西田宗千佳のイマトミライ

第84回

ゲームがPCとディスプレイを牽引する? CES直前 2021年のトレンド

テクノロジーの大規模展示会「CES」が、今年も1月11日(アメリカ東部時間)から始まる。例年とは異なりオンライン開催となり、筆者も渡米することなく、日本から取材する。

今年のCESはオンラインでの開催によってフォーカスすべき場所が見えづらくなっている。さらに、スタートアップを集めた「CES Unveiled」がなく、珍しい掘り出し物を事前に見つけるのも難しくなった。正直困惑している部分はある。この記事が公開される11日夜(日本時間)からはプレス向けブリーフィングが本格的に始まるが、例年以上に積極的な姿勢で臨まないと情報が得づらいだろう……と考えている。

他方で、例年より活発な部分もある。CES前から製品発表が増えているのだ。どれもあくまで「アメリカ市場向け発表」だが、それを少しまとめてみよう。ちょっとした方向性が見えてくるのではないだろうか。

先行するレノボの「新PC発表」

例年、CESの時期に「CESの動きから少し離れたところ」で製品展開を行なうのがPC業界だ。会期前発表という点でも、PC関連が目立つ。

メーカーの中ではレノボ/NEC PCが前もって発表を行なっており、目立つ。他社は今後の発表となる。

Lenovo「IdeaPad 5G」

Lenovo、液晶がピボットできる27型一体型。Ryzen 7+RTX 2060搭載

Lenovo、20時間駆動の5G対応ノート「IdeaPad 5G」

レノボブランドでの製品も面白そうだが、やはり日本で特に注目されたのは、NEC PCが「試作」として発表した「LAVIE MINI」だろう。

NEC PC「LAVIE MINI」

NEC PCが8型2in1「LAVIE MINI」投入、第11世代Coreでゲームも

昔は日本でも様々なミニPCが出たものだが、市場性の小ささや国内PCメーカーの体力が小さくなったこともあり、近年はスタートアップ的な中国系メーカーの存在感が強かった。そこで久々にNEC PCが尖ったものを発表したことは、やはりうれしいものだ。

こういう製品が生まれる背景にあるのは、「ゲーム」という用途に注目度が集まっていることがある。そして、インテルの第11世代Core iシリーズでGPUが強化され、「それなりにゲームができるPC」を、NVIDIAやAMDの外付け型GPUを搭載することなく実現できるようになってきたからだ。最新のAAAゲームは厳しいが、少し前のゲームなら設定を変えればプレイできるものがあるし、グラフィックへの依存度が低いインディ系ゲームも大丈夫だ。

「なんとなく小さいPC」ではなく、ゲームを軸にしたコンパクトなPC、という流れが固まっている中に、それを実現するプラットフォームが揃ってきたことがポイント、ということだ。

LAVIE MINI

ただ、この点は注意が必要なのだが、「LAVIE MINI」は製品化が決まったわけではなく、試作機が公表された状態。実際の製品化は今後の反響で正式に決まる。

また、仮に発売されるとしても、「LAVIE MINI」はあくまでPCなので、ゲーム機のような価格ではなく、一般的なノートPCに近い価格にはなってしまうだろう。その点も含め、「反響を見ている」のだろう。

コロナ禍でコンパクトなPCのニーズには逆風が吹いているが、製品化に到達することを願っている。

ディスプレイに見える「ゲーム」「液晶高画質化」の流れ

もう一つ、動きとして見えてきたのは「ディスプレイの変化」だ。

といっても、高画質系の主軸が有機ELであることに変わりはない。ミドルクラス向けの液晶と、PC向けのディスプレイに変化が見え始めている。

PC向けでは、先ほど述べたように「ゲーム向け」のニーズが高まっている。これはここ数年の傾向だが、PlayStation 5やXbox Series Xが登場したこともあり、「HDMI 2.1対応」だったり、高フレームレート対応だったりする製品が重要になってきた。低価格製品だけでなく、特別なハイエンド製品が成立するようになってきたのも、PC関連ニーズの拡大を示している。LGの「折り曲げ可能・48インチ有機EL」は、完全にゲームを狙ったものだ。

