小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第30回

データで見る地方経済の低迷

ここ宮崎県では、4月末から起こった新型コロナウイルス感染第4波の影響で、5月9日より県独自の緊急事態宣言が出され、外出自粛や会食制限などが行なわれている。予定では5月31日までの実施だったが、思いのほか沈静化が早かったとして、予定通りの日程で終了する方向で検討が進められている。

とはいえ、今回の第4波では近隣の店舗や子どもたちが通う学校等で感染者が報告されるなど、従来のアルコールを出す飲食店や養護老人施設での感染とは違ったパターンが見られており、感染ルートや感染者の年齢層が変わってきているのを感じる。

宮崎市内を車で移動していると、空きテナントが目立つようになってきている。空いたテナントビルはリノベーションされるでもなく、空いたままに放置されているのを見ると、暗澹たる気持ちになってくる。コロナ感染による具体的な影響というよりも、度重なる自粛要請で経済活動への意欲が後退しているのを感じる。

今年3月に公開された帝国データバンク宮崎市支店の調査によれば、宮崎県内での休業・廃業・解散を行なった企業は2016年以降増加傾向にあったが、2019年から反転し、2020年には500件を大幅に下回った。ただ2020年中の特徴は、黒字にも関わらず休廃業を決めた企業が過去最多であったことだ。

宮崎県内の休廃業・解散企業の推移
休廃業企業の利益割合推移

元々黒字解散は、経営者の高齢化と後継者問題が解決しない等の理由で増加傾向にあったのは事実だが、2020年には先行きが見えない新型コロナウイルスの影響を悲観し、交付型の補助金や助成金で余力があるうちに、自主的に事業整理を決断したものと思われる。レポートでは、「21年は業績改善の見通しが立たない企業を中心に休廃業・解散を選択せざるを得ないケースが増加するとみられる。」と結んでいる。

実際に宮崎県の企業は景気低迷をどれぐらい感じているのか。今年1月下旬に宮崎商工会議所が、加入企業830事業所にアンケート調査を行なったところ、約65%が売上が減少しているという。逆に増加した事業所は10%にも満たなかった。

<設問1>令和2年12月月末時点での年間売上高は、前年同期と比較してどの程度の影響が出ていますか

その原因の大半は、「来店客や受注の減少」が圧倒的で、75%にも上る。「商品や原材料の未調達・調達遅延」、「営業時間短縮や休業」、「取引先の廃業・倒産」といった具体的な要因を上げたところは少なく、やはりモノを買う、サービスを受けるといった気運減少が大きいのがわかる。

<設問2>売上高が減少したと回答した方の最たる要因は何ですか

ただ、今後廃業や事業承継・譲渡を検討しているところは少なく、できるなら続けていきたいとする事業者は多い。黒字で廃業を決意した事業者は、経営者に行動力や決断力があった少数派であり、帝国データバンクのレポートが指摘するように、今後は黒字化の目処がたたないままの成り行き倒産が増えるという流れは不可避のように見える。

<設問5>今後の経営方針として、どのようにお考えですか

新しい商業施設に興味・関心はあれど…

一方で消費者側の意識はどうか。地元宮崎県の経済調査研究を行なっている、みやぎん経済研究所による今年1月末〜2月上旬の調査によれば、1年前に比べた現在の景気は、悪いと応えた人が67.8%となっており、景気D.I.(Diffusion Index。「良い」回答割合から「悪い」を差し引いた指数)で言えば66.8ポイントとなり、前年調査と比べると34.2ポイントも悪化している。急激な悪化と言っていいだろう。

消費者調査でも景気の急激な後退が見られる

ただ、世帯主職業別で見ると、給与所得やから自営業、あるいは年金受給者まで景気の悪化を感じているのに比べ、農林水産業は「変わらない」とする率が高かった。農林水産業の大半は食品であり生活必需品なわけだが、景気が悪いからといって買わないわけにもいかない。ただ、良くなったというわけでもないところを見ると、物価は安定していたということだろう。

農林水産業では平年並みと感じた割合が多い

実際に景気が悪いと感じる理由を見てみると、購買意欲の低下や定例収入の減少、雇用環境の悪化が大きい。一方物価上昇は、前年である2019年に10%消費税が施行され、圧倒的な影響が出たのに比べれば、今年の影響は限定的である。また今後の景気も悪くなると感じる理由としては、自粛ムードの強まりを指摘する声が大きく、やはり明確にこれといった原因ではなく、「ムード」に左右されているのがわかる。

景気後退の理由は購買意欲の低下がトップに
今後の景気もムード次第

一方で昨年は、宮崎市内の繁華街に大きな商業施設が相次いでオープンした。一つは旧デパートを改装してオープンした「MEGAドン・キホーテ」、もう一つは以前本連載でも取り上げた、駅前の「アミュプラザ」である

「MEGAドン・キホーテ」を中心にリノベーションが進む

同調査によれば、「MEGAドン・キホーテ」への訪問意欲は、「行った」「行きたい」という好意的な意見は7割を超え、高い関心があることが伺える。さらに「アミュプラザ」の場合は、「行った」「行きたい」の合計は9割に届く勢いで、非常に高い関心があると言える。

しかしその一方で、「行った」の内訳を見ると、「MEGAドン・キホーテ」の場合は「また行きたいと思う」が21.9%と、リピート性が低い施設であることがわかる。同じく「アミュプラザ」の場合も、「また行きたいと思う」が29.9%で、同様に低い。

ただ「MEGAドン・キホーテ」を中心としたエリアは、「宮崎ナナイロ」として飲食店も取り込んだ複合商業施設として生まれ変わる予定で、中身はまだほとんどできていない。リピート性を感じさせないのはやむを得ないだろう。

商業施設としてはまだ半分もできていない「宮崎ナナイロ」内部

商業施設は、いわゆる買い物ルーチンに入ることで経営が安定するわけだが、そもそも不要不急の外出が禁止となれば、なんとなく遊びに出かけるといった人の流れができなくなる。目新しさで興味は先行したが、人の流れを変えるまでには至っていない理由は、やはり自粛ムードが大きく影響しているようだ。

ワクチン接種も高齢者から順次行なわれているが、大きく経済活動を行なうのは生産年齢人口と言われる15~64歳である。そこの接種はいつ完了するのか、あるいは接種してどれぐらい有効なのか、わからないことが山積している。

事業者としては、「いつまで耐えればいいのかがわからない」というのが、一番困るところだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。