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「第三の腕」、「感覚拡張」など、パナソニックが取り組むロボット共創

パナソニックは、ロボット開発に関する共創型イノベーション拠点として、東京・浜離宮のPanasonic Laboratory Tokyoと、大阪・門真のマニュファクチュアリング本部内に、それぞれ「Robotics Hub」を開設。産学連携や産産連携を通じて、ロボット開発におけるイノベーション創出を加速させる。このほど、その成果の一部を公開した。

東京・浜離宮のPanasonic Laboratory Tokyoに設置した「Robotics Hub」

Robotics Hubは、ロボットに関する技術の共有化と活用、社内および社外との連携を進める拠点に位置づけており、具体的な活動として、千葉工業大学、東京大学、東北大学、奈良先端科学技術大学院大学、立命館大学、早稲田大学の6つの大学とともに、生活支援や身体拡張、ロボット家電など、それぞれにテーマを決めて共同研究に取り組む。

また、人間が本来持っている能力を高めるためにロボットを活用する「自己拡張(Augmentation)」のコンセプトを具現化するために、2019年4月に、学術的バーチャルラボ「Aug-Lab(オーグラボ)」を開設。心理学や認知行動学などのエンジニア以外の先端知識を取り入れ、共創の促進と価値検証を進め、次世代ロボットの早期実用化を目指す。

その成果として多くのロボットが紹介された。

自動運転型のパーソナルモビリティは、人が乗る車いす型モビリティに、荷物を搭載した荷台が追随する。すでに羽田空港で実証実験を行なっている。

自動運転型のパーソナルモビリティ
パナソニックの自動運転型パーソナルモビリティ

早稲田大学と共同で開発を進めている「第三の腕」は、音声認識でドライバーを握ることができる。

施工時に天井の板を第三の腕が押さえて、人間の手でネジを取り出して、ドライバーで締める。目線にあわせて、第三の腕が自由に動くようにもなっている。

第三の腕

第三の腕を活用することで、1人で天井ボードの固定を可能とする施工支援の例をデモストレーションしてみせた。

天井の板を第三の腕が押さえて、人間の手でネジを取り出して、ドライバーで締める
第三の腕。視線の動きに腕が追従
音声認識でドライバーを握る

石川善樹博士と共同開発しているのは、「感覚拡張」。手に持ったデバイスから映像にあわせた音や振動が伝わり、それによって、玉砂利を歩いたり、雪道を歩いたり、波打ち際を歩いたりといった疑似体験ができる。

石川善樹博士と共同開発している感覚拡張
手持ちの振動デバイス

デバイスを手に持っているのはミリ単位での振動の感覚が伝わるためであり、これを足につけても、自然のなかを歩いたような感覚は得られないという

パナソニックが石川善樹博士と共同開発している感覚拡張。映像にあわせた音や振動を体感できる

振動を吸収するスタビライザーや高精度にバランスを制御するロボットもデモ。部品の組み合わせによって柔軟な筋肉の役割を来すことになり、これらをモジュールとして提供することができる。

振動を吸収するスタビライザーやバランスを制御するロボ
筋肉を再現するスタビライザーロボ

人の目の眼球のように、目的のものから目を離さないでカメラだけが動くデモ。現在開発中で、デベロッパーキットを用意して、実証実験を行なっているという。

目的のものから目を離さないカメラ

ロボティクスでくらしアップデート。身体の拡張

パナソニック 執行役員 マニュファクチャリングイノベーション本部の小川立夫本部長は、「パナソニックでは、技術10年ビジョンを掲げ、その重点分野にロボット領域を定めている。スマート社会のなかで、人に寄り添うロボティクスが支える、安心で、快適な生活の実現を目指しており、1,000億円規模の事業となっている実装機や溶接機などの製造現場向けの機器だけでなく、これらで蓄積したロボット技術を活用して、サービス、介護・医療、農業、インフラなど、幅広い開発を進めている。だが、幅広いニーズに対応するために、ロボットの開発技術は多岐に渡っており、これらを組み合わせるプロデュース力が求められる」とする。

