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東大、AIで小惑星リュウグウの全岩石を高速自動解析 世界初

東京大学は、AI(深層学習)を活用し大量の岩石を高速・高精度に自動識別するアルゴリズムを世界で初めて確立した。これまで研究者が一生をかけても識別できなかった膨大な数の岩石を高速に自動解析するシステムで、小惑星リュウグウとベヌーの表面を覆う全岩石(のべ350万個)を識別することで、2つの小惑星の成り立ちの違いを解析した。地球上での土砂災害や鉱山、トンネル工事で発生する土砂の分析も瞬時に行なえる。

岩石は、太陽系内のあらゆる岩石天体に普遍的に存在し、岩石の性質や分布を詳細に把握することは、自然環境や地質学的現象の解明など、幅広い分野で重要な要素となる。しかし、岩石の分布を把握するのは簡単ではなく、大小さまざまな形状の土砂が膨大な数含まれる集合体を対象とすると、途端に難易度が増してしまう。また、正確かつ客観的で再現性のある解析は手作業では困難だった。

今回の研究では、約7万個の岩石の輪郭データから、「CNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)」によって岩石を高速・高精度に自動識別する手法を確立。大量の岩石を同一の判断基準で画一的に、再現性を担保して解析可能になった。

このアルゴリズムにより、JAXAの「はやぶさ2」、NASAの「OSIRIS-REx」ミッションで得られた、小惑星リュウグウとベヌー表面の高解像度画像約1万枚から、合計約350万個の岩石を識別。画像間の重複を取り除き最終的に合計約20万個の岩石のサイズ・形状・位置の分布を解明した。これは、両小惑星上に存在する大きさ1m以上の岩石全てを記録・解析した革新的な成果としている。

この解析結果から、両小惑星の成り立ちについても解明が進み、リュウグウは自転が遅いために表面の岩石が赤道から極へ流れ、反対にベヌーは自転が速いために極から赤道へ岩石が移動していることがわかった。一方で、ベヌーでは、極方向の移動の痕跡も認められたため、かつてはリュウグウ同様に自転が遅かったと推察できる。

理論的計算から、こうした天体上での物質の移動方向は、ある自転周期を境に数時間異なるだけで逆転することも分かった。これは自転周期の変遷に伴って天体の姿が大きく変容したことを意味し、自転速度のわずか数時間という差が、現在の小惑星の全体形状に影響を与えていたという極めて重要な知見になる。

自転周期の違いが駆動する多様な小惑星の進化:ある自転周期を境に、自転周期が遅い場合表面の土砂は極へ、速い場合は赤道へ移動する。さらに速くなると土砂は宇宙空間に放出され月を形成し、二重小惑星となる。自転周期の違いが大きな鍵となり、統一的に多様な小惑星の描像を説明することができる

今回開発した岩石の自動識別アルゴリズムは、手作業では解析に2週間ほど要する画像を数秒で解析可能。これにより研究者が一生をかけても解析しきれない膨大な数の岩石でさえ解析可能なったという。

さまざまな産業界での応用も期待される。例えば斜面の常時モニタリングによる防災・減災システムへの利用や、鉱業・土木・建設現場でのドローンや定点カメラを活用した簡便で迅速な資材管理、都市インフラの点検や農業分野における土壌・地盤状況の解析など、多岐にわたる分野での応用が期待されている。