小寺信良のくらしDX

第1回

「くらしDX」始めます 入学手続き、手書き書類18枚の衝撃

さらば「小寺信良のシティ・カントリー・シティ」

およそ4年間にわたり、「小寺信良のシティ・カントリー・シティ」にて地方独自の事情や課題についてお伝えしてきた。とはいえ当初この連載は、サラリーマンとフリーランスの両立や、東京と宮崎両方の生活というテーマでスタートしたものである。それが2020年からのコロナ禍で、まったく事情が変わってしまい、当初のテーマが実現できなくなってしまった。

そこで編集長と相談の結果、新たに生活や仕事、教育のDX化について考えたり実践していくことをテーマに、新連載をスタートさせることとなった。題して「小寺信良のくらしDX」。

情報社会は多くのデジタル技術によって成り立っているが、生活そのものは未だアナログの部分も多い。人間自体がアナログなので、最終的なインプットはアナログになるわけだが、組織やシステムは効率化が求められた結果、DX(Digital Transformation)していく事になった。現在はその過渡期にあることから、多くの矛盾が発生したり、なかなか思ったように進まないといった問題を抱えている。この連載では、我々のくらしに関わる「DXの今」を観測していきたいと思っている。

新連載の1回目となる今回は、学校への入学手続きとDXの関係を考えてみたい。

なぜか手書きにこだわる「書類」

2020年に作成された「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」により、地方自治体のDX化がスタートした。昨年9月にはこれをリニューアルした「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第2.0版】」が公開されたところだが、目標としては2025年度末までにはシステムの標準化が完了する予定で動いているはずだ。

DX化の一番わかりやすいところとしては、「ハンコの撤廃」がある。これまでなんのために押していたのかよくわかならい、ある種の儀式化していた押印を廃止するところからスタートして、今多くの役所の手続きはハンコレスになっている。

とはいえ、ハンコ不要論が起こったそもそものきっかけは、ペーパーレスだったはずである。それがいつのまにか、ハンコ不要のペーパーが残るという結果になった。そうして生まれたのが、「自署にこだわる」手続きである。

昨年3月、娘の高校入学時にマイナンバーカードがいるということで、下の息子の分と合わせて申請した。受け取りハガキが届き、そこに住所と名前を書いて本人が市役所に持って行くと、受け取れることになっている。

筆者宅はマンション名が長いため、通常の住所記入欄に手書きで書くと、大抵1行で入らない。そのため一定の範囲内に全部入るよう、住所のゴム印を作っている。

マイナンバーカードの受け取りハガキも住所記入欄が狭かったのでゴム印を押し、名前だけは自署で書かせて持っていった。ところが窓口では、「住所も手書きで書かないとお渡しできません」と言う。仕方がないのでゴム印を二重線で消し、その下の隙間に小さく小さく手書きで住所を書かせた。

窓口職員がその小さな小さな手書き住所と筆者の免許証の住所を一生懸命見比べて、ようやくマイナンバーカードが発行されたのだが、そうまでして手書きにこだわる理由はなんだろうか。住所を暗記できているかというテストなのか。筆者と子どもの親子確認もしていないが、実は他人かもしれない免許証の住所と目視照合して何の確認になるのだろうか。

マイナンバーカードは「デジタル時代のパスポート」だそうである。そのパスポート発行方法がアナログなのはまだ仕方がないとして、確認方法に謎が多すぎやしないか。

手書き書類が18枚、公立髙校の入学手続き

今年は息子が志望校の県立高校に無事合格し、「入学のしおり」という冊子をもらって帰ってきた。入学に際しての諸注意が書いてあり、巻末に提出書類が綴じ込みになっていた。それ以外にも書類が複数あり、その数を数えるとなんと18枚もあった。ほとんどの書類にはハンコは不要になっているが、生徒名、保護者名、住所、電話番号をいちいち記入しなければならない。

提出書類の中には、「個人カード」という個人情報を書くものがある。さいたま市に住んでいるときも小中学校で同様の書類があったので、おそらく全国で同様の書類があると思われる。裏面に自宅までの地図を書く、アレである。

この書類は、「学校保管用」と「担任用」の2枚があり、同じものを2枚書かなければならない。おそらく個人情報なのでコピーで運用しないようにという事かもしれないが、だからといって記入者に手書きで同じものを2枚書かせるという運用はどうなのだろうか。

しかも表面と裏面に住所を書かなければならない。1枚の紙でいまさら引き剥がせないのに、裏と表に同じ情報を書かなければならない理由はなんだろうか。紙をペラッとめくれば住所は確認できるだろう。ペラッとめくれない理由はなんだろうか。

高校の授業料を負担してくれる「高等学校等就学支援金制度」は、いわゆる「高校無償化」として始まった制度だ。ただし受給には、保護者の収入制限がある。

これを判定するために保護者のマイナンバーが必要なわけだが、例によって番号を記載するだけでは済まず、カードの裏表をコピーして貼り付ける必要がある。カードには本人の情報や利用者証明用電子証明書が収録されているのに、結局両面コピーと自署による記名で本人を確定する。

収入証明書の代わりにマイナンバーがあればいいというところまで進んだが、申請手続きがDX化されていないのは惜しいところである。高校生の保護者ならほぼ全員が関係する手続きなので、Webアプリ化したりマイナポータルと連動するなどのコストをかけても受益者はかなり多いはずだ。ただ国の制度でありながら受給判定は市町村税の課税額で行なうため、国と地方自治体のDX化の狭間に落ち込んだような制度になっているのかもしれない。

国や地方自治体は、デジタル改革関連6法に基づいて、行政手続きのDX化に取り組んでいる最中だ。国や地方自治体が運営母体である公立校への入学手続きも、行政手続きの一種と考えられることから、DX化の対象となる。

学校教育はすでにICT活用が前提となっており、子供たちには1人1台端末の整備が進められてきた。デジタルを使った学びへと転換が期待される。

一方でその事務や校務はデジタル化とはほど遠いところにあるようだ。入学時の書類など1度書いてしまえば3年は書かなくていいことから、保護者への負担は「喉元過ぎれば」という扱いになっている。だが兄弟がいればその数だけ書かなければならないし、双子だったりしたらいっぺんに2倍の書類を書かなければならない。

子を持つ親にとっては、もっとも早くDX化してくれなければ困る手続きなのだが、このDX化にあと何年かかるのか、しっかり見届けたい。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。