西田宗千佳のイマトミライ

第99回

2021年春夏の「テレビ」を俯瞰する

2021年春夏の各社テレビ新製品が出揃ってきた。大手としてはLGエレクトロニクスの発表がまだだが、おおむね流れは見えてきた。

では、今年のテレビ新製品はどのような状況になっているか、全体を俯瞰してみよう。特にここでは、40型以上・4Kを中心とした高付加価値モデルを取り上げる。日本市場の場合、販売モデルの主軸はここで、それ以下の小型・低価格モデルは差異が小さくなっていて、収益も小さくなっている。それだけに各社の特徴も、ほぼこの領域に集中している。

2021年のテレビ市場も「配信」が後押し

昨年はコロナ禍1年目であり、さらに定額給付金があったことなどもあって、テレビ市場は春から初夏に向けて、特に好調だった。

2021年に関しては現状、特段状況を変える要因はない。世界的な半導体不足の影響はテレビにも出ており、製品投入が遅れ気味ではあるものの、昨年のような状況があるか、というとそうでもない。

本来ならばオリンピックで……的なことはあったかもしれないし、去年がまさにそうだったわけだが、開催そのものが怪しまれる今年のこの状況下で、「オリンピックを控えているからテレビを買おう」なんて人がそうそういるわけもない。

というわけで、特別な要因なく販売が進む(ブースターになるものもない)のが2021年、ということになりそうだ。

そんな中で買い替えの推進役となっているのは、やはり映像配信である。これは昨年も変わらない。映像配信を使うことがあたりまえのことになってきて、その中核にテレビがあり、テレビ買い替えの際にも「楽に、美しく映像配信が見られる」ことがポイントにはなっている。

ハイエンドから価格重視のブランドまで、ほとんどの製品で「配信サービスへのダイレクトボタン」がついており、その組み合わせ自体が一つの差別化ポイントにもなっている。場所も、リモコンの上の方にあるのか、それとも下の方にあるのかなど、けっこう異なっている。

最新テレビリモコンはコレだ!! Netflix、アマプラ、ABEMAボタンが席巻

なお余談だが、「この種のボタンはNetflixが始めたもの」という解説を読んだことがある。しかしそれは間違いだ。Netflixがテレビ向けにサービスを開始する以前から存在するもので、歴史は意外と古い。

新エンジン「XR」でリニューアルしたソニーのハイエンドテレビ

さて、では各メーカーのテレビの傾向を見ていこう。

技術面で最も派手な進化をアピールしているのはソニーだろう。

ソニーはハイエンドモデルのブランドを「BRAVIA XR」に変えた。搭載しているエンジンが新世代の「XR」に変わったことから、ブランド名も変更になった。

ソニーBRAVIA。液晶X95J 85型「XRJ-85X95J」(左)、A90J 83型「XRJ-83A90J」(右)

“脳のように処理する”ブラビアXR有機EL。PS5の4K120p対応

ソニー、XRプロセッサで“絵も音も進化”液晶ブラビア「X95/X90J」

なお、その下位には既存の「X1」シリーズの発展系である「HDR X1」を採用した液晶モデルがラインナップされている。

ソニー、PS5の4K120pに対応する液晶ブラビア「X85J」

83型の有機ELブラビア「XRJ-83A90J」

XRは「認知特性プロセッサー」と呼ばれているが、その特性はちょっとわかりにくいだろう。簡単に言えば、まず映像解析をして「人間ならばどこを注視するか」を考え、それに応じて処理量や方法を変える、というやり方をしている事になる。そのため、人間が見た時注視する部分の処理がより丁寧になり、全体として見やすく、メリハリの効いた映像になる。

新エンジン「Congnitive Processor XR」

これは、プロセッサーの能力を画面全体に同じように使うよりも、人間が注視するところに集中させて使った方が効率は高まるだろう、という発想に基づいて作られたものだ。

先日取材で実際の映像を確かめたが、確かにより見やすい映像になっていた。映画などの演出意図がはっきりした映像以上に、テレビのニュースやバラエティのような映像での改善効果が大きいようにも思える。

「BRAVIA XR」の新エンジンは何をしているのか?

また今季から、XRブランドの製品に向けて「BRAVIA CORE」という映像配信サービスが始まったのもポイントだ。BRAVIA COREは、簡単に言えば、BRAVIA XRを買った人がすぐに最高の映像を楽しめるように用意された「映像パック」のようなもの。

ネットに接続するだけで、追加料金を払うことなく、「最新の映画作品10本分の視聴チケット」と「ソニー・ピクチャーズの映画作品のうち登録済みのものを、2年間見放題になるサービス」がセットになってくる。テレビにこれだけの映像コンテンツがついてくるのは、お得だ。

ソニーとしてはBRAVIA CORE自体を収益源と見ていない。そのため、利用期間が過ぎた際の「再契約」や、10本分のチケットを使い切った後の「追加チケット」は用意されていない。BRAVIA XRを買った人向けのプレゼントに近い位置付けだ。

