西田宗千佳のイマトミライ

第336回

アマゾンが日本のインターホン市場に本気の挑戦 「Ring」創業者が語る可能性

Ring 防犯ドアホン プロ。日本オリジナルの製品だ

Amazonはセキュリティカメラの「Ring」シリーズの新製品を発表した。

これまでRingは、アメリカで開発された製品を日本にも導入することを前提としてきた。だが、今回の新製品である「Ring Doorphone Pro(Ring 防犯ドアホン プロ)」は、日本向けに開発された、日本限定の製品である。

Ring 防犯ドアホン プロ

発表に合わせ、Ringの創業者であり現在は、Chief Inventorとして再びAmazonでRing事業を率いるジェイミー・シミノフ氏が来日した。

彼への単独インタビューを通し、Ringの戦略と日本への取り組みについて聞いた。

Ring創業者で事業責任者のジェイミー・シミノフ氏

専用モデルで「独自性の高い日本市場」に対応

まず少し、Ringの歴史を振り返ってみよう。

Ringはシミノフ氏によって2013年に設立。当時は「Doorbot」という名前だった。その名前から分かるように、カメラを使った、インテリジェント性を持つホームセキュリティデバイスとして生まれた。

アメリカの著名なリアリティ番組である「Shark Tank」(日本でいう「マネーの虎」のような、起業家と投資家のやり取りを描く番組)にも出演し、話題になったりもした。

「Ring」という商標名が出てくるのは、2014年に発売された第二世代のこと。その後も訴訟など様々な課題を抱えつつも、2018年4月、Amazonが買収して今に至る。Amazonによる買収前から、アメリカでは家庭用セキュリティカメラとして大きなシェアを持っていたが、買収後にはさらに勢いを増した。

現在はネットワークサービスと連携し、単にインターホンとしてだけでなく、動画を記録し、外出中の対応や事後チェックも可能になっている。

日本には2022年4月に参入した。半年ほど早く日本参入を果たしたGoogleの「Nest Cam」とともに、アメリカ型のインテリジェント・セキュリティカメラに注目が集まった。

だが、日本の「インターホン」市場ではなかなか存在感を示せていなかった。今回の新製品は、その状況を打破するための製品でもある。

シミノフ氏は、日本独自製品を作った理由を次のように語る。

シミノフ氏(以下敬称略):ドアベルに関して言えば、日本は世界中の他の地域とはまったく異なる市場です。

米国で作った私たちのドアベルは、カナダ、メキシコ、南米、ヨーロッパ、アフリカなど、ほぼ世界中で機能しています。

しかし日本では、すでに90%の家庭にインターホンが普及している状況です。私たちの既存のドアベル製品は、そのままでは日本の住宅に適合しませんでした。

適合しなかった理由はいくつかあります。

まずサイズが小さすぎたため、壁にある既存のインターホンの穴を覆い隠すことができず、プレートを被せても見た目が悪くなってしまいます。

また、Wi-Fiの電波が弱く、屋外まで届きにくいことも課題です。日本のWi-Fi規制による問題もありますし、コンクリート造の家が多く、Wi-Fiが遮断されてしまうという問題もありました。

私は日本が好きでよく滞在していますが、日本の家屋は伝統的なものから現代的なものまで非常に美しいのに、既存のインターホンは技術的にもデザイン的にも古く、その美観に合っていないと感じています。

そこで、日本の住宅の美しさを引き立てつつ、設置が簡単で手頃な価格の製品を作りたいと考えたのです。

既存の配線をそのまま使って電力とインターネットを供給できるようにし、日本の顧客のニーズを1から見直して日本専用に設計しました。

古いインターホンを近代的なテクノロジーへとアップグレードできる製品をお届けできることを、とても楽しみにしています。

日本の「インターホン」市場と直接対抗

今回の新製品は、アメリカ型の「ドアの外につけてWi-Fiで飛ばす製品」とは異なる。日本のインターホン規格に合わせ、一般的なインターホンをそのまま置き換えられる製品にしたのだ。

形状が従来のRingと異なるのはそのためだ。

2023年に日本でも発売された「Ringドアベル」
新製品の「Ring 防犯ドアホン プロ」。日本のインターホン規格に合わせて作られている
「Ring 防犯ドアホン プロ」を押すシミノフ氏。サイズは日本規格だ。

その結果として、今回の新製品は個人が自由に取り付けられるものではなくなった。取付には電気工事士資格が必要だ。

Amazonで出張設置サービスを提供する他、エディオン・ケーズデンキ・ビックカメラグループ・ヤマダデンキ・ヨドバシカメラといった家電量販、住宅設備卸などでも取り扱う。要は、既存のインターホン市場と正面からぶつかる作戦を選んだ、ということなのだ。

シミノフ:大前提として、顧客がすでに持っているインターホンを置き換えるわけですから、新製品は少なくとも以前のものと同等か、それ以上に機能しなければなりません。

しかし同時に、私たちはセキュリティや監視、そして「Always Home(どこにいても家とつながっている感覚)」をもたらすことにも非常に注力しています。

多くの日本のユーザーから、「忙しくて外出が多く、家にいない時間が長い」という声を聞きました。子供が帰宅したり外出したりする中で、動体検知や玄関のカメラを通じて家とつながっていることはとても重要です。玄関のカメラは、家で起こるすべての出来事の中心であり、最も重要な場所です。

