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空輸をトラックより安く ANAとロジレスが物流DXで貨物室フル活用

ANAとEC自動出荷を手がけるロジレスは、2月27日、空輸と物流DXを連携させ、効率的なEC物流を構築したことを発表した。日中にスペースが空きがちな国内定期便の貨物スペースを物流DXにより活用し、「物流の2024年問題」で翌日配送が難しくなったEC販売事業者の配達範囲を拡大。関東地区発、中国・四国地方の岡山以西の翌日配送が可能になり、今まで難しかった島嶼部を除く九州地区全域への翌日配送も実現する。

今回のEC商品を積んだコンテナがANA655便(羽田発岡山行き)に搭載される様子

従来はEC事業者の担当者による受注処理を経た後に出荷指示が倉庫に送られていたため、倉庫にデータが届くまでに時間がかかっていた。また、出荷のタイミングで配送手段を選別する必要があり、航空便を活用しようとしても、最も早いタイミングで翌日早朝便へ搭載されることが一般的だった。

ロジレスによる物流DX推進により、客からのオーダー、倉庫における発送作業、ANAの飛行機の貨物空きスペース活用までをシステムで一括管理し、輸送までのプロセスを簡素化することが可能になった。これにより、航空便搭載までのリードタイムを最大で4時間短縮。日中の国内線定期便の出発間際まで荷物を受け付けることが可能になり、貨物スペースを有効に活用できるようになった。

ロジレスのシステムでは、コンテナに複数の事業者の荷物を混載可能で、積載率を向上。従来のトラック輸送と比べ、同等かそれ以下の輸送単価に抑えることができるという。

従来よりも広い範囲での翌日配送が可能に

ANA Cargo 常務取締役 末原聖氏

ANA Cargo 常務取締役の末原聖氏は、最初に「物流の2024年問題」への航空貨物の活用を考えるにあたって「まずお伝えしなければならないことは既存の輸送力を十分に活用できていない点だ」と述べた。簡単にいうと飛行機は空いている。国内線の貨物輸送は初便帯と終便帯に集中しており、ほとんどの便でスペースに空きがある。国内旅客定期便の貨物重量利用率は約20%。この空いたスペースを活用することで、年間125万トンの輸送力を提供できるという。

特に、10時から17時の間に出発する昼間便は空きスペースが多い。主要3幹線と呼ばれる羽田と千歳・伊丹・福岡を結ぶ需要の高い便においても平日のコンテナの搭載率は約30%に留まっている。主に中・大型機が運行しているこの3路線の空きスペースを活用することで1日あたり10トントラック140台分の輸送力が提供可能になるという。

ANAではこの空きスペースを活用するために、4月には対象便を限定して、トラックによる陸送と比較しても競争力のある新運賃の設定を予定する。ただし国土交通省への届出はまだ済んでいない。

なおANA Cargoでは一般の顧客でも簡単に予約できるポータルサイトを提供している。スマホやパソコンから24時間空きスペースを確認し、予約ができる。2024年秋にはAPIも公開予定で、多様な取引先とシステム連携することで新たなビジネスモデル構築を目指す。

今回のロジレスとの提携も秋にはさらに拡大し、自動化する。現在は一元管理できていないのでマニュアルで作業しているという。また、今回の取り組みは空きスペースを利用するものなので、トラックで運送した場合に比べても追加の環境負荷は低いという。

「早く、安く、無理なく荷物を運ぶスキームを提供する。顧客は高い利便性を持続的に享受できる。航空搭載までのリードタイムを最大4時間短縮でき、輸送時間を大幅に短縮できることで従来よりも広い範囲で翌日配送が可能になる。荷物は航空コンテナのまま荷姿を変えることなく搬送することで大幅に労力を短縮できた」と述べ、「まったく新しいEC物流をローンチすることで、今後のEC市場の成長にも貢献できることで大いにやりがいを感じている」と語った。

最初は倉庫や路線を限定して実施するが、「追加アセットは必要ないので、ニーズがあればどこでも広げられる」と考えているという。売上目標については「現時点では立ててない。現在は実証実験の段階」とのことだった。

トラック利用よりも早く安い

ロジレス 代表取締役CEO 足立直之氏

ロジレス 代表取締役CEOの足立直之氏は「よりお客様の手元まで届けるラストワンマイルのサービスを手がける」と述べた。「安く、早く、無理なくエンドユーザーまでお届けできるサービスを構築できた。東京から出た荷物が鹿児島まで翌日に到着する。航空便は高いというイメージがあると思うが、データを活用し、効率よく荷物を集めることでトラックよりも安く運べる。旅客機の空いている部分を使わせてもらうので無理なくサービスが実現できる」と語り、「従来どおりトラックで運ぼうとすると『物流の2024年問題』によって配送時間が長くなり、翌日配送可能エリアはどんどん狭くなる。飛行機を使うと、従来よりも広い範囲で翌日配送が可能になる。早く届くことはやはり魅力的」と述べた。ECサイトのアンケート結果を見ても、「早く届く」ことは利用者から高く評価されているという。

オーダーから飛行機に搭載されるまでの流れ。「LOGILESS」ではOMS(受注管理システム)とWMS(倉庫管理システム)が一体となっており、受注情報を速やかに倉庫側と共有できることから日中の早い時間帯に関西以西に向かう荷物を選別可能だという

そして「これまでは日本国内に複数の拠点を置いて、トラックでも配送できる多拠点を維持するものだった。そのためには資本が必要。ANAさんとの取り組みで簡単に安く早く届けられるようになる。物流がボトルネックになっているなかで新たな常識を作ることができる仕組みだと考えている」と語った。特に九州に関しては従来の陸送よりも20%安いという結果が出たという。

現段階では実証実験で、本格的なサービス展開は4月以降とのこと

荷物の荷姿を変えず、そのままコンテナを搭載

ANAの貨物上屋

EC商品のコンテナへの搭載は、事前に物流倉庫内で行なわれている。それがそのまま空港に運び込まれて、航空機に積載される。物流倉庫でのピッキングにはロジレスのシステムが使われている。

一連のフローも実際の荷物が搭載される様子とともに紹介された。今回運ばれた荷物は主にアパレル商品。今後はさまざまな商品を対象としていきたいとのこと。あいにくの強風のため、やや遅れたものの、ANA羽田発岡山行きは無事に旅立っていった。

ANA貨物上屋にトラックで荷物が運ばれてくる
フォークリフトでコンテナを降ろす
コンテナ内のパレタイズされた荷物。主にアパレル系とのこと
貨物上屋から駐機場の飛行機へ搬出
コンテナを駐機場の飛行機に搭載
ブロックアウト(離陸のために車輪止めブロックを外すこと)
駐機場から出発スポットへ
滑走路へと移動していった