トピック
はやぶさ2、7月5日に小惑星トリフネへ最接近 「超近接フライバイ」観測に挑む
2026年7月3日 11:30
2026年7月5日、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」が新たな目標である小惑星に最接近し、通過しながら観測する「フライバイ観測」を実施します。小惑星リュウグウの表面物質を地球に届けた後の「拡張ミッション」の中で2つの小惑星観測ミッションのうち、最初の大仕事です。
はやぶさ2は、2020年12月に小惑星リュウグウのサンプルを地球に帰還させた後、探査機に残された燃料を利用して新たな目標天体を目指す約10年にわたる長期ミッションの旅に出ました。拡張ミッションの愛称は「はやぶさ2#(はやぶさツーシャープ)」と呼ばれ、SHARP(Small Hazardous Asteroid Reconnaissance Probe)の略として、地球に衝突する可能性のある小さく危険な小惑星を調査する探査機という意味が込められています。
これまで、小惑星までの巡航の中で黄道光観測や系外惑星探索を続けてきたはやぶさ2は、2026年7月(今回)の小惑星2001 CC21(トリフネ)のフライバイ観測、2027年と2028年の地球スイングバイ、そして2031年7月の高速自転小型小惑星1998 KY26へのランデブーなどを計画しています。
小惑星2001 CC21(トリフネ)フライバイ観測
小惑星2001 CC21は、2001年に発見された小惑星で、2024年に「トリフネ」の愛称がつけられました。自転周期は約5時間で、細長い形状をしていて長いほうの差し渡しは700m程度とみられています。ですが地上からの観測では形状やサイズの誤差はかなり大きく、接近観測なしにその素性を明らかにすることはなかなか難しいのです。
トリフネのような地球接近小惑星(NEO)は、何かのきっかけで軌道が変わって地球に衝突する潜在的な危険性をもっています。
こうした危険を防ぐための活動を「プラネタリーディフェンス」といい、はやぶさ2#ミッションは地球に衝突する天体が発見された際に、すでに飛行中の探査機を急行させて天体の素性を調査する「緊急調査(ファースト・レコン)」の実証実験としても位置付けられています。
観測の目的「トリフネを知る」「技術の獲得」
サイエンス面での目標は、対象天体トリフネの大きさ、形状、表面物質などの性質を知り、惑星科学の知識を蓄積することです。小惑星など太陽系小天体の性質に関するデータを増やし、その成り立ちや進化を調査することも含まれています。
トリフネには太陽系の物質の中でも非常に古い「CAI(カルシウム、アルミニウム包有物)」が豊富に含まれる「L型」という珍しいタイプの小惑星の可能性がありました。最新の観測結果では「はやぶさ」がランデブー観測した小惑星イトカワと同じS型とみられていて、これを確認するということも重要な目標です。
そして大きな工学目標が、小惑星「超近接高速フライバイ技術の獲得」です。計画した超近接距離を高精度で通過することにより、将来、小さな天体に探査機を衝突させて軌道を変更する(インパクト法)といった、プラネタリーディフェンスに役立つ技術を獲得します。
「超近接フライバイ手法」とはなにか
はやぶさ2の機体は、もともと小惑星イトカワに着陸するために設計された機体であり、フライバイ観測用に設計されているわけではありません。そのためフライバイ観測を行なうには、機体を傾けて観測機器を小惑星のほうに向け、視野に小惑星を捉える必要があります。このとき、小惑星と探査機との距離も課題になります。
小惑星トリフネと探査機の距離が10km程度の場合は、小惑星の自転速度などの詳細や構成する物質のタイプなどを明らかにすることができます。ただしはやぶさ2の望遠カメラの性能では、画像上で2001 CC21 のサイズは10ピクセル程度の大きさとなってしまい、サイエンスの価値は限定的です。1kmまで接近できれば、天体の物質や熱の分布なども調査することができ、大きな成果を得ることができます。
