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タクシー業界の緩やかなキャッシュレス対応。日本交通のSquare導入

日本交通のタクシーにはSquareのステッカーが貼られ、クレジットカードに対応していることが分かるようになっている(なお、写真は2016年のもの)

タクシー業界のキャッシュレス化は進んでいる。大手を中心に、車内でのキャッシュレス決済はすでに一般的だが、現在でも現金のみのタクシーというのはある。大阪を中心に1日に300台以上が稼働している日本交通にキャッシュレス化の現状と課題を聞いた。話を聞いたのは、同社業務室の板持信夫氏。

段階的に希望者がSquareを採用

日本交通は、大阪周辺を中心に事業を展開するタクシー会社。東京にも同名のタクシー会社はあるが別会社で、創業は大正時代に遡る。タクシーに加えて、高速バスや路線バスなどの事業も運営しており、大阪、京都、鳥取といったエリアでサービスを提供している。

同社がキャッシュレス化を開始したのは2016年のことだった。もともと同社では法人向けのタクシーチケットの利用が多く、その売り上げが大きな割合を占めていた。キャッシュレス化によって法人チケット利用が減少することを懸念していたという。また、キャッシュレス決済の機器やサービスが日進月歩で変化する中、「どの時点で導入すればいいのか悩んでいた」(板持氏)という。

とはいえ、その頃になるとタクシー乗務員にもクレジットカード非対応による機会損失の危機感が出てきていた。その結果、乗務員組合からもクレジットカード対応を希望する声が上がってきたため、同社の澤志郎社長も導入を検討。当時、澤社長はSquareの存在に興味を持っていたため、まずは一部の乗務員から試験的に導入を開始したという。

2016年当初に導入していたのはこのタイプ

「タクシー業界は高齢化が進んでいる」(板持氏)ため、いきなり全乗務員に強制すると、使えない人が出てしまう懸念があったからだ。そこで、組合の有志数人でまずは試験的に導入したそうだ。

当時は、スマートフォンのイヤホン端子にSquareのリーダーを接続して、カードをスワイプして決済を行なうタイプで、乗務員のスマートフォンに接続し、会社側で未収管理などもできるように設定した上で試験運用を行なった。

結果として、「思っていたよりも使いやすかった」という結果になった。トラブルもほとんど発生せず、会社側の未収管理も容易。Squareからの入金を毎日にしたことで、会社側、乗務員側双方で問題ないという判断に至ったという。

そこで、「使いたい乗務員が使ってもいい」という形で導入を進めたそうだ。同社では、以前からタクシー無線に加えて自動車電話を搭載していたが、それをスマートフォンに置き換えることになり、それを機に本格的な導入に至った。

現在はスマートフォンとBluetoothで接続し、タッチ決済にも対応した新型が導入されている

関西圏では私鉄系列のタクシー大手が多く、比較的早い段階からキャッシュレス化が進められていた。そうした大手はコストを掛けて決済端末を導入していたが、日本交通はそれに対して安価でスマートフォンがあれば使えるSquareを導入。コストを抑えてクレジットカード対応できることがメリットだと板持氏は話す。

とはいえ、現時点でも「全車がキャッシュレス対応」とは言えない状態で、基本的には乗務員の意思に任せているという。「お客様にも日本交通は昔からクレジットカードが使えないという認識があるらしく、使えない車でもトラブルはない」と板持氏。無線配車では「カードを使いたい」という場合には対応するタクシーを配車しているそうだ。

ただ、タクシー乗務員には「都市伝説」があるという。例えば「とある場所に行くと長距離の利用客がいる」といった具合に、都市伝説的に広まる噂があって、「クレジットカード利用客は長距離」といった噂が広まると、機会損失を避けるために導入を進める乗務員がいるというわけだ。

導入時の課題。乗務員満足度は「そこそこ」

当初は導入時期の関係でイヤホン端子接続型だったSquare Readerだが、今はBluetooth接続型でクレジットカードのタッチ決済にも対応する新型の導入となっている。当初は「小さくて使いにくい」という声もあったそうだが、新型は使い方も簡単で「悪い評判はない」(板持氏)という。

決済端末の導入では、「乗務員の満足度を気にしないといけない」と板持氏は強調。乗務員にとって働きやすく、ストレスのない環境を構築していく中で、Squareは導入コストを含めて比較的安価に導入でき、「乗務員の満足度もそこそこある」と板持氏。

Squareの使い方に関する講習も会社として実施。新人研修で支給するスマートフォンの使い方講座を開いており、そこでのSquareの指導もしているそうだ。その際に、Squareを使いたいという乗務員に提供するという形を取っているという。

ただ、すべての乗務員がSquareを使っているわけでもない。現金や法人チケットだけでいいという乗務員もいて、そうした場合は無理強いはしない方針。これには同社の業務体系も影響しているようで、同社には固定給で働く乗務員もいて、歩合給ではないため機会損失にそれほど過敏にならなくて済んでいるからのようだ。

