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ミズノの5.5万円オーダーメイドシューズ 3Dプリンターでフィット感を追求
2025年4月17日 08:20
ミズノは、3Dプリンターで個人に合わせた専用の一体ソールを設計・製造する技術を開発し、オーダーメイドとなるパーソナルフィッティングシューズ「3D U-Fit」の提供を開始しました。サービス開始のタイミングで、計測やシューズ選びを体験してきました。
3D U-Fitは3Dプリンターでソールを作製する、「自分史上最高のフィット感」を謳うオーダーメイドシューズです。価格は55,000円。東京都千代田区にあるMIZUNO TOKYOで足型を測定し、そのデータに合わせて3Dプリンターで一体ソールを作り、個々の足に合ったオリジナルシューズを実現するというものです。
アッパーは3Dプリンター製ではありませんが、いろいろな人の足の形にフィットしやすいニットアッパーを採用しています。
それではまず、どのような計測を行なうのか、体験した内容をお伝えします。
両足に青いマーカーを着けるとともに、計測する機器の方では身長や体重、スポーツ経験などの情報を入力します。あとは計測用の機器で片足ずつ、足型を計測。これだけで完了です。
計測後は左右それぞれの足のサイズなどを確認できます。筆者の場合は左足が「240.6mm」、右足が「242.4mm」でした。この場合は、大体「24.5mm」のシューズが適したサイズとのことですが、実際には筆者は「25cm」もしくは「25.5cm」を選んでいます。
3Dプリンターによるシューズに限らず、ショップでは機器を使った計測サービスを実施しています。やや大きめのシューズを履いている人も多いそうで、皆さん結果を知って驚かれるそうです。
また、数値のほかに、足が3Dで表示され、横、上、足の裏など、様々な角度から自分の足を観察することができます。
計測が終わったら、店舗に用意されているサンプルの中から、サイズの近いシューズを履いてみます。実際に履いた印象は、これでも十分フィット感があるし、履き心地も良好でした。
ソール硬度のラインアップとして「ふつう」と「やわらかめ」があるのですが、試し履きの際に、左が「ふつう」、右が「やわらかめ」という形で硬度の異なるシューズを履いて、どちらが好みか選ぶわけです。筆者は「ふつう」が好みでしたが、これは人それぞれでしょう。
また、カラーも「ブラック」と「ホワイト」から選べますので、左右で異なるカラーを履きます。
ソールのデザインも2タイプから選ぶことができます。デザインが異なるだけで、性能は同じとのことです。
これにてオーダーメイドシューズを作ってもらうための工程は完了。あとはシューズが完成するのを待つことになります。約1.5カ月~2カ月で完成します。
一体成型だからフィット性が高いまま持続する
足型をどのように計測し、どんな情報を元に作られるのかわかったところで、3D U-Fitは一般的なシューズとはどんな違い、どんなメリットがあるのかを、開発を担うミズノ グローバル研究開発部の北 憲二郎さんに話をお伺いしました。
3D計測自体は新しい技術ではありません。開発期間は構想も含めると6年とのことで、開始はアパレル業界を中心にサイズ提案やオーダーメイドに向けた様々な3D計測サービスが世に出てきた時期と重なります。
3Dプリンターを使ったシューズも数年前から出始めており、これに関しても「別に新しくないね」と言われることもあるそうです。しかし3D U-Fitはそれらとは考え方が異なると説明します。
「既存の3Dプリンターを活用したシューズの多くは量産向けで、ミッドソールしか作っていません。あとは一般的なシューズと同じ工程を経て、シューズを完成させます。それに対して、3D U-Fitでは一人一人のためのものを作る、ミッドソール・アウトソール・中敷を一体で作る、ということをやっています」
3D U-Fit発表時のリリースでは“ミッドソール、アウトソール、中敷きを一体にすることで、シームレスなフィット感を実現”と書かれています。オーダーメイドだからジャストサイズ、だけではない、一般的なシューズとの違いはどこにあるのでしょうか。
「一般的なシューズは、靴型(ラスト)というものがあり、それにアッパーを包み込んで上側を作ります。それを別で作った靴底に接着します。大量生産をする場合には、靴型の中に入れるものが四角い形をしているのが一般的です」
「角張っている方が靴底にセットしやすいため、このような構造になっています。それに合わせて靴底も比較的平らな形状で作るのが一般的です。しかし、カカトはラウンドしている形状です。角張った形状ではフィットしにくいので、中敷でラウンドの部分を埋めるという考え方です」