はやぶさ2の運用を工夫することで、小惑星に航法誘導精度の限界まで接近し、接近途中に撮像に最適なタイミングを持ってくる「超近接フライバイ手法」を適用することで、観測成果を上げることを目指しています。
探査機を小惑星に衝突させる軌道にギリギリまで近づけ、はやぶさ2の機体で可能な範囲で首振りの角度を小さくして姿勢変更を最小限に抑えることができます。
当初1km程度で検討されていた接近距離は、さらに近く、小惑星の中心から800m程度に設定されました。日本の探査機としても、はやぶさ2の機体性能としてもチャレンジングな手法です。
2023年ごろの段階では、探査機の姿勢制御能力から「1,000m程度が限界」と検討されていました。しかしはやぶさ2#のチームは小惑星サイズや衝突のリスクなどを考慮した結果、目標接近距離を「小惑星中心から800m程度」とより接近する距離に決定しています。
この挑戦で、小惑星に対する精密な航法誘導技術を実践し、将来の小惑星への衝突誘導と同様の技術を獲得することができます。衝突軌道に小惑星を近づける技術は、将来もしも地球に衝突する可能性を持つ天体が見つかったときに、意図的に探査機を衝突させて積極的に小惑星の軌道をずらすようなプラネタリーディフェンスに向けた技術を獲得することにもなるのです。
7月5日のフライバイ観測に向けて、軌道誘導制御はおよそ10日前からスタート。フライバイ直前の3時間前までは地上から探査機を誘導し、フライバイ2時間前から通過後までは、探査機自身の力でそのコースを駆け抜けます。小惑星との相対速度は秒速約5.2 kmにも達する飛行は日本時間5日18時30分に予定されています。
観測機器
接近からフライバイ直前まで、はやぶさ2は4つの搭載機器を使用して観測を行ないます。大活躍するのが「ONC-T(望遠の光学航法カメラ)」。小惑星の姿を捉え、形状、表面物質の成分分布、地質学的特徴を観測します。
「TIR(中間赤外カメラ)」が温度分布や、熱慣性(温まりやすさ・冷めやすさ)、表面の荒さを調べます。「NIRS3(近赤外分光計)」は水や水酸基(-OH)の存在、構成物質を、「LIDAR(レーザ高度計)」はサイエンス観測における正確な位置関係を推定します。
はやぶさ2機体の状態は
はやぶさ2が地球に小惑星サンプルを放出する主ミッションを終えてからおよそ5年半が経過しています。当初は、エンジンの推進剤なども十分に余裕があり、2031年の次の小惑星探査に向けて余力を残していると考えられていました。ですが、過酷な深宇宙環境を旅する中でいくつか課題も見えてきています。
はやぶさ2 拡張ミッション三桝裕也チーム長は、はやぶさ2の主エンジン「イオンエンジン」について4基のうち3基でかなり劣化が進んでいると明かしました。すでに設計寿命を超えており、できるだけ温存してきた1基でミッションを継続している状態だとのことです。ただし小惑星トリフネのフライバイで必要になるのはイオンエンジンではなく化学燃料スラスターです。こちらも設計寿命を超えているとはいえ、軌道上での試験では特に大きな問題はなく、想定どおりの性能を発揮してフライバイ観測に臨めそうだとしています。
観測機器のONC-Tも宇宙で長い時間を過ごし、機器が傷ついてきたことがうかがえます。レンズ表面は塵で荒れているだけでなく、経年劣化でセンサーに「ホットピクセル」と呼ばれる、ピクセルの輝度異常が徐々に増えているとのこと。今回のフライバイで影響があるレベルではないということですが、TIRについても感度を失った「デッドピクセル」が生じているといい、定期的にヘルスチェックを進めながらミッションを継続しています。
拡張ミッションチームは小惑星トリフネ通過から翌日ごろにかけて、はやぶさ2からの観測データを取得し成果を確認する予定です。工学実証とプラネタリーディフェンス、小惑星科学という3つの目標を粘り強く続けているはやぶさ2の大きなマイルストーンを見守りましょう。









