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SNSに「交流」と「ほっこり」を取り戻す  mixi2が目指すもの

「マイミクになれて嬉しい」「足あとついてる!」--こんな思い出を抱えている人は、“ネット歴”の長い人には多いのではないでしょうか。2004年に誕生した「mixi」(ミクシィ)は、私たちが知らなかったSNSの世界を教えてくれました。同級生やネットの友達と繋がり、たわいもない日々の出来事を「日記」に綴り、「コミュニティ」で同じ趣味を持つ仲間と交流したりと、ほのぼのと楽しい交流を行なっていました。

今もmixiは健在です。でも、XやFacebook、Instagramなど、他のSNSに移ってしまった人が多く、「懐かしのSNS」といったイメージが持たれています。

そのmixiを運営するMIXIが2024年12月16日、新たなSNSを開始しました。短文テキストSNS「mixi2」(ミクシィツー)です。

1週間で120万人突破したmixi2

mixi2開始のニュースはあっという間にネットに広がり、招待リンクを求める声があちこちで挙がりました。かつてmixiを使っていた人や新しいSNSに興味を持った人など、多くの人が登録を行ない、サービス開始から一カ月で登録者数120万人を突破するという好調なスタートを切っています。

短文テキストSNS「mixi2」(ミクシィツー)

mixi2は、フォローした人の投稿が時系列に並ぶ「フォロー」のタイムラインがメインです。他のSNSのように、プラットフォームの「おすすめ」を優先しません。投稿できる文字数は最大149.3文字(逆から読むとミクシィ)で、画像や動画は最大4点まで投稿できます。

テキストには、「エモテキ」というエフェクトを付けられます。エモテキは、文字を揺らしたり、大きさを変えたり、背景にアニメーションを追加できます。

「エモテキ」ではポストにエフェクトを付けられます

他のユーザーの投稿には「いいね」や「リアクション」、コメントで反応できます。「リアクション」は「キュン」「アゲ」「がんばれ」などの文字がかわいらしくデザインされています。

「リアクション」はポストに対して反応できる機能です

エモテキやリアクションにより、テキストだけの投稿でも感情をユニークに表現したり、楽しい雰囲気を演出できるのです。

また、「コミュニティ」機能で共通の趣味や関心を持つ人と語り合ったり、「イベント」機能で同じテレビ番組を見てオンライン越しでおしゃべりするような企画を作成できます。

「コミュニティ」で共通の趣味や関心を持つ人と交流できます

アカウントは、サブアカウントを作成でき、非公開にも設定可能です。18歳未満の利用は禁じられています。

SNSが乱立する今、なぜMIXIはmixi2を立ち上げたのか、mixi2をどんなサービスにしたいのかなど、MIXI 取締役ファウンダー 上級執行役員でmixi2の事業責任者である笠原健治氏にお話を伺いました。

MIXI 取締役ファウンダー 上級執行役員 mixi2事業責任者 笠原健治氏

SNSに「交流」と「ほっこり」を取り戻す mixi2が目指すもの

なぜmixi2を立ち上げたのか、笠原氏は3つの理由があると言います。

「ひとつは、MIXI自体がずっとコミュニケーションサービスをやってきた会社なので、常に新しいコミュニケーションサービスは出していきたいなと思ってまして。ゲームの"モンスターストライク"や、家族写真共有サービス"みてね"も、コミュニケーションというところをかなり意識しています。そういうなかで、SNSはコミュニケーションど真ん中のサービスなので、何らかの形で手掛けていきたいという思いは常にあります。mixiもやっていますが、さらに主流となるようなSNSを手掛けたかったんです」(笠原氏)

MIXIは、2013年からスマホゲームアプリ「モンスターストライク」をローンチ、2023年6月に世界累計利用者数6,000万人を突破しています。また、2015年に開始した子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」は、25年1月に世界累計利用者数が2,500万人を突破、国内ではママやパパの半数となる約60%に利用されており、海外での新規ユーザー数も年々増加しています。

これほど好調なサービスが動いているにもかかわらず、笠原氏は社名にMIXIと残すほど、SNSへの思いがあると言います。

ひっぱりハンティングRPG「モンスターストライク」
家族アルバム「みてね」

2つめは、SNS自体の変化です。

「ここ数年、SNSが変化してきています。繋がった人とのコミュニケーションサービスから、面白くて刺激的なコンテンツを見せる、メディアのような位置づけに変わってきています。おそらく、そうしたSNSの指標としては、滞在時間やアクティブ率の数値を見て、その方が結果がいいと判断しているんだと思います。でも、自分たちとしては、友達の近況がわかるとか、繋がった人と関係性を深められるところがSNSの価値として大きいよねと思っています。変わってしまったことにモヤモヤするというか、残念だなという、悲しい気持ちを持っていました。」(笠原氏)

