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Apple Vision Proを20人に被ってもらって気づいたこと

6月28日、日本でもApple Vision Proが発売されました。現実とデジタル世界を結ぶ「空間コンピューター」としての新たな提案で、新しい“体験”を実現していることは、以前ファーストインプレッションをお伝えしました。

一方で、約60万円(599,800円)という価格や、人それぞれに最適化したセットアップが必要となるなど、ハードルが高いのも事実です。

今回、Apple Vision Proの貸出を受け、自分で2週間ほど使ったほか、社内を中心に多くの人に被ってもらいながら、Apple Vision Proの“面白さ”を探ってみました。

多くの人が、驚きを持って楽しんでくれたのですが、いくつか課題も見えてきました。簡単に紹介したいと思います。

セットアップが肝心

以前の記事でも紹介していますが、Apple Vision Proを「使う」前に準備が必要です。Vision Proをかぶると、自分がいる部屋が透けてみえます。カメラによるビデオシースルー機能により、装着していても自分のいまの環境がわかるようになっていますが、この“環境”に表示されるメニューを使って設定を行ないます。

初期設定はざっくり5分程度。Vision Proは基本的に“視線”と“指”のジェスチャーで操作するため、Vision Proをかぶってから「視線と手の設定」が必要です。空中に浮いたサークルの“点”を指で選択して、Vision Pro操作のための設定を行ないます。

視線と手の設定

とにかくApple Vision Proを正しく装着することが操作性にとって重要ですので、この点は注意しましょう。

Apple Vision Proのソロループ
装着部

Apple Vision Proは、パソコンに例えると、目線がマウス(ポインティングデバイス)の操作、親指と人差し指を合わせる「タップ」動作がクリックに相当するイメージで、すぐに慣れると思います。ただし、視線操作は眼鏡やハードコンタクトレンズを装着していると使えません。その場合は、視力のニーズに合った「ZEISS Optical Inserts」(16,800円)が必要となります。

設定が終わってVision Proを被ると、自然に外が見え、よく見ると周囲は少し歪んでいるものの、視界上の“被っている感”は全く感じません。筆者もVR系はわりと苦手なのですが、Apple Vision Proでは、長時間つけても、VRヘッドマウントディスプレイ特有の“酔う”感覚はありません。

本体右上の「デジタルクラウン」を押すと、空間にアプリアイコンが表示され、現実空間とVison Proの画面が融合して見えます。

左にトップボタン、右上にデジタルクラウン

アイコンを“視線”で選んでタップ(2本の指を挟む)と「決定」となります。アイコンを見て、親指と人差し指を繋ぐだけです。ホームボタンでメニューを表示し、アプリを選択/決定して、SafariやApple TVを操作するといった基本操作であれば、数分で慣れると思います。

ホームメニュー。ビデオシースルーの透過度はデジタルクラウンを回して調整できる

Apple Vision Proの基本的なジェスチャとコントロールについて

「ウィンドウの位置やサイズの変更」や「コンテンツを中央に戻す」など、細かな操作については、都度調べながら“体験”して覚えていく必要があります。ただし、使ってみると「なるほど」と思える操作性となっており、使い方を覚えるのも楽しいデバイスといえますし、使ってみると、合理的なインターフェイスとも感じます。

少し面倒なのは、文字入力。IDやパスワード入力で文字種を変更しながら入力するときは少しストレスを感じることもありました。なお、App Storeでのアプリダウンロードなどは、2度目以降は目の虹彩で認証する「Optic ID」を活用するため、全くストレスはありません。

一番わかりやすい用途は「エンタメ」

2024年8月時点、Apple Vision Proの最もわかりやすい用途は、エンターテイメントでしょう。この体験がとにかく素晴らしい。細かいことは、AV Watchの記事でも紹介していますが、Apple TV+やNetflixのドラマや映画体験は本当に素晴らしいクオリティです。

もともとVision Proを借りる目的の1つが、AV Watchの全スタッフに見て体験してもらうことでした。今後、新しい映像/音楽体験に触れる機会がある場合でも、Vision Proがひとつの基準になるだろうと思ったからです。その成果については以下の記事にまとめています。

クオリティについての細かいことは上記記事を見ていただくとして、筆者もApple TV+やNetflixで2週間ほどコンテンツを楽しみましたが、かぶるだけですぐに映画やドラマの世界に没入できるのは、テレビやプロジェクタとも違った体験。そして、特に色の鮮やかさやコントラスト感は、一般的なテレビを上回っており、暗部が本当に真っ暗なので迫力は高い。音質も、普通のテレビのスピーカーよりは迫力が感じられると思います。

