小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第51回

観光資源再発掘? 冬季キャンプで湧く宮崎

野球に詳しい方なら、WBCに出場する「侍ジャパン」の宮崎キャンプの模様をほぼ毎日ご覧になっている事だろう。スポーツニュースはもちろん、ABEMAでは強化試合の模様が中継されるなど、注目度は高い。

受け入れる宮崎市では、対応に大わらわである。報道陣やファンが宮崎に常駐することから、宮崎市内のホテルはほぼ満室。料金も通常の2倍以上に値上がりしている。安い宿を求めて、高速道路を使っても1時間ほどかかる都城市のホテルまで押さえられているというから、大変なことだ。

今期、「侍ジャパン」のキャンプを目当てに宮崎に訪れる人は約17万6,000人と推定されている。そもそも宮崎市の人口は39万8,000人しかないのに、その約44%にものぼる人が一時的に増えるわけだ。人の流れだけでも市内への影響は免れない。

「侍ジャパン」は過去3回宮崎キャンプを行なっているが、これまでもキャンプ地である「ひなたサンマリンスタジアム宮崎」と市内を結ぶバイパス道が約5kmに渡って渋滞し、この道路を通勤や運送などで日常的に使う市民に大きな影響が出た。

高速道路の渋滞を考えれば5kmは大したことないと思われるかもしれないが、市内中心部からスタジアムまで約13kmしかなく、しかも一般の生活道路である。また市街地の混雑で買い物客らに支障が出るといった報告もある。そもそも渋滞してしまっては、選手の移動もままならない。

ひなたサンマリンスタジアム宮崎は、野球場以外にも多くのスポーツ施設を備える「ひなた宮崎県総合運動公園」の中にある。県の施設ゆえに、普段は駐車料金は無料で、過去の侍ジャパンのキャンプでも無料だった。だがあまりにも渋滞がひどいということで、今年は事前にチケットを1日1,000円~2,000円で販売する。また近隣の民間駐車場も、これを機に1日3,000円程度で駐車場を提供するという。

「便乗商法」と思われるかもしれないが、これまで近隣店舗では無断駐車で迷惑を被ってきた経緯もある。駐車場などタダが原則の宮崎でも、きちんとお金を取って駐車場を管理・運営する方向になってきたとも言える。

「冬場は何もない」から一変

海外旅行が庶民には手が届かなかった1960年代、宮崎は国内旅行で南国リゾート気分が味わえるとして、新婚旅行先として人気があった。昭和天皇の第5皇女である貴子さんと島津久永さんが新婚旅行に訪れたのがきっかけであったという。

だが1973年に円・ドルの変動相場制へ移行とともに海外旅行ブームとなり、観光地としての宮崎は忘れ去られた。だが今、宮崎はプロスポーツの春季キャンプ地として再び活気を取り戻しつつある。

1月にはサッカーの横浜FC、横浜F・マリノス、鹿島アントラーズ、徳島ボルティス、セレッソ大阪がキャンプを行なった。2月にはサンフレッチェ広島、ファジアーノ岡山、FC今治、ヴァンフォーレ甲府、ベガルタ仙台、FCゼルビア町田、ガイナーレ鳥取、V・ファーレン長崎、ツエーゲン金沢、アビスパ福岡、FC東京、横浜FCがキャンプに訪れる。また野球では、2月に読売巨人軍、福岡ソフトバンクホークス、オリックス・バファローズがキャンプを行なっている。「侍ジャパン」が来ない年でも、これだけのチームが2カ月間の間に終結する地というのは、日本では他にない。

問題は、練習場だ。野球場は比較的早期に整備が進み、ひなた宮崎県総合運動公園には硬式野球場が2つ、軟式野球場も2つある。なぜこれだけ広大な敷地が確保できたかといえば、ここは以前この連載でお伝えした、今から360年前の大地震で水没・土砂流出した場所を埋め立てた土地だからである。

一方でプロが練習できるサッカーグラウンドは、明らかに足りていない。先日、海岸沿いの「国際海浜エントランスプラザ」でセレッソ大阪が練習しているところを偶然目撃したが、ここは元々サッカーグラウンドではなく多目的広場である。まわりにフェンスもないので、散歩中の一般人がコート内に簡単に入れてしまうし、ボールも簡単に外へ出てしまう。いくらホテルから近いとは言え、プロが練習に使うグラウンドとしては難がある。

セレッソ大阪が練習していたグラウンドは、実は多目的広場

かつて宮崎シーガイアの象徴として知られたオーシャンドームの跡地は、宮崎県の事業として屋外型トレーニングセンターとして生まれ変わる。ラグビー・サッカー場1面と400mトラックのほか、室内練習場やクラブハウスも用意される。場所は「シェラトン・グランデ・オーシャンリゾート」の隣なので、宿泊施設としてももうしぶんないはずだ。

シェラトンの隣で建設が進むラグビー・サッカー場
隣には400mトラックもある

これまで宮崎といえば春夏のリゾートが中心だったが、冬場の新事業の芽が出てきた。スポーツファンにもお馴染みの場所として認知が高まっており、これに対してどのように地元産業や名産品を結びつけられるかがポイントとなっていく。まだまだ手探りだが、コロナ禍のダメージ回復に、一縷の望みを繋ぐ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。