つまり、クッション性や安定性を出すためのミッドソールと、足にフィットさせるための中敷は別のもので構成されています。中敷でフィット感を出せるのであれば、足の形に合わせて作れる中敷もありますし、中敷で解決できる部分もあるのではないか、という気もします。しかし追求していくと、そう簡単にはいかないようです。
「中敷は薄いですよね。この薄さでフィット感を出すには限界があります。また、使っているうちにへたってきやすいという課題もあります。3D U-Fitはミッドソールと中敷の構造をほぼ一体化できる。ソールでカカトの形状などにぴったり合うものができるので、中敷は必要はないということになります」
3D U-Fitではアウトソールも含めて20mmほどの厚みがあり、その中で足に合わせた形状を作り出せるので、フィット性の許容度が増す、そして、へたりにくくフィット性の持続性も高いというわけです。
さらに、ソールの形状を見ると、カカト部分に壁があるような構造になっています。ここには中敷とは別の役割があるそうです。
「シューズにはカカトをしっかりホールドしてぐらぐらさせないための『カウンター』というものが入っています。ミッドソールとカウンターが一体になって、初めて足をホールドするわけです。3D U-Fitの場合はアウトソールからミッドソール、カウンターが一体化して、シームレスに足を包み込むことができます。これも一般的なシューズとの差別化になっている部分です」
アッパーも一人一人の足の形に沿うよう、フィット性の自由度が高いニットアッパーを採用したといいます。ただし、フィット性だけではなく、サポート性にもこだわって作られています。
「ニットアッパーは足にフィットする一方で、伸びたり揺れたりして、サポート性、安定性が不足してしまう恐れもあります。そこで、編み込みの量などにより、伸びる必要がある部分は伸びて、伸ばしてはダメなところは伸びない構造にする、あるいは伸びない糸を入れるなどコンビネーションを考え、フィット性+サポート性、安定性の実現にこだわりました」
ソール硬度には「ふつう」と「やわらかめ」から選べるようになっていますが、なぜ「かため」がないのかも気になるところです。
「硬度は、極端にいえば無限大でラインアップすることができます。一般的なシューズは材料やスペックなど決まっているものを大量に入れて仕込んでいるので、硬度を変えることはできません。ところが3D U-Fitの場合は、中に空洞がある格子状の構成になっています。この中身の設計、つまりデータを変えるだけでいくらでも柔らかい、硬いを調整できてしまうんです。現在の『ふつう』と『やわらかめ』の中間も可能です。ただ、余りにも種類が多すぎると、お客さまも迷ってしまいますし、製造サイドの混乱を招く可能性を考え、まずはシンプルに2種類としました」
一般の大量生産では不可能な調整もできてしまうわけですが、今のところは発売したばかりで生産も始まったばかり。ユーザーからの要望は今後出てくることになり、またミズノの工場としても生産体制の兼ね合いで2種類となっていますが、細分化していく可能性も今後あるかもしれません。ただし「かため」がない理由は、また別のところにあるようです。
「『かため』では、3D U-Fitの良さを100%体感していただけないイメージがあったので入れませんでした。フィット感だけではなく、クッション感も一般的なシューズとは全然違うな、というところを体験していただきたかったので、違いがわかりやすいラインアップとしました」
カラーバリエーションはブラックとホワイトの2色展開ですが、デザインも含めて、こちらも今後拡大の可能性はあります。サンプル段階ではほかの色も作っていて、北さんのイチオシはグレーだったとか。
環境配慮の面でも特徴があります。
「ソールは1つの素材でできているので、成形に失敗したものを再生することができます。また、分別もしやすく、将来的には履かなくなったシューズを回収する取り組みも考えています」
まずターゲットとしているのは、靴選びに悩んでいる人。例えば左右の足のサイズ差や、足の幅などが原因で、部分的に痛みを感じるなど、足の困りごとがある人の購入を想定しているそうです。そして現在は、想定以上の予約が入っているといいます。それもあって、納期は約1.5~2カ月と長めの設定となっています。
今後はこの想定以上の予約に応えつつ、2030年時点で1万足を目指すということです。ビジネスとしても順調に拡大していけば、工場の生産体制強化、3Dプリンター増設なども進められ、ラインアップの拡大や東京以外の都市での計測対応といった、より幅広いニーズに応えてくれる展開が期待できるでしょう。