パナソニック 執行役員 マニュファクチャリングイノベーション本部の小川立夫本部長

しかし、「社会的な貢献をするロボット、家に入るロボット、サービスロボットの領域では、パナソニックは知見が少ない」とし、「実用化に向けて、早くまわしていく体制づくりが必要。Robotics Hubでは、社内外のロボティクス技術を結集、進化させるハブの役割を果たし、オープンイノベーションで全社ロボティクス開発をリードすることになる。必要なときに、必要な技術を、必要にあわせて組み合わせていくことができるようになり、この活動が進めば進むだけ、様々な技術やモジュールが蓄積されていくことになる。Robotics HubやAug-Labでは、これまでにつきあいがなかった人たちとも連携し、パナソニックが目指す『くらしアップデート業』として、ロボティクス分野からどんなことができるのかを模索したい」とRobotics Hubの意義を説明した。

なお、東京・浜離宮のRobotics Hubは、Home Xや、MITATE HUBなどの複数の社内部門とともに共同で拠点を開設。未完成のプロトタイプをみらいのソリューションに見立てる「UX工房」と、予防医学者の石川善樹氏の監修による「集中と共創の空間」の2つのフロアで構成している。

Robotics Hubの活動には、600人以上が参加しているという。

パナソニックでは、「Well-Being、Life & Workに楽しみ、現場改革を生み出し、暮らしやビジネスのA Better Valueを創出するロボティクス」というロボティクスビジョンを打ち出している。

「実装機をはじめとした工場でのモノづくりを支援するオートメーションによるロボティクスを加えて、人の能力を維持したり、拡張したりといったことを通じて、人生100年時代によりよく生きるためのロボティクスを実現する自己拡張にも取り組んでいく。先端メカトロ技術で、人間能力、動作の性能・仕様を向上させるEnlargeと、ヒトを計測、理解する技術の強化で、五感を支援するEnrichがキーワードになる」(パナソニックの小川執行役員)などとした。

一方、医学博士の石川善樹氏は、予防医学の観点から、今後のロボット開発の方向性について説明。「1800年における人類の平均年齢は29歳であり、これが2016年には72歳になってる。だが、人々の幸福度は変わっておらず、人類は生活がよくなるように努力をしてきたにも関わらず、質的な改善につながっていないのが実態だ。仕事や家事の時間が減っているが、ボーッとしたり、テレビを見る時間が増えている。時間が出来たにも関わらず、ポジティブな活動には時間を使わないという傾向がある。予防医学の視点から見れば、長命の退屈という事態の解決が重要であり、都市への集中化において、狭い場所でも快適な時間を過ごすことを考えなくてはならない。つまり、都市生活者の日常を幸せな時間にできるかがポイントになる。今後のロボット開発の方向性は、日常の基本動作をEnrichするロボットになる」とし、「たとえば、人間の活動のなかで、歩くということを再発明をしたらどうなるか。ウォークマンは、歩きながら音楽を聴くという提案をしたが、それ以来、歩くことを再発明したものは登場していない。都市を歩きながら、自然を歩いているような提案ができれば、Enrichできるようになる」などとした。

医学博士の石川善樹氏

石川博士は、視覚、聴覚、触覚を刺激して、都市を歩いていても、雪の自然の中や、海の中を歩いているよう感覚を体験できるプロトタイプを開発していることを明らかにし、これを実演してみせた。「パナソニックのような企業と組むことで、研究レベルから実用レベルに向けて活動ができるようになる」とした。

また、早稲田大学 理工学術院の岩田浩康教授は、「早稲田大学は1973年に初のヒューマノイドロボットを作って以来、医療、福祉、生活、スポーツといった分野への応用を図ってきた。10年前からは妊婦の腹部へのエコープローブによる診断を、遠隔から接触動作で行なえるようになっている。こうした取り組みの先には、身体の代替ではなく、身体拡張によって可能性が広がるロボットテクノロジーが注目されることになる。ドラえもんやアトムのように、人を代替して、なにかをしてくれるのではなく、スパイダーマンのように人の能力が伸ばすことを支援するのが目指すイメージである」とし、「身体拡張のひとつとして取り組んでいるのが、第三の腕である。キッチンで、ハンバーグを両手でこねながら、直感的な操作で、第三の腕で調味料を取ってくれるというものである。ここでは、意のままに操れることが大切である。認知的な負荷が低い操作感、身体の一部のように感じられる身体所有感を実現できれば、身体に付いたものではなくてもいいだろう。腕が2本しかないという生まれつきの制約条件に縛られない新たな行為ができるようになり、人の発想そのものも変わるようになる」とした。

早稲田大学 理工学術院の岩田浩康教授