LG 48インチ「シネマティックサウンドOLED」

LG、世界初の画面から音が出る折り曲げ可能OLEDディスプレイ

液晶については、素材の工夫によって発色を改善した「量子ドット技術」を使ったものと、バックライトを従来以上に小さなLEDのアレイで構成する「ミニ LED」がポイント。これも別に今年生まれたものではないのだが、2021年は採用の幅が広がっている。

サムスンは特に、量子ドット技術を「QLED」として以前よりアピールしているが、これは、同社がテレビにおいて有機ELパネルの開発競争に負け、高画質モデルを液晶で作る必要があるから、という部分がある。

Samsung「Neo QLED」

サムスン、量子ドット+ミニLED搭載テレビ「Neo QLED」。海外発表

日本では同社はテレビを販売しておらず、あまりピンと来ないかもしれないが、PCなどにも量子ドット技術を使う流れがあり、その点は注目しておいてもいいだろう。

Samsung「Galaxy Chromebook 2」

Samsung、世界初の量子ドットディスプレイ採用Chromebook 2in1

液晶テレビにおける「バックライトの高精細化」は、いわゆるミニLEDとして広がっており、アップル製品などへの採用の噂も出ている。消費電力ではマイナスだが、PC・タブレットの画質アップに使われる可能性はあるだろう。既存のテレビについても、液晶モデルの高画質化には確実にプラスだ。

ソニーが「立体での音楽体験」を無料で提供へ

最後に、「ちょっと用意しておくと面白い話」をしておきたい。

1月12日朝7時から、ソニーはCESに合わせたプレスカンファレンスを開く。その発表内容はわからないが、一つだけ公開されているのが、音楽向け立体音響技術である「360 Reality Audio」について言及がある、ということだ。すでに内容は公開されている。

ソニーの立体音響「360 Reality Audio」対応ハード拡大へ

この技術は、スピーカーやヘッドフォンを使い、立体的に色々な場所から音が流れる様を実現するものなのだが、ポイントは「普通のヘッドフォンでも体験できる」ことにある。

海外ではすでに対応サービスがあるのだが、日本ではまだの状況。しかし、無料でその価値を試せるようになる。

1月12日の発表からオンラインで開催予定の「CES 2021」に合わせ、360 Reality Audio対応ビデオコンテンツとして、ザラ・ラーソンによるパフォーマンスが、楽曲配信アプリ「Artist Connection」を介して配信される。このコンテンツは日本国内でも視聴体験が可能で、アプリのダウンロードも無料。AndroidとiOSに対応し、すべてのヘッドフォンで楽しめる。アプリは以下のサイトからダウンロード可能だ。

・CES 2021 360 Reality Audio
https://square.sony.com/ja/ces2021/360RA

ただし、ソニーのワイヤレスヘッドフォンと同社のアプリ「Sony | Headphones Connect」を使うと、カメラで耳の形を認識し、そこから「より最適化された形」で聞くことが可能になる。1月8日頃から、同アプリの利用者に「360 Reality Audioの無料トライアルデモ」についての通知が出始めているが、これは上記のライブ配信についてのものだ。アプリを最新版にアップデートしていれば、「耳の形を認識しての最適化」はすでに行えるようになっていて、その過程で、360 Reality Audioの効果を少しだけ体験できる。

ソニーの「Sony | Headphones Connect」利用者には次のような通知が表示されている
アプリで耳の写真をとり、その情報から最適化処理を行なうことで、360 Reality Audioの立体的な音楽体験がより高度なものになる

ソニーのヘッドフォンの所有の有無にかかわらず無料なので、12日以降、試してみることをおすすめする。「立体での音楽体験」という、今起こりつつある変化を体験できる、絶好の機会であるからだ。

こういうことが「現地に行かなくても広く楽しめる」のは、イベントオンライン化の、一つの恩恵であると言えるかもしれない。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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