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モバイルバッテリー買わないほうがいい? 充電池内蔵機器との付き合い方を考える

最近、充電式機器の火災のニュースをよく見かけます。電車で発火し、運転を停止したことにより多くの人に影響が出たり、航空機では以前から預け入れ荷物に入れることが禁止されていましたが、7月からは機内持ち込みでも収納棚に入れないなどの新ルールが始まっています。また、一部の国際線ではモバイルバッテリーの持ち込み自体を禁止する例もでてきています。

一方、街に出てみれば充電式のハンディ扇風機は、手にしている人が周囲に必ずいるほど普及していますし、スマートフォンや携帯電話はほぼすべての人が持っています。

充電池内蔵機器を2~3個身に付けていることが普通になった今、購入から処分まで充電池内蔵機器との付き合い方を考えました。

モバイルバッテリーの機内持ち込みの新ルール(出典:国交省)

どんな機器にリチウムイオンバッテリーが入っているか

私たちの暮らしを支える電子機器の多くに、リチウムイオン充電池を含む充電式電池が組み込まれています。

持ち歩くものとしては、スマートフォン、タブレット端末、ノートパソコン、ワイヤレスイヤフォン、モバイルバッテリー、ゲーム機、電動アシスト付き自転車、電子たばこ、そしてハンディ扇風機などがあり、持ち歩かないものでもコードレス掃除機、懐中電灯、電動歯ブラシなどがあり、常に何台もの充電池内蔵機器に囲まれて生活していると言っていい状況です。

イメージ(パソコンなどは別途リサイクル回収が必要)

これらの機器のうち一部は充電式でなかったものを「充電して繰り返し使える」という便利さで充電式になりましたが、その反面、使用年数や充電回数に限界があり、時間の経過とともに充電池が膨張したり発熱したりすることがあります。

機器自体はまだ使えるのに「バッテリーが持たないから結局買い替える」という経験をした人も少なくないでしょう。充電池内蔵機器が増え続けるなかでリスクは常に身近にあるといっていい状態です。

なぜいま事故が多いのか?

充電池内蔵機器の事故は、ニュースで多く報じられているからといって必ずしも事故数が多くなっているとは限りません。しかし、モバイルバッテリーとハンディ扇風機などが普及して時間がたち、ちょうど今、古くなって問題が多く発生していると想像できます。

人気のモバイルバッテリー。信頼できるメーカーも多いが廃棄は大変
モバイルバッテリーの発火例(出典:行政法人製品評価技術基盤機構 製品安全センター)

しかも、モバイルバッテリーやハンディ扇風機はきわめて安価な製品もあり、携帯電話やスマートフォンに比べて、余裕ある設計と生産管理が不十分であるとも想像されます。そして、取り扱いもスマートフォンよりは乱雑で、スマートフォンは落とさないように注意していても、ハンディ扇風機では落としても気にしないかもしれません。

そして、寿命を迎えているにも関わらず、引き出しの奥にしまったままになっているかもしれません。一時期、モバイルバッテリーはノベルティとして多く配られていました。処分しなければ手元に2~3個残っているかもしれません。

そのうえ、処分方法についてはあまり案内がされず、むやみに処分すると危険であるということを聞いて余計に処分できず、手元に残ってしまった機器が問題を起こしているのでは? と思われます。

リチウムイオン充電池は多くのものに採用されている(出典:東京都「リチウムイオン電池 混ぜて捨てちゃダメ!」プロジェクト)
【事故再現】携帯用扇風機「1.損傷したバッテリーが破裂」

では、どうやって処分する? 4月から自治体での処分方法が明示

古くなって寿命を迎えたり、不注意から衝撃を与えてしまった充電池内蔵機器を処分する場合、まず最初に行なうべきことは、その製品のメーカーの処分に関する情報や、自分が住んでいる自治体(市区町村)の最新の公式情報を確認することです。

リチウムイオンバッテリーは一般ごみとして処分することはできません。その理由は明確で、バッテリーは衝撃や熱に弱く、破損や内部短絡によって火災が発生する恐れがあるからです。実際、清掃工場や収集車内で発火事故が起き、社会的な問題となっています。こうした背景から、自治体は「必ず指定の回収ルートを利用するように」と強く呼びかけています。

小型家電の回収ボックスでは、バッテリーを外すよう呼びかけていた

2025年4月に環境省からの通知もあって、多くの自治体はリチウムイオンバッテリーを使用した機器についての明確な処理方法を示すようになりました。以前はJBRC加盟のメーカー以外の機器の処理方法についてあいまいな記載をしていたところでも、今確認すれば情報が更新されているかもしれません。いま一度、公式サイトや広報紙などで「小型充電式電池の回収ルール」を確認するといいでしょう。

その処分の方法ですが、指定された日に透明な袋で出す、と指示しているところもあれば、別の自治体では「公共施設や協力店に設置されている回収ボックスを利用する」と案内している場合もあります。

特に大手量販店やホームセンターは回収サービスを展開しているところもあり、店舗に回収箱が常設されていることもあります。ただ、投入の際には注意が必要で、JBRC加盟メーカーの製品に限定している場合や、内蔵バッテリーを取り外せる機器では必ず電池の端子部分をビニールテープなどで覆い絶縁処理を行なうなどのルールがあります。ただ投入するだけでなく、出し方のルールまで確認しておく必要があります。

JBRCとは?

