トピック

【オタク家を買う】40代独身オタクがなぜマイホームを買おうと思ったか

白根雅彦 45歳。長らくの都会暮らしだ(イメージ)

2021年1月、家を買おうと思った。

理由はいくつかあるが、最大の理由は、東京に住んでいる理由が激減したことにある。筆者は在宅勤務な自営ライターで、もともと家に引きこもるタチだが、コロナ禍で引きこもり度合いが加速した。仕事での外出機会は昨年末あたりからやや戻ってきたが、それでもオフラインの取材は週1回あるかどうかというくらいだ。

ボッチなオタクなので、プライベートでも街で遊んだり飲み歩く趣味はないし、それよりオンラインゲームの世界をぶらつく方が好きである。食事も運動も自宅内で完結するようになり、そこそこ低コストで健康的な引きこもり生活スタイルを確立した。

こうなってくると、都会のマンションに住んでいる意味がない。

筆者が10歳まで住んでいた生家(取り壊し済み)にはそこそこ広い庭があった

逆に東京以外に住みたいと思うようになってきた。筆者は生まれてから45年間、ずっと東京暮らしだ。10歳まで住んだ生家以外は庭のない集合住宅ばかりで、カーテン越しにうっすら見えるのは隣の家、窓を開けても騒音ばかり、自家用車は不要だけど逆に持ちにくい、そんな都会暮らしだ。

都会暮らしに大きな不満があるわけではないが、もう一度、庭のある一戸建てで暮らしたい。車も持ちたい。焚き火台で塊肉を焼いたり、サウナテントで汗だくになったり、デッキチェアに寝転んで空をボケーっと眺めたり、ボッチおじさんらしい庭遊びをしたい。

また、これまで20年ほど住んできた築50年ほどの分譲マンションは、そろそろ建て替えなどで面倒なことになると予想される。ギリギリになって急いで引っ越し先を探すくらいなら、ゆっくりと時間もコストも手間もかけ、理想の住処に辿り着きたい。

筆者は1976年生まれの45歳。車必須の地域で快適・安全に暮らせるのは、せいぜいあと30年くらいだろう。暮らし方を変えるには悪くないタイミングだ。そんなことを思い、理想のマイホーム探しを開始した。

「どんな暮らしをしたいか」で考える理想のマイホーム

マイホーム計画のきっかけのひとつ、無印良品の「陽の家」。取材して郊外暮らしっていいなと感じたのである

家を買うなら、まず最初に「どんな暮らしをしたいか」をなるべく具体的にイメージする必要がある。

都内の集合住宅での暮らしの長い筆者としては、「家に引きこもっていても開放感のある暮らしをしたい」と考えた。

滞在時間の長いリビングルームと書斎に大きめの窓を配置し、立地や庭を工夫して、その窓にカーテンをかけずに暮らせるようなプライバシーを確保する。窓から見える山や海、空といった眺望を壁紙代わりにして生活するイメージだ。

筆者が契約したハウスメーカー(トヨタホーム)のモデルハウス。こういう大きめの窓が欲しい

さらに庭も広めに確保し、リビングルームから出入りしやすくすることで、室内・室外を一体的に利用できるようにする。気軽に使えるウッドデッキも欲しいし、テントも張れる庭も欲しい。土地によっては広いルーフバルコニーでも良い。そして庭やバルコニーも外から覗かれないようにして、全裸で寝っ転がっても通報されないプライバシーを確保したい。

このような眺望、プライバシー、広さを確保するとなると、筆者の予算では都内に土地を確保するのは難しく、都会からはそれなりに離れないといけない。

東京から100分も離れると、こういった景色を独占できる土地も売られている

ではどのくらい東京から離れてもOKか。車移動が主体になるかもしれないが、都心とは公共交通での往来も想定する。例えば週5で片道30分の通勤をしている人は、毎週300分を通勤に費やしている。筆者が週1で上京すると仮定するなら、片道150分かかっても同等だ。しかし筆者の場合、仕事の訪問先(主に取材先)はいつも同じ場所ではなく、その時々で違ってくる。そこまでの移動時間を考え、「山手線主要駅のいずれかまで100分以内」という条件を設定した。

