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「空間をノイズキャンセリング」 NTTが開発 耳を塞がず静かな空間を作る
2025年11月13日 15:00
NTTは11月13日、空間全体の騒音をリアルタイムで制御する「空間ノイズキャンセリング技術」を発表した。耳栓やイヤホンなどを使わずとも、複数の騒音源が混在する環境で快適に会話や作業を継続できる音空間を実現するもので、今後はモビリティ、オフィス、住環境などでの活用を視野に入れる。
この技術の背景には、WHO(世界保健機関)やITU(国際電気通信連合)が推奨する「セーフリスニング」に対する国際的な注目やガイドラインがあるという。特に80dBを超える騒音環境では、聴力への悪影響が懸念される中、音環境の改善は人々の健康維持や生活の質の向上に直結する課題とされている。NTTではこうしたニーズに応える形で、「耳を塞がず、静かな空間を作る」ことを目的に、空間全体の騒音をリアルタイムで制御する新たな音響処理技術を開発した。
従来のノイズキャンセリング技術は、主にヘッドフォンやイヤフォンを用いた耳元の音の抑制に限られていた。対して、今回の技術は、空間全体にわたる騒音を対象とする点が大きく異なる。特定の装着機器を使わずに、数メートル四方の範囲で騒音を抑え、自然な会話や作業を可能とする環境を構築できる。
これまで動的に変化する音環境では、空間内の多数の音を識別し、音の位置や音色、広がり方をすばやく検知・追従することが困難であったという。これらの課題は音を観測するためのマイクの数が少ないことが根本原因であったとしているが、実際にはマイクを増やしてもプロセッサーの処理コストや消費電力が増加するという問題も発生していた。
これを解決するため、GPGPU(General-Purpose computing on Graphics Processing Unit)を用いた高速な音響処理基盤を開発した。スピーカーとマイクの音響データを、従来のようなCPUやRAMなど複数のノードを介さずにGPUへ直接転送する構成とすることで、処理遅延を従来の約1ミリ秒から、数マイクロ秒まで短縮。音の発生から抑圧音の再生までを極めて短時間で完了させることで、動的に変化する騒音に対しても高精度に追従可能となった。
さらに、広範囲の騒音を対象としながらも、すべての音に均等に反応するのではなく、人が不快に感じやすい音の広がり方に着目。このアプローチにより、処理能力に制限のある車載機器や住宅設備などにも適用可能な省電力性と応答性を両立させた。
実際に行なわれた車室内での評価では、騒音エネルギーを数百ミリ秒以内で半減させる効果を確認。突発的な騒音に対してもリアルタイムに追従し、従来技術では対応しきれなかった変動性の高い騒音にも精度を維持しながら対処できることが示された。
今後の利用例としては、モビリティのほか、オフィスの会議室やイベントスペース、線路・高速道路沿いの騒音対策、宿泊施設などを想定。例えば会議室で周囲の雑音を抑えて、内部の会話が聞き取りやすい空間を作る、あるいは住宅において壁面に本技術を導入し、近隣からの騒音を抑制するといった応用が期待される。ホテルなどの宿泊施設でも、隣室からの音漏れを防ぐための手段としての導入も検討されている。
マイクとスピーカーの設置位置に制約がある環境への対応についても、今後は専用デバイスや既存設備との組み合わせによる柔軟な構成が模索される見通し。また、処理基盤についてはNPU(Neural Processing Unit)への展開も可能で、将来的な省電力化や実装の幅も広がるとしている。
本技術は、11月下旬に開催される「NTT R&Dフォーラム」でもデモ展示を実施予定。来場者は実際の環境における空間的騒音制御の効果を体験できる。







