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半導体もAIデータセンターも支える「緑のインキ」とは? 世界No.1太陽ホールディングスが創る未来

ITの力で、世界は変わり続けています。スマホの誕生から約20年が経過し、さまざまなアプリやデータをクラウド上で扱うのが当たり前になりました。そして極め付きが、AIの台頭です。生成AIが十分実用的になり、既存の技術やサービスはAIでより便利に進化する。そんな時代が来ています。

こうしてAI時代が到来しても、変わらぬ真実があります。さまざまなサービスの裏には必ず、半導体や電子回路が存在するという事実です。ガラケーがスマホに代わっても、その中身は、より性能向上した電子回路になっただけとも言えます。

電子回路の開発・設計がますます重要になる中、関連する分野で世界No.1を誇る企業が日本にあります。

それが太陽ホールディングス株式会社です。

プリント基板(プリント配線板)に保護膜を形成するための部材「ソルダーレジスト」で大きなシェアを獲得。AIや、関連するデータセンター需要に歩調を合わせるかのように業績も上がっています。どんな会社なのか? その実力を探ります。

創業から70年超 印刷用インキから先端材料へ

太陽ホールディングス株式会社の歴史は、1953年(昭和28年)9月にはじまりました。

もともとは印刷用インキの製造販売を目的に、東京都港区芝浜松町で創業。この時の社名は、太陽インキ製造株式会社でした。太陽のように社会を明るく照らす存在でありたいとの願いから、“太陽”という言葉が用いられたそうです。

なお太陽ホールディングスという社名は、2010年の会社分割および持株会社体制への移行に際して生まれました。

持株会社の設立後も、組織としての太陽インキ製造の活動・名称は継承されています。現在の太陽ホールディングスは事業の多角化が進みましたが、太陽インキ製造は文字通りインキの製造───プリント基板と薄型ディスプレイの製造用化学部材───を主力商品とする企業として、グループを牽引しています。

太陽ホールディングスと太陽インキ製造の関係性

太陽ホールディングスの転換点となったのは、1970年代のこと。それまで主力だった印刷用インキ事業から、エレクトロニクス業界向けへの進出を模索。そこで新たな柱へと成長したのが「ソルダーレジスト」でした。

ソルダーレジストとは、言わばインキですが、紙の印刷に使うものではありません。プリント基板の製造時に使われます。

世の中に出回っている電子機器の内部には、ほぼ確実にプリント基板が内蔵されています。半導体、ケーブル、スイッチなどの各部品はプリント基板を通じて繋がっており、そうしてはじめて製品として機能します。

ソルダーレジスト

プリント基板は一般的に緑色ですが、それがまさにソルダーレジストが使われている証。プリント基板を壊れにくくするための保護剤として、製造時に塗布されています。そして太陽ホールディングスは、このソルダーレジストの世界No.1メーカーなのです。

太陽ホールディングスは、ソルダーレジストの世界ナンバー1メーカー
ソルダーレジストを塗布したプリント基板のサンプル

太陽ホールディングスの事業エリアは日本だけに留まりません。中国・韓国・ベトナム・台湾などの各地域に営業・製造拠点を構え、現地の顧客の声に応えています。また米国の拠点は、ヨーロッパ地域でもビジネス展開を図っています。

こうして、太陽ホールディングスのソルダーレジストは全世界的に使われています。海外メーカー製の電子機器であっても、その中のプリント基板には、かなりの確率で太陽ホールディングス製のソルダーレジストが使われていると考えられます。名前はあまり知られていないかもしれませんが、実は身近な会社。それが太陽ホールディングスです。

ソルダーレジストとは? はんだの誤付着を防ぎ、プリント基板を守る

太陽ホールディングスではこのほど、報道関係者向けのセミナーを開催しました。当日は、太陽インキ製造株式会社の岡本大地氏(技術開発センター 絶縁材料開発部 PKG材料開発課 課長)がソルダーレジストのイロハを解説してくれました。

太陽インキ製造株式会社の岡本大地氏(技術開発センター 絶縁材料開発部 PKG材料開発課 課長)