短尺動画アプリ「TikTok」を始めとして、プラットフォームが「おすすめ」として表示するコンテンツは、ユーザーの好みに合わせて調整されています。XやInstagram、Facebookも、独自のアルゴリズムにのっとり、「おすすめ」の投稿を表示しています。その結果、ユーザーは友人の近況を知りたくてSNSを開いても、タイムラインにはバズった投稿ばかりが表示され、友人の投稿は埋もれてしまっています。それは「交流」というより、「配信者」と「視聴者」の構図です。

しかし、こうした図式に慣れてしまった人々は、ネットでの交流が億劫になってしまっているかもしれません。もしくは、刺激がない空間では物足りなく感じることはないのでしょうか。

「レコメンドにはひとつ問題があって、何気ないつぶやきがフォローしていない人にも届いてしまいます。その人の人柄も知らない、フォローしていない人に適当に解釈されてしまい、その間違った解釈とともに拡散されながら炎上していく、といったことが起きやすい構造です。それで、SNSは危険なものだとなってきている気がしていて、その構造自体はやはり問題なのではないかと。日常的なことを気兼ねなく、ほっこりつぶやける空間っていうのもあっていいんじゃないかと思うんです。普段感じたことを繋がっている人に言語化して、日々伝えていくというやり取りが、いつの時代においてもあるべきコミュニケーションなんだと思っています」(笠原氏)

他のSNSのように、常に刺激に晒されているのではなく、本来のコミュニケーションサービスの良さを感じられる場所を笠原氏は用意したいと考えています。

3つめは、TwitterがXへと変貌したことです。Twitterはイーロン・マスク氏の買収により、2023年7月に名称をXに変更し、マスク氏の描くスーパーアプリへの道を歩み始めています。

「Xに変わって良い方向に変わっていくところもあるんでしょうけど、いろんな変化が起きていきそうだなと。なんらか変化が起きる以上は、そこにチャンスが生まれるかもしれないなと思って、短文テキストのSNSをプロジェクトとしてやってみようかと考えた次第です」(笠原氏)

笠原氏は、「短文テキストは誰でも参加しやすく、気楽に表現ができます。写真はちょうどいいんですが、動画だと敷居が高すぎる」と、短文テキストSNSの魅力を説明します。mixi2は、短文テキストに画像や動画、URLを貼り付けることができるため、「王道なコミュニケーションサービスになりうる」と考えていると言います。

「今日あったことをテキストで今繋がっている人に伝えて、誰かから反応があるとか、そういうコミュニケーションは人類誰しも楽しいんじゃないかなと思ってます」(笠原氏)

使いたいSNSを一から考え直して開発

mixi2はサービス開始から一週間で登録数120万人を突破しました。笠原氏は、「じわじわと増えていけばいいと思っていたのに比べると想定外に広がった」と感想を述べます。

mixi2は10名のメンバーによって開発されました。初代mixiを使っていた世代、初代mixiを知らない若い世代などが混在した構成で、使いたいSNSを一から考え直しました。

「過去のmixiがどうだったというよりは、今どういったSNSを使っているのか、どういったSNSを使っていないのかなどから議論を始めました。Xに関しては、昔よりつぶやけなくなったとみんな話していました。バズるかもしれないのは嬉しい一方で、急に絡まれたり、怒られたりする。名前を出してやっていくのはリスクしかない、といった使いづらい面に関しても割と議論していました」(笠原氏)

mixi2の開発コードネームは「mcry(エムシーアールワイ)」と呼ばれていました。これは、mixiが誕生した時の企業名「イー・マーキュリー」に由来しています。サービス名については、プロジェクト開始初期から自然と「mixi2」と呼ばれていました。

「開発中に他のサービス名を検討したこともあるんですけど、しっくりこなくて。SNSのブランドしてわかりやすいし、今も社名としてMIXIでやっていますし、そういう意味でmixi2が一番いいのではないかということで決めました」(笠原氏)

mixi2リリースの一報が入ったとき、かつてmixiを使っていた人達が「mixi同窓会ができるのでは」という期待を抱いて、ユーザー登録を行いました。しかし、mixi2はmixiと連携しません。なぜ連携させなかったのか、笠原氏に尋ねました。

「想定していた以上に、mixiとmixi2を繋ぐと思われた人がいらっしゃいました。mixiには、ずっと作ってきたmixiの世界観がありますし、プロフィールやマイミクのソーシャルグラフもあります。mixi2とはがっちゃんこ(統合)しづらいだろうなと思っていますし、将来的にも別であるべきだと考えています。」(笠原氏)

安全性の高い場でのやり取りを。未成年には「無駄なリスク」

mixi2はフォローしている人の投稿が時系列に並ぶタイムラインがデフォルトになっています。普段どんな発言をしているのかを知っている状態で受け止められるので、誤解されることは少なくなります。また、「リポスト」という投稿を拡散できる機能はありますが、レコメンドされないため、過剰に拡散されることがありません。リプライに関しても、お互いフォローしている人のリプライは見られますが、フォローしていない人が参加するとそれ以降のやり取りは出てきません。こうした炎上しにくい仕様により、安心できる場が作られています。

