが設置されており、フェアリング分離の衝撃を測っています。その値が「従来よりかなり大きい」と有田PMは説明しました。従来とは、これまでの2号機以降の飛行データということです。
その後に、2段水素(LH2)タンクの圧力低下という事象が始まります。2段エンジンの水素タンクは、1段が燃焼している段階から一定の範囲内で圧力を保つように制御されています。ところが実際はフェアリング分離以降に第2段LH2タンクの圧力が急激に低下し、下限として設定された値を下回る状態が続きました。ロケットのシステムは加圧して設定値に戻そうとしていたと見られますが、圧力は正常になりませんでした。
第2段エンジンの燃焼は、第1回では推力が開始当初から20%低く、計画よりも25秒長く燃焼したということがわかりました。第2回は定常燃焼に達せず、非常に短時間でエンジンが停止してしまいました。
こうしたことを総合して、有田PMは「フェアリング分離は事象の起点になっている可能性がある」と述べています。ただし、これはまだものごとが始まったタイミングという意味にとどまっていて、原因を性急に読み取ることはできません。この後、宇宙開発利用部会の委員で三菱重工業でH-IからH3ロケットまで日本の液体ロケットの設計・開発に当たった東京理科大学の小笠原宏教授が詳細について質問しています。
宇宙開発利用部会での質疑応答
【小笠原委員】加速度データと書いてありますが、これはいわゆる衝撃的な加速度だったのか、スタティックな静加速度的だったのかというところが一点、二点目は、2段エンジンの推力が20%低く25秒長かったというところに関する質問で、これですとトータルインパルス(※1)はそのそもの計画と合ったのか、一回目の燃焼でですね、教えてください。
【有田PM】まずフェアリングの分離に伴う加速度データですけれども、端的に申し上げて、いわゆる衝撃的な、動的な加速度でございました。これは通常でもフェアリングの分離に伴う衝撃的な加速度というのは生じるわけですけれども、それが今回は通常に比べてかなり大きいということがわかっている、そういう状況でございます。
それからトータルインパルスにつきましては、まだ今検討しているところですけれども、結果的に第1回の燃焼で所定の軌道に入っていることを考えますと、トータルインパルスとしては合っていた可能性があるのではないかなと考えております。
【小笠原委員】加速度の件で、衝撃的な加速度とおっしゃいましたけれども、パイロショックレベル(※2)の周波数でしょうか? それとももうちょっと低いところの衝撃的なイメージでしょうか?
【有田PM】まだ周波数解析までは行なっておりませんで、時系列のデータを見てそのピーク値が従来より大きいといった評価をしている段階でございます。
※1トータルインパルス:ロケットのエンジンやスラスターが一定時間(燃焼時間)に発生させる力の総和
※2パイロショック:フェアリング分離などに使われる火薬を用いた「火工品」が作動(爆発)したときに構造に加わる動的な衝撃
この質疑応答からは、2段エンジンは水素タンクの圧力低下に見舞われながらも、1回目の燃焼では計画よりも25秒長く燃焼することでなんとか機体を所定の軌道に持って行くために必要な推力を生み出すことができた(2回目はできなかった)ということがまず読み取れます。
また、フェアリング分離の際の衝撃は言葉の上で「相当大きい」とはいえるものの、数値化して解析する段階には至っていないということです。H3ロケット8号機の第2段エンジンは、燃料が十分に取り込めない中でなんとか計画通りの燃焼をしようとしたものの力及ばなかったという状況のようです。こうした推定が「エンジンのせいではないという可能性もある」という22日の有田PMの発言にも繋がってくるといえそうです。
昨日の時点で搭載衛星の準天頂衛星みちびき5号機は、ロケットと分離できたのかわかっていませんでした。これは現在も確認できていないのですが、有田PMの説明から、「ロケットからの衛星分離信号は出たものの、衛星からのアンサーバックはない」という詳細も明らかになりました。
引き続き、原因究明と対策立案の段階が続きます。
【更新】23日開催の文部科学省緊急会合の内容を追記(12月23日18:50)