空間の没入感は、本体のデジタルクラウンを使って、完全にパススルーで外が見える設定から、背景を変更して没入感を高められるようになっています。また、TVアプリの「映画館」では、シアター風の没入空間となり、“座席”や高さが選択できます。「かぶるだけで映画館」という体験が実現できているのは、他のヘッドマウントディスプレイと違うApple Vision Proならではの特徴と言えます。

Apple Vision Proの環境で映画やテレビを視聴する

Vision Proを被ってしまえば、それほど重さは感じることはありません。ただし、本体自体の重量はそれなりにある(600〜650g)ため、2時間も被っていると、さすがに首周りが疲れる感覚はあります。このあたりは、慣れやその日のコンディションにもよる部分はあり、テレビを見るよりはやはりハードルはあるかな、と感じます。

外をシースルーで表示していれば、動きながらの利用も可能ですが、バッテリはケーブルで外出しのため、Vision Proを使いながら別の部屋にコーヒーを取りに行くときにバッテリを落としそうになる、といったことには注意しましょう。

忘れがちなバッテリの存在

個人的には、エンターテイメント体験だけでも、60万円の価値は見いだせると感じました(買えませんが)。当たり前過ぎる弱点としては、複数の人でコンテンツを楽しめないことですが、それよりも、確実にエンターテイメントが進化していく、という実感と期待がApple Vision Proにはあります。“未来”を少し前倒しで体験できる感覚が、現状のApple Vision Proの魅力だと思います。

空間PersonaとFaceTimeの可能性

Apple Vision Proのエンタメ以外の主要な使い方として、Macの4Kディスプレイとして使用する「Mac仮想ディスプレイ」があります。Apple Vision ProをMacのディスプレイとして活用し、キーボード入力などもそのまま使えるようになります。また、Vision OS 1.2では、2画面も出せる予定です。

Mac で Apple Vision Pro を使う

筆者は仮想ディスプレイ対応のMacを使っていないため、ほぼ体験できず、仕事でVision Proを使う(使える)シーンはあまりありません。今のところコンピューターとしてフル活用するには、対応Macが必要かと思います。

シースルー品質の高いApple Vision Proですが、Vision Proを通して、別のパソコンの画面を操作するのはさすがに厳しく、文字がちらつくなどで、おすすめしづらいものがあります。このあたりは、素直にMac仮想ディスプレイを使うべきでしょう(Macを持っていれば)。

体験して面白かったのは「FaceTime」での通話。Apple Vision Proを被ってしまうと、自分の顔を出したビデオ通話は不可能です。そこで、Vision Proのカメラで自分自身の顔を撮影し、アバターといえる「Persona」を作成。このPersonaがFaceTimeでの通話で、自分の顔として使われるようになります。

Persona自体、最初からイメージに近いものができますが、肌のトーンなども細かく設定可能です。また、Apple Vision Proならではの“空間”を活かしたコミュニケーションができる点が特徴です。

Personaを作成

実際にFaceTimeでビデオ通話をすると、相手の顔が空間に浮かんで表示されます。この機能は「空間Persona」と呼ばれており、実際に空間を共有しているかのように“距離感”も反映されるのが面白いところです。部屋の中を少し歩くと、場所が遠くなったり、後ろに回り込んだりと、表示場所が変わるだけでなく、声が聞こえてくる方向もかわります。「空間の再現」は嘘ではなく、Vision Proユーザーが増えれば、ビデオ通話や会議が大きく変わりそうです。

また、大阪と東京の複数のオフィス間でテストしましたが、タイムラグは殆ど感じません。この点でも“同じ空間を共有している感”があり、新たな体験と感じました。

加えて、SharePlayにより、同じ番組などを同じ空間Personaで見ることもできます。Apple TVなど一部アプリで対応しており、例えば同じドラマを一緒に楽しむ、といったことも可能です。ただし、参加している全員が同じコンテンツ、例えばApple TVで3人が一緒に「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」を見るなら、3人が同作品をApple TVで購入する必要があります。

なお、MacやiPadでもFaceTimeには参加可能ですが、空間Personaではなく普通のFaceTimeへの参加となり、Personaも使えません。

余談ですが、Apple Vision Proを被っていて一番困るのが、iPadやiPhoneを操作する場合です。iPhone等のロック解除に「Face ID」が使えず、パスコードを入れる羽目になるので、少しストレスを感じます。