コスト問題では、同社のように数百台規模のタクシーを抱えていると、Squareが安価と言え機器導入コストも馬鹿にならないが、国が進めるキャッシュレス推進施策の補助金も活用して進めてきたという。

日本交通

決済手数料があっても「これまでと変わらない」

キャッシュレス決済導入後は、決済手数料という課題もある。Squareはクレジットカードで3.25%(または3.95%)の手数料が必要だが、板持氏は「考え方次第」だと話す。

そもそも、これまでも法人チケットの利用には「それなりの経費」が掛かっていた。チケットを処理するための費用として、郵便の発送や振込手数料などがあり、売上の振り込みも1カ月単位だ。同社では、「もろもろの経費と決済手数料を相対すると、そんなに変わらないという判断」(板持氏)をしたという。

逆に、全て現金のタクシーであれば決済手数料分の経費がかさむことになるので、例えば、これまで現金のみだった個人タクシーなどでは費用対効果の精査が必要になるだろう。

そもそもタクシーは許認可事業であり、東京のタクシーが料金を申請して国の認可を受け、それに地方が合わせるというのが通常だ。その中で「利益率は決まっていて、5%前後となっている」(板持氏)。人件費や燃料費などのコストに決済手数料も含まれているが、毎年改定されるわけでもなく、カード利用が増えるにつれて、当初想定した利益が削られる形になる。

大阪ではタクシー会社によって4種類の料金があり、その中で利益を削ってでも安くするといった形での競争があるそうだ。とはいえ、利益率が5%前後だと競争にも限界があり、キャッシュレス決済による利用客増や乗車距離の拡大は重要な課題となる。

ただ、Squareでは毎日の入金があり、「事務処理も楽になった」と板持氏。同社ではタクシーチケットの利用が多かったこともあり、現金の取り扱いは相対的に少ないと言うが、それでも乗務員が営業所に戻って入金機に現金を預けて――といった作業が減らせることは、このコロナ渦ということもあって助かっているという。

同社では、乗務員に対して業務用スマートフォンを配布している点も、Square導入の敷居が低い理由になるだろう。決済用端末、車載ナビ、タクシー配車アプリ用のスマートフォンといった具合に、「今のタクシーは車の中がぐしゃぐしゃ」(同)という状態。スマートフォンなら全てを1台でまかなえるうえに、さらに翻訳機能も使える。

そうしたメリットがあるため、スマートフォンを導入したことで、Squareの導入もスムーズに進んだようだ。

通信障害でも請求書機能が有効

タクシーでのキャッシュレス決済では、その仕組み上どうしても通信機能が必要となる。Squareの場合はスマートフォンの通信を使うが、いずれにしても通信環境が悪いと決済ができないという事態に陥る。昨年末にはNTTドコモが大規模な通信障害を発生させ、タクシーの決済端末の通信も影響を受けていた。その余波で、スマートフォンの通信も障害が起こり、板持氏によればSquareでの決済ができないこともあったという。

それ以外でも、降車場所によっては通信環境が悪い場合もあるだろう。そうした場合、基本的に日本交通では現金で支払いを行なってもらうことが大前提だが、緊急避難としてSquare請求書を使うこともあるという。

タクシーには無線機が配備されているため、電話が通じなくても乗務員が本部に連絡を取ることができる。そこで現金の手持ちがなくクレジットカードも使えなかった利用客に対して、携帯電話番号を尋ねたり、名刺を預かったりするなどして連絡先を受け取り、Squareの機能である請求書のリンクをSMSで送る。

受け取った利用客は、サイトにアクセスしてオンラインでクレジットカード決済を行なえば、後からタクシー代金の支払いが行なえるわけだ。この手法はドコモの通信障害時にも活躍したそうだ。クレジットカードでの支払いを試して失敗しているため、クレジットカード記載の名前は確認できて、携帯番号も受け取っており、これまで特に支払いがないといった被害もないという。

同社はハイヤー事業も行なっており、普段からSquare請求書を使った取引を活用。他にも旅行者の長期予約などにも活用できるとして積極的に利用していたことから、トラブル時にもスムーズに請求書機能を利用できているようだ。

日本交通では、Square導入による大きな問題は発生していないとのことで高評価。コロナ禍による訪日観光客の減少によって流しの利用客減にも繋がったが、もともと法人チケットに強い同社としてはインバウンドはそれほど狙っていないという。とはいえクレジットカードの対応自体は、観光客対策としても重要。

また、それまで法人チケットを使っていたが、クレジットカード対応によって法人カードに移行するなどの変化もあったとのことで、チケット発送や未収管理、入金がひと月ごとというコストがなくなっているのもメリットだろう。

他の決済手段への拡大については、現在はSquareから一括して入金されている関係上、同じように入金元がSquareに統一されるのであれば拡大したい考え。「別途コード決済に対応する」ということは考えていないという。

タクシー業界では、乗務員の高齢化や競争、地方の交通弱者へどのように貢献するかといった課題に加え、タクシー配車サービスやMaaSへの対応など新しい取り組みも求められている。日本交通では、キャッシュレス決済によって業務効率の改善や機会損失の低減を図っているようだ。