ここで重要な役割を果たしているのが、一般社団法人JBRC(Japan Portable Rechargeable Battery Recycling Center)です。JBRCは、小型充電式電池のリサイクルを推進するために設立された団体で、電池メーカーや製品メーカー、販売事業者など多くの企業が加盟しています。家電店の店頭にある回収箱の設置や、回収ルートの整備はこの団体が主体となって運営しています。

JBRCの活動は、単なる回収にとどまらず、リサイクルによって取り出されたコバルトやニッケルといった資源の再利用にもつながっています。資源の有効活用は環境負荷の軽減に直結するため、国の政策とも強く結びついています。

JBRCの公式サイトでは、全国の回収協力店の情報を提供しており、都道府県や市区町村名を入力すれば回収拠点がわかるようになっています。これにより、一般の人でも安全にリサイクルに回す仕組みが整備されました。

現在ではどのような機器でも自治体指定の処分方法が示されていますが、より安全で確実な処分をするためには、JBRC加盟のメーカーの製品を選ぶこともひとつの方法です。

バッテリー回収サービスはさまざまなものが存在

メーカー、JBRC、自治体での処分のほか、廃棄物処理業者が独自に機器回収サービスを展開していることもあり、なかには有料ではなく条件によっては無料のサービスも存在します。

リチウムイオンバッテリーではなく、ニッケル水素やニッケルカドミウムの充電池は昔からリサイクルが確立していますし、自動車で使う鉛蓄電池の場合は、無料どころか資源品として買い取ってくれるところも少なくありません。

検索してみれば、意外に近くに受け入れてくれるところがあるかもしれません。ただし、こうした回収サービスは個人向けでなく、法人が大量に持ち込むことを前提にしたところもあります。もし、個人で持ち込むような場合は、事前に問い合わせたうえで持ち込むようにしたほうがいいでしょう。

オークションやフリマでバッテリー入り機器を送るときの注意

処分の方法のひとつとして、まだまだ使える機器の場合、ネットオークションやフリマで売却する方法もあります。ただし、その場合、発送には注意が必要です。

メルカリでは、新品以外のモバイルバッテリーは出品対象外

バッテリー入り機器の配送には特別なルールがあります。リチウムイオンバッテリーは国際的に「危険物」として扱われ、航空輸送や郵送において厳しい規制が設けられているからです。

具体的には、バッテリーを搭載した製品には「UN番号」という危険物分類コードがあり、輸送時にこれを考慮しなければなりません。また、梱包の外側には「リチウム電池が含まれることを示すマーク(電池マーク)」を貼付する必要があります。身近な例ではノートPCの外箱や、通信事業者が行なう携帯電話の通販では、箱にUN番号のついた表示があるのを見たことがあるかもしれません。

個人が宅配便で発送する場合ももちろん同様で、最近では、中身について説明を求められることが多くなりました。品名も「電子機器」などとおおまかな記載をすれば、具体的に何なのか、電池の有無などを詳しく聞かれることがあります。これは電池に限らずで、例えばプラモデルを送ろうとした場合、接着剤や塗料などの有無なども申し出る必要があります。

重要なのは「正直に申告すること」です。安易に「バッテリーなし」と偽って発送すると、途中で発覚した場合に荷物が差し戻されたり、最悪の場合は事故や法的責任を問われることもあります。利用者としては、少々面倒でも規則を守ることは安全のためにも非常に重要です。

モバイルバッテリーが本当に必要かを再考 不要になったらすぐ対処

古くなったときのリスクや、使い終わったあとの面倒さを考えて、「モバイルバッテリーはもう買わないほうがいい」となるのはある意味正解です。自分の生活に、本当にモバイルバッテリーが必要かどうかはよく考える必要があります。

現在は充電用のコンセントは、カフェだけでなく乗り物にも多く装備されています。航空機はもちろんのこと、電車でも長距離列車だけでなく東京メトロ丸の内線のように一般の通勤電車でも充電用コンセントを備えていることもあります。バッテリーのかわりに小型充電器と汎用性の高いUSB Type-Aケーブルを持ち歩けば、充電池が原因のトラブルも減らすことができます。

ChargeSPOTなどモバイルバッテリーのレンタルサービスもあります

それでも、モバイルバッテリーが便利な場合もあります。今後、モバイルバッテリーを選ぶ際や、そのほかの充電池内蔵機器についても安全な製品を選ぶ場合は、前述のJBRC加盟メーカーや回収体制のしっかりした製品を選ぶなどしておいたほうがいいでしょう。

そして、不要になったらすぐ対処することが必要です。故障したり、故障につながる強い衝撃や水濡れがあったりしたまま放置すると発熱や発火など大きなトラブルに発展する可能性がありますので、早めの修理や処分がおすすめです。

しばらく使わないが別の季節に使うつもりで長期保管する場合にもメーカーの説明にあわせた対応なども有効です。機種によって異なりますが、一例としては充電量を少なめにしておくなどの方法が指示されています。

便利なモバイルバッテリーや充電池内蔵機器は便利ですが、一歩間違えば重大なトラブルを引き起こすことがあります。

取り扱いには注意するとともに、購入前には自分の利用シーンに必要かどうかを確認し、その上でいずれ必要になる処分のことまで想像して選ぶことが重要です。

正田拓也