ニュース

誹謗中傷の抑止を狙う「AI炎上チェッカー」 弁護士ドットコムが無料公開

弁護士ドットコムは7月4日、SNS投稿のリスクをAIが診断する無料アプリ「AI 炎上チェッカー」の提供を開始した。SNSをはじめとするインターネットサービスの投稿前の文章に対し、「攻撃性」「差別性」「誤解を招く表現」の3項目からリスク評価。投稿前の文章に修正を促すことで、誹謗中傷やネット炎上の未然防止を図る。アプリはiOSおよびAndroidで配信されている。

炎上チェッカーのクローズドβテストは2025年4月に実施され、企業広報担当者や自治体職員、政治家、インフルエンサーなどからフィードバックを集めていた。誹謗中傷や炎上リスクへの不安が大きいことが背景にあり、正式版では一般ユーザー向けに無償提供される形となった。

同日、弁護士ドットコムの創業20周年にあわせて、「誹謗中傷・炎上をなくすには」をテーマにしたシンポジウムが開催された。シンポジウムには、誹謗中傷被害を受けた2人の当事者が登壇した。

誹謗中傷は生活と人間関係を壊す

インフルエンサーのMINAMI氏は、TikTokでの加工動画とYouTubeでの映像との印象の違いから、容姿に関する否定的なコメントが相次いだと説明した。また、YouTube動画の一部が切り取られてTikTok上で拡散され、話し方や食べ方に関するマナーの指摘が広がったほか、動画に登場した家族への批判も見られたという。加えて、個人情報の特定や悪意あるメッセージの受信が続き、日常生活にも影響が生じたと語った。

MINAMI氏

タレントの渡邊渚氏も、「人格否定や根拠のない噂」に苦しみ、家族・友人・仕事関係者にも被害が拡大。友人への殺害予告や、自身の著書に包丁が刺された写真が送られるなどの被害を受け、「家から出るのが怖くなった」と明かした。現在は一部で警察への相談や法的措置も検討している。

誹謗中傷そのものは、発信する側に責任がある行為だが、トラブルを避けるためには投稿前の注意も有効とされている。両氏は、「SNS投稿は相手にどう伝わるかを意識すべき」と発信前のリスク確認を訴えた。

タレントの渡邊渚氏

プラットフォーマーの対応の遅さを指摘

弁護士の清水陽平氏は、誹謗中傷は名誉毀損やプライバシー侵害が複合する問題だとし、証拠保存の重要性を指摘。証拠の記録には、スクリーンショットよりも、投稿のURLや時刻を含んだ状態が分かる形でPDF保存が望ましいという。また、プラットフォーマーの対応の遅さにも触れた。Meta(Instagram)は比較的迅速に対応する傾向があるものの、特にXの開示請求には、2カ月以上かかる例もあり、欧州に比べ日本の対応は不十分とし、法整備やプラットフォーマー側の対策強化を求めた。

弁護士 清水陽平氏

シンポジウムに登壇した衆議院議員・大空幸星氏は、NPO活動の経験をもとに、誹謗中傷の加害者の多くが「無自覚」であると指摘。調査では、約53%が「誹謗中傷と認識していなかった」と回答しており、心理的背景の理解が啓発の鍵になると述べた。また、昨年4月に成立した「情報流通プラットフォーム対処法」により、XやMetaなどに対し投稿削除・開示対応を7日以内に行なう義務が生じたことに言及。「投稿してはいけない情報」という認識の浸透に期待を寄せた。

衆議院議員 大空幸星氏