小寺信良のくらしDX

第29回

2025年、校務DXはどこまできたか

文科省では2023年3月に、「GIGAスクール構想の下での校務のDXについて」という指針を発表した。従来からも校務のDX化はそれなりに行なわれてきたが、この指針では次世代校務支援システムへの取り組みを、各自治体、具体的には各都道府県の教育委員会に求めることとなった。

従来型校務システムと次世代校務システムをざっくり比較すると、以下のようになる。

従来型校務システム次世代校務支援システム
運用形態オンプレミスクラウド(SaaS型)
アクセス職員室等に限定ロケーションフリー
セキュリティ基本ネットワーク制御ゼロトラスト/多要素認証/暗号化
ネットワーク構成校務系・学習系分離論理的に統合・分離
他ツール連携難しいAPI連携・SSO対応
データ可視化個別管理マルチレベル・ダッシュボード表示

すでに業務でクラウドを使っている人からすれば、何を今さら、という感じだろう。だが教育現場における校務は個人情報の固まりであり、ほぼ医療系に匹敵するセキュリティ要件が必要になる。なるべくオンプレで、ネットワークは分けて運用するというのが、これまでの常識であった。

だが子供たちの教育自体はコンピュータ機器の導入によりDX化する一方で、旧来型の校務DX化ではバランスが取れなくなった。また働き方改革という視点においても、職員室に縛られない業務処理や、既存校務システムの費用負担が課題となり、SaaS型を自治体での共同調達という方向性が模索されることとなった。

校務DXの現在地

今年3月に文科省が取りまとめたデータで、「GIGAスクール構想の下での校務DXチェックリスト」がある。これは、学校設置者(自治体)や学校に、どれぐらいまで校務がDX化できたかをセルフチェックしたものである。対象は公立小中学校となっている。

全体的なトーンを見てみると、教職員と保護者間の連絡は、そこそこDX化が進んでいると評価していいだろう。特に生徒の欠席・遅刻・早退連絡に関しては、日々個人個人でステータスが変わるため、DX化を進めたところは多い。

筆者の住む地域でも子どもの中学・高校の欠席連絡は、Classiといった事業者提供コミュニケーションツールで運用されていた。

教員と保護者間の連絡のデジタル化状況

一方で教員と生徒間の連絡は、DX化が進んでいない。

学校内の連絡のDX化の普及率からすると、意外なように思える。ただこれは、教員と生徒間はフェイスツーフェイスのコミュニケーションがベースにあるべきであり、なんでもかんでもアプリでピャーッと済ませるわけにいかないという事情は汲むべきである。

要するに、こうした時間を捻出するために校務DXをやっているわけである。

教職員と生徒間の連絡等のデジタル化状況

このチェックリストは、あくまでも全国平均である。デジタル庁ではこうした調査データを、都道府県別に閲覧できるダッシュボードを公開している。お住まいの自治体を表示させて、全国平均と比べてみるといいだろう。

ここでは東京都の例を見てみよう。さすがに学校数が多いだけあって、ほぼ全国平均とほぼ同じ水準になっている。2023年から始まった取り組みなのでまだ2年分のデータしかないが、FAXの原則禁止が加速度的に進んだのに対し、押印の原則禁止は逆に減っている。

東京都の校務DXの取り組み状況

押印が必要ということは、保護者と学校間において、紙ベースの認証行為が存在するということだ。

ただこれは、わかる気がする。

筆者が経験した直近の例では、高校の課外授業のどの教科を申し込むかにおいて、紙ベースで押印が必要だった。これには別途費用がかかるので、子供が勝手に申し込む、あるいは申し込まないと、後で学校と保護者間で揉めることになるからだろう。

もちろんこうした申し込みは、保護者に対してデジタルでのやり取り、例えばフォームに入力してもらうということも可能である。ただ、それがちゃんとできる保護者なのか、という問題がある。

筆者でも、企業のウェビナーの申し込みをフォームで行なっても、後でまた申し込みを促す一斉リマインダーが来たりすると、「あれ申し込んでなかったかな?」と不安になることがある。

保護者の同意という点に関しては、一旦はDX化にシフトしたが、学校からの連絡を全く見ないという保護者も一定数いる。面倒でもアナログ的な手法の方が確実、という揺り戻しが起こったということだろう。

ダッシュボードにみる「地域差」

ダッシュボードでは、さらに細かい単位での取り組み情報も知ることができる。東京都の場合では、23区および市町村ごとのデータが公開されている。

青いデータのところは、比較的有意な数字が出ているところだ。先頭に「東京都」があるが、これは東京都の平均ではなく、「都立校」のデータである。

東京都内の自治体の校務DX状況

こうしてみると、渋谷区の取り組みが突出している。遅刻・欠席・早退連絡は100%、校内での情報共有も100%を達成している。回答があった学校が26と少ないが、調べてみると渋谷区の公立小学校は18、公立中学校は8なので、ちゃんと全校が回答しているようだ。

渋谷区でも唯一達成されていないのが押印の原則廃止で、これはやはり意識的に廃止していないと見ていいだろう。

2025年4月に公開されたMM総研のレポートは、全国の教育委員会を対象に、明確に次世代校務支援システムの導入に絞った調査である。対象は公立の小中高校ということになる。

これによれば、次世代校務支援システムの導入率は1割に止まっている。また都道府県別では、次世代システムの導入がゼロの自治体も10ある。

次世代校務支援システムの導入・検討状況(MM総研2025年4月22日発表資料)
次世代校務支援システム導入率ごとの47都道府県の分布(MM総研2025年4月22日発表資料)

文部科学省では、次世代システムは共同調達を推奨しているが、提案がないという都道府県は45%に上る。特に小規模な自治体ほど、自分たちで導入できる見込みがなく、共同調達に意欲的であるという。

次世代校務支援システムの共同調達に向けた都道府県の動き(MM総研2025年4月22日発表資料)

校務のエージェント化はアリなのか

2020年から始まったGIGAスクール構想の実施からコロナ禍、そして2023年からは校務の次世代DX化と、学校は休む間もなく変革が求められている。一度稼働してしまえば楽になるのだろうが、導入時期は新旧の方法の両方を実施しなければならず、その負担は大きい。

子どもを学校にやっている保護者からすれば、社会のDX化に比べると学校はまだまだ旧態依然としている部分も多い。例えば大学入試に提出する調査書も、依頼して発行されるまで1週間ぐらいかかる。

総合型選抜で受験する子は全員調査書が必要になるわけだが、一人ひとりの情報がバラバラに存在していれば、まとめるのに時間がかかるのだろう。さらにはそれをやっている時間が取れないので、土日を挟まないと無理、といった事情も垣間見える。

昨今、ビジネスツールとして、エージェント型AIを使った自動化が進められようとしている。データをもとに利用者のニーズを理解し、それに合わせて最適なアクションを提案、実行する。

学習者に対してAIを活用する取り組みはすでに行なわれているところだが、生徒の成績や学習態度、学校生活への取り組みといった評価をデータ化して、AIに分析させるのはいいことなのか、悪いことなのか。

先生も人間なので、評価にはブレがある。前の担任の先生は高く評価してくれたが、今の担任の先生は今一つ、といったことが起こるのが今の学校現場だ。だがそれを平準化することを目的とすべきなのか。

校務がどうなればゴールなのか。押印の例のように、推進する有識者と現場との間で、まだズレは大きいように思える。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。