すでに説明しましたが、ソルダーレジストはプリント基板の表面を保護するためのインキです。

プリント基板には、細い線のようなものが見えます。これは電流や信号を流すための導体部分。この導体部分には電流を流したいが、それ以外の部分は絶縁したい(電気を流したくない)。よって、電子部品をプリント基板に組み付ける場合は、導体部分にだけ接触させる。これが基本的な考え方です。

プリント基板上の配線パターンと、電子部品をつなげるのが、いわゆる「はんだ(半田)」で、英語では「ソルダー」と呼ばれます。導電性の合金であり、加熱すると軟らかくなり、冷えると固まるので、この性質を利用して電子部品をプリント基板にガッチリ固定します。

プリント基板をクローズアップ。部品を実装するための穴(ランド)やパッドが無数に並んでおり、それらをつなぐのが導体です。面積を有効活用するために、非常に細くなっています

では、はんだが狙った部分だけに付かず、はみ出したり、流れ出して隣の部品と接触してしまったら? 繋がってはいけない部品・回路の間を電流が流れる訳ですから、これは当然、故障の原因となります。いわゆるショート(短絡)です。

ソルダーが余計な部分につかないよう、回路を守る。つまりソルダーに抵抗(レジスト)する──これが言葉としてのソルダーレジストの由来です。

岡本氏によれば、プリント基板にソルダーレジストが塗布されないケースはまずあり得ないそう。つまり、あらゆる価格帯・用途の電子機器においてソルダーレジストが使われており、まさに「縁の下の力持ち」の表現がふさわしいでしょう。

ソルダーレジストとは、言わば特殊なインキ
不要な部分にはんだが付かないようにしたり、絶縁性を維持するために塗布されます
ソルダーレジストの有無がよくわかる画像。緑色の部分だけ、ソルダーレジストが塗布されています

ソルダーレジストの塗布効果は、他にもあります。工場での製造直後の段階では特に問題がなくても、長年に渡って製品を使い続けているうちには、ほこりや金属粉がプリント基板上に堆積するなどして偶然、回路をショートさせる可能性もあります。さらには、熱や湿気でプリント基板が湾曲したりすれば、これまた故障の原因となります。

ソルダーレジストはプリント基板全体を覆う保護膜として、外部からのダメージを最小限に抑える効果があります。

この重要性は、携帯電話で考えるとわかりやすいでしょう。

周辺の室温や湿度は目まぐるしく変わり、手垢などの異物が侵入する可能性は一般的な家電とは比べ物になりません。電子機器の故障を減らすための最後の砦として、ソルダーレジストは活躍しています。

ソルダーレジストの作り方~なぜ緑色?

では、ソルダーレジストはどのように作られるのでしょうか? まずは必要な化学材料の攪拌からスタートします。成分を均一にするための工程を経て、さらに粘度を調整していきますが、ここが重要なポイント。顧客からの要望に応じて、添加物の量などを適宜調整します。最終的には、ドロッとした液状に仕上がり、缶などの容器に詰めて出荷されます。

ソルダーレジストの作り方・使われ方

ソルダーレジストの塗布は、プリント基板メーカー側の作業になります。基板を洗浄するなどの前処理を経て、基板のすべての面にソルダーレジストを塗布。80度程度の熱をかけ、インキの粘着感を減らします。

実は、ソルダーレジストには、光をあてると硬化する性質があります。そこでソルダーレジストを塗布したくない部分にだけ覆いをかけ、強い光で露光。光があたった部分のみ保護膜が形成されます。硬化しなかったソルダーレジストは専用の薬液で洗い落とします。

最終的には150度程度の高温をかけて、これでソルダーレジストが完全に硬化・定着します。なおソルダーレジストはフィルムタイプの製品もありますが、プリント基板へ定着させる工程は液状のものと基本的に同じです。

ソルダーレジストは、一般的に緑色をしています。もともとのプリント基板は土台部分はうすだいだい、回路部分は茶色っぽい色をしているのが普通ですが、ソルダーレジストを塗布することで緑色になる……という訳です。

ちなみに、なぜ緑色なのでしょうか? 岡本氏に聞いてみたところ、正確な理由は諸説あるそう。ただ通説としては、昔は基板の完成品の検査を人が目視で行なっていた為、ソルダーレジストが緑色であることで回路部分との色の差がはっきりし、ミスを発見しやすく、人の目にも優しいから緑色が好まれたそうです。技術的には、緑色以外(たとえば黒色、白色、赤色等)にも全く問題なく変更できるそうです。