まあ、BRAVIA XRシリーズはハイエンドであり、一般的な4Kテレビより高価ではあるが、その価格をカバーするオマケ、的なイメージで考えてもいいだろう。

有機ELやスピーカーに独自の工夫。継続の強みを打ち出すパナソニック

パナソニックの「VIERA」は、昨年同様「有機ELの独自チューニング」と「スピーカーシステム」が売りだ。

パナソニック VIERA「TH-65JZ2000」

パナソニック、独自構造パネルの4K有機EL「JZ1000」。ビエラ初の48型も

ビエラ最高峰の高コントラスト4K有機EL「JZ2000」

4Kチューナ搭載の入門ビエラ「JX750」。上位機と同じ映像回路で高画質化

4K液晶ビエラ「JX950/JX900」に75型。VRRとAMD FreeSync対応

高画質モデルで有機ELを推しているパナソニックは、以前より、調達した有機ELパネルの価値を独自に高めることに腐心してきた。今は他社も同じようなことを始めているが、放熱パネルの工夫によって表示輝度を高めつつ、制御も工夫することで画質全体を向上させている。これが同社の「Dot Contrast パネルコントローラーPRO」という機構で、「JZ2000」に採用されている。

スピーカーについては、上向きに配置されたイネーブルドスピーカーによってDolby Atmosコンテンツの聴感を良くしているのがポイント。テレビ本体だけで音質改善を、というのは各社目指すトレンドの一つだが、パナソニックはハイエンドモデルでスピーカーの配置を見直すことに積極的である。これも、有機ELパネルに独自の工夫をすることと同様、今年始めたことではなく、この数年間の積み重ねではあるのだが、今年もそこに注力している傾向だ。

シャープは有機ELも「AQUOS」に。家電連携が1つの強み

シャープは液晶を中心としたラインナップだが、昨年より投入した有機ELモデルも「AQUOS」ブランドへと名称を統一している。昨年は「AQUOS=液晶、というイメージが強いため」という理由から、有機ELはAQUOSブランドを使わなかったのだが、もうそういう話でもない、ということのようだ。

4K有機ELのAQUOS OLED「4T-C65DS1」

シャープ、有機ELは「AQUOS OLED」に。独自パネルの「DS1」

液晶のAQUOS 4K「4T-C65DN1」

4K/120Hzに対応した4K液晶AQUOS「DN1」ラインなど

画質エンジンとしては、どちらのモデルでも、今年リニューアルした「Medalist S2」を採用している。これは昨年モデルに比べCPU・GPU性能が約1.6倍に強化され、地上デジタル放送からBS 4K放送への選局スピードも約20%高速化されているという。

同社は自社テレビ向けに独自オンラインサービス「COCORO VISION」を搭載しているが、今年は3月末にサービスをアップデートし、シャープのネットワーク家電が使う「COCORO+」との連携を深め、スマートライフサービス「COCORO HOME」に登録された家電の動作状況などを一覧できるようになった。

洗濯や調理終了のほか、エアコンが設置されている部屋の温度上昇が、テレビから簡単に把握できるようになっている。

総合家電メーカーが減っていることから、日本の家電メーカーとしてこの種の連携を積極的に広げる流れも弱くなっている。その中でもシャープはテレビから生活家電まで手掛けてるので、この方向性を維持しているとも言えるだろう。

東芝からREGZAへ。今年は「美肌」により注力

REGZAブランドのテレビ事業は、3月1日より社名を「東芝映像ソリューション」から「TVS REGZA株式会社」に変更した。コーポレートロゴも「TOSHIBA」から「REGZA」になった。テレビとしての「東芝」ブランドは使われ続けるが、より「REGZA」としての独立性が高くなったと言っていい。

2016年に東芝から「東芝映像ソリューション」が独立し、2017年に中国・ハイセンスグループの傘下となったわけだが、ようやく明確に「REGZA」ブランドこそが本質、という形に落ち着いてきたと感じる。REGZAブランドは15周年を迎え、消費者の支持も厚い。この形に落ち着くのが妥当な流れと言える。

東芝映像ソリューションが「TVS REGZA」へ。ブランド名“東芝”は継続使用

4K有機ELレグザ「65X9400S」
65型4K液晶テレビ「REGZA 65Z740XS」

レグザ、“自然で美しい人肌”のフラッグシップ4K有機EL「X9400S」

東芝、美肌にこだわった最上位4K液晶レグザ「Z740XS」。15周年第一弾

画質面では「肌色へのこだわり」を強く打ち出しているのがポイントだ。これは今年からのことではなく、ある意味継続改善なのだが、今年は撮影環境の違いや視聴環境の違いを吸収し、どのようなコンテンツも、どのような場所に置かれたREGZAであっても同じように自然な表現へと補正する「ナチュラル美肌トーン」が特徴だ。美肌トーンの機能化に関しては、自社のノウハウに加え、行ってきた埼玉女子短期大学・山田雅子教授の論文や知見が活かされているという。

個人的に気になっているのは、REGZAのみ、HDMI 2.1の「4K 120Hz入力」に対応していないことだ。

昨年末にPlayStation 5やXbox Series Xなどの「4K 120Hz対応」ゲーム機が登場したこともあってか、ソニー・パナソニック・シャープの3社はこの要素に対応している。LGエレクトロニクスは昨年モデルから対応していたので、大手の足並みも揃ってきたといえる。

だが、REGZAはまだ未対応。「REGZAといえばゲーム」というイメージが強かっただけに残念だ。今後のモデルで対応するのだろうか。

実際のところ、今は4K・120Hz対応のゲームはほとんどなく、機能があっても実効性は低いのが実情だ。だが、数年以内にはゲーム機やPCの使いこなしも広がり、4K・120Hzタイトルも増える可能性が高い。長く使うことの多いテレビだと考えると、4K・120Hzについても必要かどうかを考えてから選びたい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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