小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第24回

「駅ビル誕生」で空洞化した街は変われるか

巨大アミューズメント施設爆誕

宮崎駅前にオープンしたアミュプラザみやざき うみ館

今宮崎市内で大人から子供まで関心が高い話題は、宮崎駅前にオープンした「アミュプラザみやざき」である。アミュプラザとは、JR九州と地元企業が開発する駅ビル事業で、小倉、博多を皮切りに、長崎、鹿児島、大分と、各駅に事業を展開してきた。そして11月20日、宮崎駅前にもついにオープンしたというわけである。来年には熊本駅にもオープンする予定だ。

通りを挟んだアミュプラザみやざき やま館

地方が車社会という話はご承知かと思う。上記列挙の駅はまさに各県の玄関口とも言えるメインターミナルだが、福岡の2駅を除き、地元の足としてはほとんど利用されていないのが実情だ。宮崎の中学生などは、自動改札を通る際にわざわざ動画撮影してInstagramにアップする。それぐらい、電車はめったに乗ることがない交通機関なのである。

この11月にオープンしたアミュプラザは、駅ビルそのものではないが、駅に隣接したアミューズメント・ショッピング施設である。道路を挟んで2棟に分かれる。テナントとしては、東急ハンズ、BEAMS、紀伊國屋書店など本県初出店の大手を含む、約100店舗が軒を並べている。

これまで宮崎駅前の役割は、主に自家用車を利用しない人のための、交通の乗り換え地点であった。駅前に大きなバスターミナルがあり、宮崎空港に繋がる電車からバス、もしくはバスからバスへの乗り換え拠点という位置づけだ。そもそもここが目的地ではないため、人が長居する場所ではない。これは東京・大阪などの都会では考えられない事だろう。都会では駅前が一番の繁華街であり、電車に乗らなくても「買い物やレジャーは駅前に行く」ものである。

宮崎駅の主な機能は「バスの乗り換え」

九州各県に展開してきた「アミュプラザ」は、繁華街としてはほぼ見捨てられた駅前に、人を集めることに成功してきている。さて、宮崎ではどうだろうか。

宮崎市繁華街の課題

ここで宮崎市中心部の地図をご覧いただきたい。

宮崎駅から繁華街周辺略図

宮崎駅から西へ延びる高千穂通(たかちほどおり)と、それに交差する橘通(たちばなどおり)が、宮崎市の大動脈である。左側に小さく見える「一番街」というのがアーケード街になっており、この周辺の横道が通称「ニシタチ」(橘通西3丁目付近)と呼ばれる飲み屋街である。地図の黄色線で示したのが、比較的人通り・車通りの多い道である。

繁華街の中心地である一番街から、橘通を渡って駅へまっすぐ抜ける道がある。若草通と書かれた部分は、一番街と同じくアーケード街だ。そこから先の広島通は、駅へ向かっての一方通行である。

若草通アーケード街は、向かいの一番街アーケードの顧客をそのまま誘導しようと、一番街から8年遅れて昭和52年に完成した。筆者の子供の頃の記憶では、一番街よりももっと若者向けのアパレルが中心の、ファッション街であった印象がある。

昭和52年完成の若草通アーケード街

だがそれも昔の話だ。飲み屋街の「ニシタチ」を抱える一番街は夜まで人通りが途絶えないのに比べ、飲食店が少ない若草通周辺は日が暮れると閑散とする。また駅方向へ向かう用事がないので、どうしてもみな橘通を渡った反対側まで足を伸ばさない。現在も若草通は若手オーナーの洒落た小さな店が多いが、それはとりもなおさず、地価が安い事を意味している。

広島通は、道路こそ綺麗に整備されているものの、もはや商店街としての体を成していない。古びた店舗跡が放置されてまるで廃墟のようで、シャッター街と言えるほどの建屋すら残っていない。空き地を利用した大きな駐車場があるが、車もそれほど入っておらずただの空間と化している。夜は好んで歩きたくないような場所だ。

放置され廃墟同然の店舗跡
広大な駐車場も利用率は半分程度

アミュプラザのオープンは、駅前だけでなくこの2つの通りを活性化させるのではないかと期待されている。今一度マップを見ていただきたいが、このルートが一番街と駅前を直線で結んでいるからだ。実際に人通りに変化があるのか、アミュプラザオープン前の11月19日と、オープン後の11月25日とで人通りを調べてみた。時刻はどちらも12時半前後である。

オープン前に広島通から駅方向を見たところ。奥にアミュプラザが見える
振り返って広島通から若草通方向を見たところ
オープン後にほぼ同じ地点から駅方向を見たところ
振り返って若草通方向を見たところ

アミュプラザ付近に人が沢山いるのは当然として、広島通にも歩行者が増えているのがわかる。オープン前に同じ道を歩いたときは、すれ違う人も片手で数えられる程度しか居なかったのだ。アミュプラザのオープンに合わせて、カラフルな電動バスもこの道を通るようになった。つられて一般車も、この道を通るようになっている。

かわいらしい電動バスが繁華街同士を繋ぐ

若草通にも、人が戻ってきている。駅側の入り口には大判焼きの人気店「蜂楽饅頭」の店舗があるが、アミュプラザオープン前は並ぶ人も居なかった。だが今は昔のように行列ができている。

オープン前の若草通
オープン後の若草通

個人による調査なので、正確に人数を調査したわけではないが、「もうここはダメかもしれん」状態から、「普通」ぐらいまでには人が戻ってきている印象だ。

オープン直後の広島通(写真中央)をアミュプラザ屋上から見下ろす

橘通から駅前までは、直線にして約700mである。都会人ならスタスタ歩いて10分といったところだろう。だが車社会の地方人にとっては、700mは歩いて行く距離ではない。間にバス停が3つ4つあって然るべき距離だ。この距離を歩かせるのは、なかなか大変なのである。だが途中に魅力的な店舗が並べば、この通りは宮崎の「センター街」になり得る。

街が開発されても、人の認識が変わるまでは10年単位の時間がかかる。筆者が今住んでいるあたりは15年前にイオンモールができ、道路も整備されて東京から進出の飲食店が建ち並ぶ新中心地とも言える場所だが、旧市内中心部に長く住んでいる人は未だに「あの辺は田んぼしかない」という認識である。

だが広島通は元々の中心地で、車社会の発達=駅の魅力低下とともに空洞化した地域だ。認識が変わるのは意外に早いかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。