小寺信良のくらしDX

第31回

車検証にもDXの波 一定の手続きがスマホで完結

昨今の車検証はQRコードだらけ

車のローンが終わったので、所有者変更手続きが必要になった。申し込み用紙には、車の型式や車体番号などを記す必要がある。駐車場まで行って車検証の写真を撮ってくるしかないか、と重い腰を上げたのだが、実際に車検証を見てみると、なんだかやたらとQRコードが沢山記載してある。

なんだこれは、とよく読んでみると、最近の車検証は情報が車検証に貼り付けられた薄いICチップに格納されており、専用アプリを使えば読み取れるようになっているのだという。

さっそく国土交通省が配布している「車検証閲覧アプリ」をインストールして車検証裏のICチップにあてると、車検証の内容を読み取ることができた。読み取って表示できるだけでなく、内容をスマホ内に保存できる。

国土交通省が配布している車検証閲覧アプリ

保存形式は、PDF、JSON、XML、CSVの4種。PDFには改ざん防止のための電子署名も付与される。

あいにく車は1台しか所有していないので、取得された車検証は1つだけだが、複数の車検証を読み取って保存できるようだ。会社の社用車を管理している部門の人などは便利だろう。

複数の車検証情報が保存できるようだ

調べてみると、こうした車検証の電子化は、2023年1月から導入されたようだ。現在は普通車だけでなく、軽自動車にも実施されている。車検に出したのは去年だったが、ディーラーからは特に説明もなかったので今まで知らなかった。

読み取った車検証の情報を確認してみると、明らかに紙の車検証よりも情報が多い。所有者の情報や使用者の住所、重量税、整備工場コードなども読み取れる。これらの情報は、おそらくこれまでは整備工場などで車検証番号を入力して国交省のデータベースを検索すれば出てきていたのだろうが、手元でユーザーも確認できるようになった。

一定の手続きはアプリで完結できる

このアプリに車検証情報を登録しておくと、様々な便利機能が使えることがわかった。まず車検証の有効期限が近づくと、満了の60日前、30日前、1日後にプッシュ通信される。メールアドレスを登録しておけば、メールでも通知されるようになる。

毎年同じディーラーで車検を出していれば、有効期限が近づくとハガキなどで知らせてくれるものだが、以前あまりよろしくない中古車ディーラーから車を買った時には、お知らせも何もなく、いつの間にか車検が切れていたことがあった。結局また以前のディーラーに頼んで仮ナンバーの発行やら何やらの手続きをしてもらう羽目になったが、こうしたトラブルもなくなりそうだ。

またメーカーからリコールがかかった場合にも、所有者と使用者に通知が送られる。これは車検を取り直す時に、整備工場などでも調べてくれるだろうが、早めに気づけるのは良いことだ。

また2024年7月からは、一部の自動車保有関係の手続き(OSS)がアプリ上で行なえるようになった。車の使用者や所有者の氏名・住所などを更新する「変更登録」と、車の登録情報を取り消す「一時抹消登録」だ。これまでもパソコンでは電子申請ができたが、アプリでも同じことができるようになった。

スマホからオンライン申請ができるようになった

例えば引っ越しして車の利用場所が変わった場合、管轄運輸支局も変わる場合は、15日以内に住所変更手続きが必要である。ナンバープレートの交換もあるので、最終的には運輸支局へ出向く必要があった。だが2022年から実施された特例措置で、手続きだけ先にオンラインで行なっておけば、車検証は郵送で交換できるようになった。

またナンバープレートの交換は、次回の車検のタイミングまで猶予される。ナンバープレート交換を整備事業者に依頼すれば、自ら運輸支局に出向く必要はない。車関係の引っ越しに関する手続きがかなり簡略されたのは、他にもやることが沢山ある引っ越し直後には助かる。

一方、今回の筆者のように所有者の名義を変更する場合は、アプリ上からは申請できない。権利の移転については、これまでどおり紙の書類を用意し、運輸支局に出向いて手続きを行なう必要がある。所有者が変わることで車検証の記載内容も変わるので、車検証も再発行されることになる。

車検証は現在のところ、紙の券が原本となる。アプリで読み込んで保存したデータ、特に署名付きのPDFは「自動車検査証記録事項」にはあたるが、車検証の代わりにはならないので、紙の原本の保管は必須である。

もう一つスマホアプリと連携できるサービスに、「支払い情報登録サービス」がある。これは自動車税などを登録したクレジットカードで支払いできるというものだが、クレジットカード情報の保持期間が2カ月しかない。

「お支払い情報サービス」とも連携する

よって事前に登録しておくというより、自動車税などの支払い通知が来てから手続きするというものだろう。こうした公共料金の支払いは、銀行のペイジーからオンライン支払いもできるので、全員が手続き必須というわけでもない。支払いの選択肢が増えるということだ。

自動車は法律上、個人の財産という扱いなので、住所変更などオンラインでも可能だが、所有権の移転に関してはオンラインでは簡単にできないようになっている。このアプリはタッチさえすれば誰の車検証でも読み取れるので、いつの間にか車が他人のものになっていた、といったトラブルを避けるうえでは当然の措置だろう。

逆に言えば、車検証という書類をどう保管するかということにも、多少は慎重になったほうがいいのかもしれない。多くの人は車のグローブボックスに入れっぱなしにしていると思うが、暑いからといって窓を開けっぱなしにしてちょっと車から目を離した隙に、第三者に車検証を読み取られるという可能性はある。暗証番号などで守られているわけではなく、車検証の券面に記載のセキュリティコードを入力すれば、誰でも閲覧できる。

他人が勝手に財産権に関わる何かの手続きができるわけではないが、少なくとも車に紐づいている所有者と使用者のフルネームと住所はわかる。これだけで個人が特定できるので、個人情報の漏洩のリスクはある。

ただこの組み合わせだけでそれ以上の情報にアクセスできるかというと、昨今はそういうことでもないようだ。2022年にハローページサービスも終了し、104番号案内サービスも希望者のみ掲載、携帯番号は案内しないなど、制限がかけられて縮小傾向にある。

安心はできないが以前よりはリスクは小さくなってはいるということだろう。利便性とセキュリティのバランスから、今のようなサービス形態に落ち着いたものと考えられる。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。