ソルダーレジストは基本的に緑色ですが、その他の色も存在します

なぜ選ばれるのか? 確かな技術、そして400件以上の特許

太陽ホールディングスがなぜソルダーレジスト分野で世界No.1の企業となれたのか? そこには、確かな技術の裏打ちがありました。まずは配合技術です。ソルダーレジストは、光や熱のかけ方によって性質が大きく変化するという、複雑な部材です。それだけに、どんな原材料を混ぜ合わせるかが重要で、常に研究を重ねていると言います。

「お客様からは日々高いご要求をいただきますが、それに応えるべく、新たな機能性材料の開発にも積極的に取り組んでいます」(岡本氏)

配合原料を均一化させるための分散技術も重要です。特に最近は、プリント基板上の配線パターンが微細化しており、これに対応するために分散技術の向上が欠かせないとのこと。さらに、フィルムタイプのソルダーレジストは1ミクロン単位での膜厚調整が可能です。

こうした取り組みの結果、太陽ホールディングスではソルダーレジスト関連の特許取得件数は実に400件を超えています。

ソルダーレジスト関連の特許取得数は400件超え

さらなる将来を見据えたチャレンジも続いています。足元でまず注目したいのが、車載半導体向けのソルダーレジストです。車のエンジンコントロール用回路などを搭載するプリント基板は、一般的な電気製品以上の耐久性が求められます。高熱を発するエンジンの近くに配置される一方で、寒冷地などの極限環境での走行を考慮せねばならず、なにより故障は人命にも関わってきます。そのため、車載製品では「AEC-Q100」という信頼性基準が制定されています。

AEC-Q100ではさらに、製品の使用温度範囲によって4段階のグレードが規定されています。今、太陽ホールディングスが挑戦しているのは、最上位、つまり要件を満たすのが最も困難な「グレード0」に対応する、フィルム型ソルダーレジストの開発です。

グレード0は動作温度範囲がマイナス40度から150度とされています。これをクリアすべく、マイナス55度から150度の温度変化を2,000サイクル実行させる試験を実施。見事、クラック(ひび割れ)ゼロを達成したと岡本氏は明かしています。すでに試作品の出荷および導入企業での評価は開始しており、今後、太陽ホールディングスの技術力をアピールする材料の1つとなるかもしれません。

マイナス40度から150度までという、極端な温度変化にも耐えられる車載機器向けソルダーレジストを開発中

身近な家電からAIデータセンターまで幅広く

太陽ホールディングスの2026年3月期決算(通期)の売上高は1,378億円で、これは前年比16%のプラスでした。中でも、ソルダーレジストの製造販売をはじめとするエレクトロニクス事業は2021年以降、好調が続いています。

プリント基板の市場は、2030年までに年平均6%の成長が予測されています。ソルダーレジストはプリント基板の製造に欠かせない部材であることは、ここまでに説明した通り。さらなる成長が見込まれます。

半導体市場の底堅さも見逃せません。AIの需要増に連動するかたちで、対応するAI半導体の人気が高まっています。AIデータセンター開発・建設の活況ぶりも報道などで伝えられています。そこでは当然、太陽ホールディングスのソルダーレジストを使ったプリント基板の出番が増えそうです。自動運転、フィジカルAIへの期待感も、ソルダーレジストには追い風でしょう。

そして太陽ホールディングスでは、さらなる市場拡大を目指しています。プリント基板以外の分野でもソルダーレジストを使えないか。はたまた、インクジェット印刷に対応したソルダーレジストを作れないか。さまざまな方策を練っていると岡本氏は語っていました。

ソルダーレジストの市場拡大、さらなる高機能化にも取り組んでいます

あらゆる電子機器に使われているソルダーレジスト。そうした部材があること自体、知らない方は多いことでしょう。しかし、ソルダーレジストの世界No.1企業は日本にあるのです。

ここにきて、DX(デジタルトランスフォーメーション)への理解が日本でも広がってきました。ペーパーレス化、キャッシュレス化はますます進展し、そこではなんらかの電子機器が動いています。その意味において、太陽ホールディングスはDXを陰から支える「見えない巨人」だと言えるでしょう。同社の次の一手は何か。今後、ますます注目が集まりそうです。