予算は総額で最大8,000万円とした。ローンではなく現金一括払いだ。

8,000万円となると、都内のそこそこエリアに建売の新築一戸建てが買える。東京から離れるなら、もっと安く家を買うこともできる。しかしあえて予算を減らすのではなく、理想を満たすべく、土地の広さや眺望、プライバシー、建物の広さや住宅設備、そして外構などにコストをかけようと思った。

家のコンセプトから導き出される「フルオーダー注文住宅」という解

筆者の理想のマイホームのイメージが固まってきた。大雑把には以下のような感じだ。

(1)大開口窓にカーテンをかけずに生活できるプライバシーと眺望を確保
(2)そこそこの広さの庭とリビングルームがシームレスに接続
(3)山手線主要駅から100分以内(週1くらいで上京しても苦にならない立地)
(4)総予算は最大8,000万円で家の広さは100m2(30坪)くらい

一般的なニーズからは外れた家だ。コストを重視する建売ではほとんどありえない。とくに大開口窓はコストが高くなるので建売住宅ではあまり採用されない。

中古だと、鎌倉とか人気の高級住宅地にこだわりの中古住宅が流通することがあるが、それでも筆者のニーズをピッタリ満たす住宅なんてありえないし、そうした高級中古住宅は2億円とかがザラで手が出ない。

理想を追求するなら、自分で土地を探し、自分の好みを盛り込んだ家を建てるしかない。誰か知らない人の考えでデザインされた家ではダメだ。ハウスメーカーに話を持ち込み、自分の要望を盛り込んだ家を建ててもらう、フルオーダーの注文住宅である。

注文住宅ってどんな家?

施主が所有する土地に、施主の依頼でハウスメーカーが住宅を建築するのが注文住宅だ。

土地はどのように調達しても良い。新規購入、建て替え、相続、換地など、さまざまなパターンがあるが、今回の計画では、筆者が自分で土地を探し、いくつかのハウスメーカーに「この土地に家を建てたいんですけど!」と話を持ちかけた。

広義の注文住宅には、ある程度、デザインが決まっている規格住宅も含まれるが、今回の筆者はイチから家をデザインするフルオーダーの注文住宅に取り組んでいる。法律的・技術的・コスト的な制限はあるが、筆者はその制限の中で目一杯フリーダムにやらせてもらっている。

新宿の住宅展示場。ハウスメーカーを決めるまではこうした住宅展示場に何度も足を運ぶことになる

もちろん設計するのは設計士で、施主となる筆者は「ここを広げてくれ」とか「ここにはこの部材を使ってくれ」と要望を出すだけだ。しかし要望を出せば出すほど、図面が自分の理想に近づいていく(あるいは意図しない方向に向かって行く)のが面白い。

ただし、フルオーダーの注文住宅には手間も時間もコストもかかる。しかし筆者は調べ物や勉強をして知見を増やしていくのも、モノを作っていくのも、どちらかといえば大好物だ。幸いにも時間も金もそこそこある。

そして注文住宅でしか実現できない理想のマイホーム像がある。これはいっちょ取り組んでみるか、と思った次第だ。

ホントに建つかわからない状態から開始する注文住宅

検討を進めることで、「そんな家は8,000万円では無理」となる可能性だってあったが、それはそれで構わないと思っていた。「無理」となっても、どういった課題があるかを知りたいし、解決する方法を考えたいし、それでも無理なら、コンセプトを修正すれば良い。ぶつかる壁が見えてもいないのに、理想水準を下げていくのは面白くない。まずは自分が考える最強のマイホームを実現する計画を始動することにした。

土地を契約したときにもらった書類ケース。いろいろな注意書き的なものがたくさん入ってる

かくして2021年1月、筆者の理想のマイホーム建築計画がスタートした。最初は何もわからないところからのスタートだったが、いくつかの妥協と幸運、多くの知見と考察の結果、なかなか面白い土地とハウスメーカーにたどり着けた。2022年2月に土地とハウスメーカーの契約にこぎつけ、現在はハウスメーカーと打ち合わせ中だ。順調にいけば2022年10月ごろには建物が引き渡しとなる見込みである。

順調に行かないことがあるのも、注文住宅の醍醐味だが……。

この連載では筆者がどのように理想のマイホームを建てていくのか、何回になるかわからないが、複数回にわたってお届けする。