現状、「思っていた以上にほっこりしている」と笠原氏は見ています。「リアクション機能もポジティブな内容が多いこともあって、心理的安全性が高い状態になっています。大多数の方はオープンなアカウントでご利用いただいています」(笠原氏)

予想以上にほっこりした場を提供できていると語る笠原氏

また、mixi2は18歳未満の利用を禁じています。笠原氏は、「コミュニケーションサービスではトラブルや出会いに関する問題が起きてしまうので、わざわざ危ないところに入って来なくてもいいのでは」と考えたそうです。

「mixiの時も、元々18才未満利用禁止でやっていて、途中から15歳未満に変えたのですが、結果的に18才を区切りにしてもいいのではと考えました。高校を卒業して大学に入るとフェーズが変わり、友達関係も変わっていくなかでアカウントを作り直す人も多くいます。その後の人生にも続いていくような人間関係が構築された年齢から始めてもいいと思いました」(笠原氏)

海外では、未成年に関するSNS禁止法令を敷く国や地域が出始めています。笠原氏は「やはり未成年が狙われる面は多少あるとは思っているので、そのリスクは無駄なリスク」と考えています。さらに、「もうSNSを使っている人も多いので、気を付けてほしい」と付け加えました。

また、SNS全般に言えることですが、最初はほのぼのしていても、ユーザー数が拡大するにつれ、場が荒れることがあります。mixi2に関しては、「利用規約に反している行動などに関しては、サポート体制を強化しながらきっちりとやっていきます」と、笠原氏は安全面への配慮を欠かさないことを述べました。

mixi2はじっくり・ほっこり成長できるのか

現状のmixi2について笠原氏は、「思った以上にアクティブに使っていただいています。個人のポストやコミュニティに関して、一定の手応えを感じています」と評価します。

今後、mixi2は機能を拡充し、1~2年かけて競合サービスとの差を詰めていく予定とのこと。PCやブラウザでの利用やAPI公開なども検討しています。また、マネタイズを含めたビジネスモデルに関しても、同じスピード感で検討していくと笠原氏は話します。

mixi2の機能を拡充し、競合サービスとの差を詰めていくと語る笠原氏

MIXIの「みてね」は海外事業でも順調ですが、mixi2についてはどう考えているのでしょうか。

「海外展開をやっていける可能性はあると思っていますが、まずは日本の立ち上げに集中している段階です。"みてね"のように子育てや家族という軸があるものとは違うので、単純に日本人が盛り上がっていればアメリカ人が入ってきやすいのか、翻訳すればよしなのか、はたまた完全にゼロベースで分けなければいけないのかなど、検討しなければなりません。日本だとMIXIの社員やMIXIをよく知っている方たち、(サービスとしての)mixiを知っている人達もたくさんいらっしゃるので最初の盛り上がりは作りやすかったのですが、海外はそこが使えないので、難易度は"みてね"よりも高いと思っています」(笠原氏)

最後に、笠原氏にSNSの魅力について、あらためて尋ねてみました。

「mixiないしはmixi2のコンセプトでもあるのですが、to誰々というよりは繋がっている人全体に向けて、今日のランチこんなの食べたよとか、たわいもないことを発信する。受け取った側も、別に見なくてもいいし、反応せずにスルーしてもいい。気になった人が美味しそうとか反応を返すことができる。投稿した側もそういうものだと思って、誰かが反応するかもしれないし、反応しないかもしれない。そういうコミュニケーションができる点を自分はいいところだと思っています。その積み重ねで、その人の近況をずっと何となく知ることができるでしょうし、久しぶりに会った時にもお互いのアップデートがいらなくて、なんとなくこんなことやあんなことがあったねと知っている。そういうのがいいところだと思っていますね」(笠原氏)

mixiが大ブームを起こした理由として、こうしたコミュニケーションがそれまでなかったからだと笠原氏は分析します。

また、「コミュニティ」も人々に価値を感じさせました。

「自分の興味関心について、普段は人に話すことがなかったけどmixiのこのコミュニティだったら話せる、みたいな価値があったと思います。それは今のmixi2に関しても、うまく行っている部分だと思っています」(笠原氏)

最近のSNSは、常に炎上騒ぎが起きており、誹謗中傷も後を絶ちません。SNSへの投稿をリスクと考え、発信をやめてしまった人達も多くいます。そんな人たちにmixi2は安全性が高い空間を提供し、SNSの楽しさを思い出させてくれます。

笠原氏は「いつの時代にもほっこりした場があっていい」と柔らかな言葉で伝えてくれました。しかし、その裏にあるコミュニケーションサービスへの確固たるポリシーを強く感じさせてくれました。

鈴木 朋子

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー 身近なITサービスやスマホの使い方に関連する記事を多く手がける。SNSを中心に、10代が生み出すデジタルカルチャーに詳しい。子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。