体験する人の心を動かすデバイス ただデモは面倒

インプレスの社内でも、Apple Vision Proを使ってみましたが、使っていると、人が寄ってくるので、何人かにデモを行なったほか、5~8人程度を集めた体験会も開催しました。

体験会の模様

主なデモ内容は、Apple Vision Proの「ゲストモード」で視線による操作を体験してもらうことと、Apple TVにおけるイマーシブコンテンツの「アドベンチャー」(ハイライニング)(パルクール)やいくつかのドラマ、Safariのブラウズ、「日経新聞空間版」の体験など簡単なものです。

動画や日経新聞空間版などを体験

ほとんどの人からは、操作の目新しさへの驚きや、シースルーの画質の良さ、「酔わないかも」といったポジティブな声が聞こえてきます。

Apple Vision Proの操作では、本来指の位置を動かす必要はないのですが、「手が動いてしまう」といった声も。また、コンテンツのクオリティについても、特にイマーシブ系のコンテンツについては「やばい」「すごい」という評価(?)、すごいものをみた、的な感想がほとんどです。体験者は、情報としてはApple Vision Proについて相当詳しい人から、ほぼ知識なしという人まで様々ですが、概ね「新鮮な体験」という意味で意見は一致していました。

ほとんどの人は「酔わない」と言っていましたが、180度や360度が視界になるイマーシブ系のコンテンツでは「ちょっと酔うかも」という声もありました。

とにかく「体験」が重要なApple Vision Proですが、体験してもらうには「課題」もありました。

根本的なものは、メガネの人は基本使えない、ということ。メガネをかけている人も3人が試してみましたが、メガネを外してギリギリ見える人は使えますが、全く見えず使えない人も。仕組み上しようがないのですが、誰でも使いやすいという状況には至っていません。

また、“かぶる”ことも慣れていない人には少しハードルです。というのもVision Proは、629gとそれなりに重く、しっかりと調整する必要があります、かぶって、操作を覚えて、デモを体験してもらうまで、だいたい5分~10分程度はかかり、体験するにも時間と意欲が必要です。大人数で体験会を運営するのは困難です。体験しないとスゴさがわからない製品だけに、「体験しにくさ」は今後の拡大の課題と感じます。

また、Vision Proの操作のためには、しっかり装着する必要がありますが、「夏」なので汗もかきます。パッド部の拭き取りなどはやっていましたが、特に女性からはファンデーションが落ちるので今は避けたい、という声も多数聞かれました。

体験会をしていて面倒だったのが、「プライバシー」について。Apple Vision Proは、基本的にApple IDに紐づいて管理されます。そのまま渡して被ってもらうと、私の視線に最適化されて使いにくいだけでなく、メッセージや写真などが見えてしまうことになります。

他の人に体験してもらうため、Apple Vision Proには「ゲストモード」が用意されているので、デモではこれを使います。ただ、これを呼び出すには、自分がかぶってゲストモードに設定して、体験者に渡して、5分以内に使ってもらう必要があります。また、ゲストモードでの体験中もMacやiPadでプレビューできるので、操作のアドバイスはできますが、Apple TVの著作権保護コンテンツを再生するとミラーリングが切れ、操作のアドバイスはできなくなります。今見ている“であろう“操作画面を想像しながら、使い方を教えるのはなかなか大変で、説明員(私)の負荷がまあまあ高い、という課題もありました。

MacやiPadで指示しながらデモを行なう

そのため、1時間で数人程度しか体験できません。多くの人に見てもらいたいけれど、そのためにはそれなりの労力も必要という、わりと今までになかったデジタルデバイスではあります。ただ、多くの人が驚き興奮してくれるという意味では、類を見ないデバイスだとも言えます。

ほかの人がApple Vision Proを使えるようにする

進化の最前線

間違いなく高価であるApple Vision Proですが、エンターテイメントディスプレイとしては発売直後から一級品です。3D映画を見る人や、一人でハイクオリティなコンテンツを楽しみたい人にはオススメできます。反面、「今日明日の仕事にめちゃくちゃ役立つ」という部分は少ないかもしれません。

ただし、FaceTimeでのコミュニケーションのような、今後のテクノロジー変化の方向性を真っ先に感じられるのは、Apple Vision Proならではの特徴です。今後の「可能性」を感じるという意味では、これほど面白いデバイスはないでしょう。

秋にはVision OSの大型アップデートされており、今後も急速に進化していくことでしょう。進化の「最前線」に触れたい人は、まず、Apple Vision Proを体験してみましょう。Apple Storeで予約して、コンテンツや操作のデモが体験可能となっています。

臼田勤哉