石野純也のモバイル通信SE

第91回

ケータイの”短期契約”を繰り返すホッピングは解消できるか?  各社が改善案

SIMのみ契約で新規契約、解約を繰り返すホッピング行為が総務省の委員会で問題視されている。図はソフトバンクの提出した資料

総務省の情報通信行政・郵政行政審議会 電気通信事業部会 市場検証委員会で「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」が開催されている。ここでは、端末購入補助や長期利用者割引などの規制を定めたガイドラインの効果を検証しており、その見直しも示唆されている。

ここでドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社がそろって問題提起しているのが、SIMのみ契約のキャッシュバックだ。

SIMのみ契約のキャッシュバック問題とはなにか

現行のガイドラインでは、端末購入を“伴わない”SIMカードやeSIMのみの契約にも、最大で22,000円(税込)のキャッシュバックが認められている。現金のように使えるポイントも、ここに含まれる。実際、楽天モバイルまで含めた4社は、端末割引とは別に、回線のみMNPした場合にも、それぞれのポイントなどを付与するキャンペーンを実施している。

例えばドコモオンラインショップの場合、「ドコモMAX」「ドコモ ポイ活 MAX」「ドコモmini」の3プランを契約した場合で最大2万ポイント、「ドコモ ポイ活 20」を選択した際には最大1万ポイントのdポイントを付与。au Online Shopでも、「SIMデビューキャンペーン」として、最大15,000ポイントのau PAY残高を特典としている。ソフトバンクであればPayPayポイント、楽天モバイルなら楽天ポイントといった具合で、各社とも同様の取り組みを行なっている。

キャリア各社は、端末購入を伴わないSIMカード(eSIM)のみの契約にも上限ギリギリのポイントを付与している。画像はドコモオンラインショップのキャンペーン

こうしたキャッシュバックはキャリア同士の流動性を高める一方で、短期解約を繰り返す「ホッパー」の存在が問題視されている。

現行のガイドラインでは、違約金が1,000円までしか認められていないからだ。また、回線の継続利用を前提とした利益提供も一律で禁止されている。そのため、キャッシュバックするポイントを22回に分割して、毎月1,000ポイントずつユーザーに提供し、解約したら打ち切りにするといったことができない。

端末割引の場合には、割賦での支払いや1年後なり2年後なりに下取りに出す購入プログラムが事実上の縛りとして機能する一方で、SIMのみの場合、ユーザーが気軽に転出できてしまう。22,000円は事務手数料や転出までの料金、違約金の上限を大幅に上回っているため、ユーザーにとっては、回線を転がしていった方が利益になるという事態が生まれているというわけだ。

短期間で契約を変えた方が、お得になるインセンティブが生じていると言えるだろう。

KDDIが提出した資料。現状では、継続利用や分割提供が禁止されているため、一括でポイントやキャッシュバックを付与しなければならず、短期解約の抑止力が働かない

短期解約は、キャリアにとっては大きなコストになってしまうため、不公平が生じやすい。かと言って、キャッシュバックを止めてしまうと、他社への流出が増えてしまう。4社がお見合いのようになって、止めたくても止めづらい割引になっているというわけだ。ゲーム理論における典型的な「囚人のジレンマ」に陥っていることが分かる。

キャッシュバック目当てをいかに防ぐか

であればキャッシュバックの上限額をもっと引き下げればいいのでは……と思われるかもしれないが、ここには流動性が低下してしまうジレンマがある。実際、総務省の検討会でヒアリングに応じたソフトバンクは、あまりに額を下げることによる競争の停滞を懸念していた。額そのものよりも、キャッシュバック目当てで契約・解約を繰り返すユーザーだけを抑止できない点を問題視していると言えるだろう。

ソフトバンクは案として提供額の減額を出している一方で、極端に減額してしまうと競争の鎮静化を招くとしている

キャリア側から案として出ている対応策は、大きく分けて2つある。

1つは、分割での支払いを可能にするというものだ。上記のように、複数回に渡ってポイントバックしていくようにすれば、その間に解約するメリットが失われる。もう1つは、契約から一定期間経過後にキャッシュバックを渡すというもの。キャッシュバックを得たいユーザーは、その間契約し続けるため、料金プランなどの形でコストも回収できる。

KDDIの案。利益提供を分割して、短期解約を抑制する方式だ
こちらもKDDI案で、すぐにではなく、一定期間経過後に利益提供することで短期の解約を防ぐ方法。いずれも、現行法では規制により実現できない

キャリアによっては、違約金の上限撤廃、もしくは引き上げを要望しているところもある。例えば、KDDIは違約金の上限が1,000円に決まった経緯を改めて掘り起こしており、その根拠に疑問を投げかけている。当時の有識者会議では、消費者へのアンケートに基づいてこの金額を決定しており、参加者の間でも物議をかもしていた。利用者に聞けば、安い方がいいと答えるのは当たり前だからだ。

KDDIは、違約金の上限である1,000円も過度な規制として見直しを求めている

ドコモも、キャッシュバックより著しく低い違約金が、短期解約の原因の1つになっていると見ているようだ。仮に違約金がもう少し高ければ、キャッシュバックで得られる利益が減るため、ホッピングは沈静化する可能性もある。また、ソフトバンクが短期解約時に、キャッシュバックを返金する仕組みを認めるようなアイディアを出すなど、さまざまな仕組みが提案されている。

ドコモも、違約金の低さが短期解約の歯止めになっていないことを指摘している

もう一つの論点 「端末購入補助」

4社が見直しを求めた短期解約時のルール作りだが、この委員会では第1回に端末購入補助の見直しも示唆されていた。日本のルールは、複雑かつ上限が厳しすぎることを示すため、韓国での制度変更を詳細に検討していたほどだ。

実際、ソフトバンクなど、一部キャリアは端末購入プログラムでの下取り価格を決定するプロセスが、複雑怪奇になりすぎていることや、中古買取事業者の算出した平均値に疑問を投げかけており、ルールの緩和を要求している。

ソフトバンクは、端末購入プログラムの買取価格が低くなることは消費者にとって不利益と指摘。この点では、“実質1円”まで問題視するドコモと意見が真っ二つに分かれている

ただ、その他のキャリアは端末割引についてはほぼスルーといった状況で、大きな関心を示していない。むしろ、ルールが緩和されることで、再びキャッシュバック合戦になることを懸念している節がある。実際、ドコモは端末購入プログラムの下取り価格から事業者の裁量を排除するよう、より厳しい案を提案しているほどだ。取りまとめ案は5月から6月ごろに出される予定だが、その議論の行方にも注目しておきたい。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya