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「人と技術のハイブリッド」で物流自動化目指す研究所。鴻池運輸

鴻池運輸は3月3日、「鴻池技術研究所 イノベーションセンター」を東京都品川区八潮にある「東京レールゲートWEST」内に開設した。AGV(無人搬送車)やAGF(無人搬送フォークリフト)などの最新自動化機器の開発・導入実験のほか、国内外のスタートアップの持つ技術の実証研究など、物流現場での技術イノベーションを加速させるオープンイノベーション拠点として2年前から構想し、2020年4月から具体的な準備を進めていた。面積は205坪。本社人員8名のほか、現場の作業員なども組み入れて、AGVやAGFのような大型機器の運用や、AMR(人協働自律移動ロボット)を使ったピッキングの効率化など、倉庫の実情を模擬した親和性を評価する。

左から鴻池運輸 鴻池技術研究所長 則竹茂年氏、代表取締役兼社長執行役員 鴻池忠彦氏、取締役兼専務執行役員 新事業開発管掌、新事業開発本部本部長 鴻池忠嗣氏

目指すは「人と技術のハイブリッド」

鴻池運輸 代表取締役兼社長執行役員 鴻池忠彦氏

鴻池運輸 代表取締役兼社長執行役員 鴻池忠彦氏は、はじめに同社の企業理念を紹介。新型コロナウイルス禍や自然災害への対応などで物流の重要性が改めて注目されているいっぽう、人手不足問題は深刻化していると現状を改めて解説した。「現場で蓄積されたノウハウを一元化・見える化して水平展開することが重要だと考えて、技術研究所イノベーションセンターを開設した」と述べた。使いやすく生産性が高く、かつ安全な自動機器を開発し、現場改革と付加価値の高い新技術の開発を進めていく。

センター開設の目的は「多岐に渡る作業現場を再現し、実効性を確認してから現場に導入すること」「ベンダーや顧客が新技術に触れることで技術革新を促進すること」「顧客を巻き込んだ技術革新拠点とすること」の3つだと述べた。

鴻池運輸 取締役兼専務執行役員 新事業開発管掌、新事業開発本部本部長 鴻池忠嗣氏

イノベーションセンターの概要説明は鴻池運輸 取締役兼専務執行役員 新事業開発管掌、新事業開発本部本部長 鴻池忠嗣氏が行なった。鴻池運輸は鉄鋼や食品など様々な業界で事業を行なっており、業界横断の技術展開を行なっている。たとえば鉄鋼のパイプ数量カウント技術を、食品・ワイン酵母カウント技術や保全アナログメーター読み取りに転用し、活用している。また、ベンチャーファンドにも出資しており、イスラエルHoopoの技術を用いて関西空港でドーリーの位置測定を行なうための実証を行なっている。

鉄鋼のパイプ数量カウント技術を酵母カウント技術に転用するなど業界横断力を持つ

残念ながら過去にはフォークリフトによる事故なども発生している。事故をなくすこと、安全への強い思いも技術センター開設の一つの理由だと鴻池忠嗣氏は強調した。加えて少子高齢化、デジタル化、生産性向上、コロナ禍による変化などの社会背景がある。そのなかでより安全な職場環境、オペレーションのデジタル化や高度化、作業の属人性をなくすことによる人材流動化、持続可能な現場の構築を目指す。

技術研究所開設の原点は安全の担保

目指すところは「人と技術のハイブリッド」。人の柔軟性と、機械の安定稼働・長時間稼働・高い正確性を組み合わせる。

狙いは「人と技術のハイブリッド」

具体的な運用方針については鴻池運輸 鴻池技術研究所長 則竹茂年氏が紹介した。一つ目の目標は多岐に渡る作業現場の再現。現場を止めることなく、現実に近い実験・検証を行ない、不具合の洗い出しなどを行なう。2つ目は顧客・ベンダーとともに最新技術とのコンタクト機会を増加させ、議論によってオープンイノベーションを加速させる。3つ目は顧客を巻き込んだ技術革新である。

鴻池運輸 鴻池技術研究所長 則竹茂年氏
センター開設の3つの目的

最新技術を入れたあとは一定期間、様々な実験を行なう。半年程度かけて実験を行なったあとは、導入機器を入れ替えて次の機器を評価。実現場を想定した自動化機器導入実験も行なう。模擬環境を使って網羅的な運用方法も検討。大型機器だけでなく、小改善に繋がる工夫や機器も気軽に検証できる。

「人と技術のハイブリッド」については、熟練した人の持つノウハウと機械をいかに融合させるかを念頭に、昼夜連続稼働する自動化機器と定時間作業を行なう人の切り替え、一定処理能力を持つ機械と人の柔軟性の組み合わせや切り替えなどを検討する。

イレギュラー対応においてもシームレス切り替えが重要となるので、そこも検討する。特に人を活かすかに注目して取り組みを進めていくために、人のノウハウを十分に活かせるAMRや協働ロボットの活用を重視していくという。

ZMPの自動フォークリフト

物流倉庫での作業の流れと今回導入された機器の関係

まだ多くの人手に頼っている物品を運ぶ作業の自動化を進めるために今回導入された自動化機器は5種類。ZMPの自動フォークリフトはケース搬送に用いる。自動フォークリフトには他社製もあり、鴻池運輸でも三菱重工業・三菱ロジスネクストと2018年から協業して、飲料品倉庫で実際に稼働させている。だがZMPのものは比較的安価で、設置・操作が簡単であり、A地点からB地点へ物を運ぶだけならば適していると判断し、2020年3月から取り組みを開始して、現場展開へ向けて調整・開発を行なっている。デモでは、検品作業エリアからパレットを搬送するといった作業を想定した動きが実演された。今後は速度アップやより簡易な操作の実現を目指す。

ZMPの自動フォークリフト
タブレットを使った操作も可能

トピー工業の低床型AGV+NEC「マルチロボットコントローラ」

出荷場所までかご車を運ぶためのトピー工業の低床型AGV「セキシュウ・クローラー」と、複数台のロボットの群制御を行なうことができるNECの「マルチロボットコントローラ」の実験も行なう。最大積載量は500kg。前後左右に移動できる特殊なクローラーにより、その場で回転でき、位置ずれも生じにくいことが特徴だ。ロボットと人の動線の交差も検証する。

トピー工業の低床型AGV「セキシュウ・クローラー」によるかご車搬送
かご車の下に入り込んで持ち上げることができる
その場回転が可能で位置の誤差が発生しにくい

Rapyuta Robotics 棚ピッキングアシスト用AMR

Rapyuta Roboticsの棚ピッキングアシスト用AMRは4台導入した。ピッキングエリアで人と一緒にピッキング作業を行なうロボットで、取扱可能商品重量は最大45kg。1.4m/s程度で動き回り、ピッキングする作業員と一緒に働くことで、作業者の負担を減らすことができる。

通常の倉庫ではピッキングリストを片手に作業員が棚間を歩き回ってピッキングを行なっている。ロボットにはコンテナとタブレットが積まれており、倉庫の管理システムからの指示を受けて、ピッキングするべき品物が入っている棚番の近くまで自律移動するので、その近くにいる作業員がロボットの画面上の指示に従って棚から出荷する商品をピックしてロボットに積載する。指定された作業が終わるとロボットは自動で次の工程にコンテナを持っていくので、作業員の歩数を減少させ、負担を軽減できるというものだ。

群制御技術により狭い通路幅でロボット同士が接近しても衝突することなく作業を続けることができる。ロボットとピッキングを行なう人を組み合わせた最適なロケーション・レイアウトなども検証する。たとえば5人で行なっていた作業を3人にすることができるのではないかという。適切なロボット台数を検討するシミュレータなどもRapyuta Roboticsから提供されており、当座はそれを用いて検討を行なう。

Rapyuta Robotics 棚ピッキングアシスト用AMR
人間の作業員と一緒に作業する
通常は棚間を作業者が歩き回ってピッキングを行っている

棚からダンボールを出し入れするinVia Robotics AGV

米国inVia Roboticsの棚からダンボールを出し入れするAGVは5台導入した。代理店は竜製作所。伸縮台座と吸着パッド付きの上部ユニットを持ち、カメラを使って位置を同定するロボットで、積載可能重量は18kg。多段の棚からダンボールを取り出してくることができるので、人は出荷場から動かなくてよくなる。最適な倉庫規模などを検証し、5人作業を2人にすることを目指す。

inVia RoboticsのAGV
吸着して棚からダンボールケースをとって運ぶ
作業者が歩き回って箱を取り出さなくてよくなる

THK 多変種ピースピッキング

THKのピッキングロボットハンドシステム(PRS)を使った多変種ピースピッキング実験も行なう。安全柵なしで使える協働型ロボットと4本指のハンド、ToF(Time-of-Flight)カメラを使って様々な物品を認識し、ピッキングできる。特に、指を使うことで従来は入らなかった隙間からのピックや、一つの指を使って箱を少しだけ傾けたあとに取るといった、従来の吸着や単純グリッパーではできなかった動きができる。生産性の確認やピッキングの検証、外観検査への応用、AMRやAGVとの連携などを検証する。

THKのPRSによる多変種ピースピッキングロボット
4本指のハンド
様々な持ち方が可能
ハンド部につけられたToFセンサーで物体を認識