また、悲しいことですが、米国でよく起こる詐欺などの犯罪が日本でも起こり始めていると聞いています。

この製品がコミュニティや地域に「人の気配」を取り戻し、「Always Home」を実現することで、そうした犯罪を防ぐ良い手段になると考えています。

Ringはアメリカで、家庭のセキュリティカメラをインテリジェントな存在にしていった。一方、日本では「家が作られるとき」にインターホンとして組み込まれ、刷新が進まない。ライバルはGoogleなどの同じような製品を作っているメーカーではなく、住宅設備メーカーのインターホンなのだ。

そういう分析になったからこそ、「いままでのインターホン以上」のものを、インターホン設備を扱う市場へと提供することを目指した、ということなのだろう。

これは想像以上に大きな、「正面からの日本市場への挑戦」である。

ネットで「ご近所連携」や「家族の思い出」を拡大

Ringのようなセキュリティカメラの価値は「スマホからチェックできること」だけではない。

アメリカでは2つの要素が存在価値として大きくアピールされている。

そのうちの1つが、ネットワークによって近隣のRingを設置した家庭を連携する、「Neighbors」と呼ばれている機能だ。

近隣(数km圏内)で発生した不審者情報・空き巣・荷物の盗難・迷子のペットなどの情報を投稿できるもので、地域の安全に関する情報のシェアが目的だ。住民だけでなく警察などの法執行機関もこのネットワークに参加しており、事件解決のために住民へ映像提供を依頼したり、公式の安全情報を発信したりもしている。

この機能については、プライバシー侵害や監視に基づく「自警団化」の懸念も指摘されている。そうした課題がある一方で、治安の課題がある地域では、防犯上の価値が認められてもいる。

こうした機能は現状、アメリカでのみ提供されている。日本での展開はどう考えているのだろうか?

シミノフ:Ringの使命は「近隣地域をより安全にすること」。アメリカで展開しているように、日本でもテクノロジーを通じて「Mimamori(見守り)」の強化を支援したいと考えています。

しかし、これはどの地域でも同じですが、まずは製品を十分に普及させる必要があります。製品があまり普及していない状態では「地域を安全にする」とは言えません。ある程度の密度が必要になります。

日本専用の製品を設計したことと同じように、他の地域での学びを活かしつつ、将来的には日本に特化した機能の設計・展開も進めていくことになると思います。

もう一つ、アメリカで注目されているのが「映像を思い出に変える」機能だ。特に、生成AIをベースとした「Alexa+」と連携してからは、音声や文章で写っている映像を探し、家族の大切な瞬間を「思い出として扱う」機能がアピールされている。

昨年9月にニューヨークで開かれた会見の写真より。ドアベルのカメラから生まれる「家族の思い出」を動画として大切にする要素も

こうした要素はどのような発想で生まれ、どう使われているのだろうか?

シミノフ:私たちは初期から、学校から帰ってくる子供の姿を職場で確認したり、一人暮らしの高齢の親の様子を見守ったりと、お客様がRingのカメラで捉えられた瞬間を大切にしているのを見てきました。玄関先には、祝福すべき素晴らしい瞬間がたくさんあるのは明白なことだったんですよ。

もちろん、人々が我々の製品を買う一番の理由は「防犯」です。私たちは「近隣を安全にする」という主要な目的は変えていません。

しかし同時に、子供たちがバスケットボールのシュートを決める様子など、玄関先で起こる素晴らしい瞬間を捉えられるという付加価値が得られるのは素晴らしいことです。思い出を共有するためにお客様が私たちを信頼してくれるのは、とても嬉しいことでもあります。

「AIによる変化」が新しいビジョンをもたらした

冒頭で述べたように、シミノフ氏は2013年にRingの元となる企業を立ち上げ、今日的な「ネット連携型セキュリティカメラ」の市場構築に重要な役割を果たした人物でもある。

しかし、2023年には一度Ringを退社し、このビジネスから退いている。

それが再びAmazonに復帰したのは2024年のこと。AmazonでRingやスマートホーム製品を統括するバイスプレジデントとなり、現在もRing事業のリーダーとなっている。

なぜ一度は事業から退き、また復帰したのだろうか? そして、復帰後はどう考えているのだろうか?

シミノフ:私はガレージでRingを立ち上げ、Amazonに売却した後も会社に5年間留まり、非常に利益の出る大規模なビジネスへと成長させました。

その時は「約束を果たした」と感じた一方で、長年のハードワークで燃え尽きてしまったんですよ。ゼロから1億台のカメラを出荷するまで企業を成長させましたが、あまりにも目まぐるしい日々でした。だから、一息つく時間が必要だったんです。

しかし、そこにAIが登場しました。

火災時の犬の救出や防犯・安全など、AIとRingを組み合わせることで実現できる、全く新しい世界が広がっていると感じたのです。そこでAmazonに「戻りたい、まだここでやれることがある」と伝えました。

いったん外からRingの事業を客観的に見直す時間を持てたことで、視界がとてもクリアになりました。現在では、AIの技術とその明確なビジョンのおかげで、例えば「Ring Doorbell Pro」は1年足らずで開発されるなど、以前よりもスピードが上がり、顧客のためにすべきことへの焦点がより定まっています。

なんていうか……バスケットボール選手に例えるならシカゴ・ブルズ時代のマイケル・ジョーダンのように、今の日本の選手で言えば大谷翔平のように、私たちは今、絶好調(top of the game)の状態です(笑)。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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