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日立、高電圧水素製造システムのキーとなる「絶縁配管」開発 設備面積を半減
2026年2月26日 09:00
日立製作所は、水を電気分解することで水素を製造する水電解システム向けに、10kV級の高電圧に対応した多層樹脂製「絶縁配管」を開発して実証機による耐電圧試験に成功したと発表した。
水素は燃焼時にCO2を排出しないため、CO2排出削減効果の高い次世代クリーンエネルギーとして注目され、発電・産業・輸送分野を中心に活用が期待されており、水素社会の実現に向けて、国内外の企業・団体で大量製造や設置場所の確保、コスト面などの課題に対して研究開発が進められている。
従来型の水電解システムでは変圧器で高電圧を低電圧に変換し、1kV未満の電圧で水電解スタックを駆動して水素を製造しているため設備全体が大型化している。そこで日立の高電圧インバータや複合材料を用いた独自絶縁配管を開発して、高電圧下のシステムに使用しても絶縁破壊や漏洩などの異常が発生しないことを確認した。
日立では再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解して作る「グリーン水素」(製造時もCO2を排出しない水素)の大量製造に向けたブレークスルーとなり得る技術だとしている。
将来のエネルギーシステムで期待されるグリーン水素の役割
概要は日立製作所 研究開発グループ 技師長の鈴木朋子氏が解説した。日立は脱炭素、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブを環境ビジョンとして掲げており、環境長期目標として「日立環境イノベーション2050」を定め、3年ごとに活動項目と目標を設定する環境行動計画に基づいて行動している。
AI需要の急激な拡大やグリーントランスフォーメーションの拡大により、電力需要は急増している。リードタイムが短い太陽光や風力発電が増加している一方、それらの発電量は不安定であり、系統安定においては新たな課題が発生している。再生可能エネルギーを大量に導入すると電力系統の需給バランスが崩れがちであり、エネルギーシステムの将来像を考えると、需給バランスや電力系統の安定性を補完するソリューションが必要だ。
短期・週間・季節間それぞれにおいて電力系統の安定化手段が必要とされている。短期スパンであれば蓄電システムのほうが使い勝手はいいが、長期スパンになればなるほど、電気分解で作られる水素のような手段が安定化に寄与すると期待されている。そこで日立では再生可能エネルギーの変動や余剰分を吸収する調整力としての水素製造システムの開発に取り組んでいる。
高電圧技術で設備全体の面積を半減
日立では「水素製造はエネルギー変換のキーになる」と考えているという。水素製造は水の電気分解で行なわれる。工業的製造でも原理は同じで、電解膜と電極、セパレータを挟んでセルにして積層した「水電解スタック」が使われる。この水電解スタックが水素の製造効率を決める。
水電解スタックは大電流―低電圧で稼働する。グリーン水素を製造する水素製造システムは、再エネ発電所の電力で稼働する。従来システムは1kV以下の低電圧―大電流で稼働するが、高電圧系統から繋ぐ必要があるため、間に電圧を変換する設備が必要となり、全体の規模が非常に大きくなる。
今回、日立が開発した高電圧変換器を使ったシステムは10kVの高電圧―小電流で稼働する。これと水電解スタックを直並列で接続する運用技術を組み合わせることで、全体をシンプルにし、設置面積を半減できるというもの。並行して、電力系統を安定化するために高速応答技術と、水電解スタックの寿命を両立させる技術も開発している。
高電圧水素製造システムにおける絶縁技術の重要性
日立は祖業である発電機や変圧器の時代から長年、高電圧技術を培ってきた。今回の技術開発もその技術の積み重ねを活かしたもの。
今回のシステムは主に高電圧電源設備と水電解スタックからなる。高電圧を流す水電解スタックからは、意図しない経路を電流が流れないよう絶縁する必要がある。しかしながら水や水素・酸素などのガス配管は必要だ。不用意な電気が流れないようにするためのキーコンポーネントが絶縁配管である。
スタックと接続された配管のなかには、生成された水素や酸素を含む純水が流れる。万が一漏れが発生し、そこに高電圧による放電が起こると水素爆発の可能性もある。内部は60度くらいの高温、高圧(3MPa)ともなる。また、構造物からのイオンの溶け出しが発生すると純水の純度が下がってしまうという問題もある。それらを防ぐために機械的な強度や絶縁材の開発が重要となる。
絶縁性、耐圧・耐熱性、ガスバリア性、耐食性といった機能が必要となるが、従来用いられることの多いセラミック製配管などでは要求仕様を満たすことができない。そこで電気的なストレスを計測・可視化する技術である電界解析技術と、変圧器などで培った絶縁材料技術をかけあわせて、今回、多層樹脂構造の絶縁配管を新たに開発した。
絶縁配管は水素ガスの漏洩を防ぐEVOH(Ethylene-vinyl alcohol copolymer)を耐食性を持つHDPE(High Density PolyEthylene)で囲み、さらにその周辺をGFRP (Glass Fiber Reinforced Plastic)で覆った構造となっている。
今回、80kWの水素製造実証検証機で実際に10kVをかける実運用環境下で性能検証を行なったが、漏れ電流(絶縁性能を測る指標)に大きな変動はなく、ガスバリア性を保ちつつ、絶縁性能を維持できることを確認した。
今後は社会実装
日立が水素の研究開発に本格的に取り組み始めたのは2022年。プラネタリーバウンダリーズとウェルビーイングに貢献する技術として開発を始めた。水素需要は、直接の電化が難しい鉄鋼や化学など産業プロセスの脱炭素化、化学原料など産業系フィードストックとしての利用を中心に拡大しており、環境配慮や付加価値向上を目的とした小規模用途にも活用が広がっていると見ているという。
今回の開発によって、高電圧水素製造システムに必要な主要コンポーネントの開発は終了したと考えており、今後は、MW級の実証機での検証を経て社会実装、さらに100MW級の社会実装を進める。そのために産学官の取り組みも進めるため、パートナーを募集しているという。設置される場所は都市部のほか、再生可能エネルギー発電所(再エネ発電所)、工業地帯、製造拠点など多様な現場への展開を視野に入れる。
日立では水電解スタックそのものの開発は行なっておらずパートナーから提供を受けているが、今後は電力系統運用のドメインナレッジ、プラント全体の最適運用技術や予知保全サービスなどデジタル技術も含めてワンストップビジネスを提供していく。
















