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コード決済、「店にも決済限度額」があるってどういうこと?

QR/バーコードなどの「コード決済」には限度額がある。自分がその決済方法で支払える額には、限度が設定されている。クレジットカードにもあるから、みなさんにもおなじみだろう。

では、同じものが「店舗」にもある、というのはご存じだろうか? 店側にもその決済で受け取れる金額に上限が設定されていて、それを超えると決済できなくなるのだ。

あまり知られていないが、実際、月末になると「限度額を超えたので、その決済での支払いは受け付けられない」という事例が出始めている。

なぜ、どんな理由で、どんな事業者が導入しているのか? ちょっと調べてみた。

店の事情で「今月はもう決済できない」ことも

きっかけは、ごく個人的な体験だった。5月末のある日、筆者はあるクイックマッサージ店を訪れた。首のこりが辛く、楽になりたかったからだ。

そのチェーンでは、「PayPay」が導入されている。現金を出すのは面倒なので、その店ではPayPayを使うのが習慣になっていた。

だが、支払おうとすると、店員から意外なことを言われる。

「すみません、限度額になって、今、PayPayが使えないんですよ……」

決済開始前に言われたので、もちろん「自分の決済限度額」の話ではない。店舗としての決済限度額を超えた、というのだ。店員曰く、「チェーン全体で限度額が決まっていて、それを超えると通達が来る。このところ、毎月月末にはそうなってしまう」とのこと。

こうした経験は初めてだったので、ちょっと驚いた。店は受け取る側だから、まさか限度額があるとは思いもしなかった。

しかたないのでその場は現金で支払ったが、疑問は残った。

SNSを検索してみると、どうやら、同じような事例は少なくないらしい。

つてを頼り、PayPayを導入しているいくつかの企業や店舗にも、決済限度額の話を聞いてみた。SNSにも書き込んだところ、情報を寄せてくれる方もいた。

その話を総合すると、どうやらこういうことであるようだ。

「決済限度額が設定されている店舗はある。ただし、決済限度額がない店もある。限度額は店の規模や取引状況で変わっており、一定しない。決定は、運営側の一存で行なわれている。限度額にひっかかった場合、店舗サポート窓口に問い合わせると、限度額を拡大できることがある」

「店舗側の決済限度額」は、確かにあるようだ。

コード決済ではPayPayのみ? 利用者にもわかりやすい形を望む

実際のところどうなのか? 各決済事業者に「店舗側限度額はあるのか」「なぜ設定されているのか」「店舗側限度額を撤廃することはできるのか」などを質問してみた。

大手決済事業者に聞いてみたが、基本的には「契約上のことなので詳細は未公開」。ただし、「上限は設定していない」(LINE Pay、d払い)、「詳細は未公開とさせていただきたいが、少なくとも、支払いたいが支払えない、ということは弊社では起きない」(メルペイ)といった回答を得た。

明確に「店舗側限度額が設定されている」とコメントしたのは、前述のPayPayだけだ。

設定している理由をPayPayは「安全に決済を行なっていただくため」としており、それ以上の詳細は未公開である。

ただ、加入店舗へのヒヤリングなどを総合すると、全体像は見えてきた。

店舗側限度額が設定されているのは、基本的には、詐欺や事故の対策のため。すなわち「与信」である。PayPayでは「20%還元」などの大規模キャンペーンもあったため、その悪用の懸念があった。店舗として契約し、客を装って決済だけを繰り返すことで、キャンペーンを悪用することも不可能ではない。

そのため、一回の利用額が大きくなりがちな業種など、いくつかの場合では、店舗側限度額を設定し、そうした事故を防いでいる。そもそも利用額が小さく、単価も小さい店では問題が起きにくいので限度額の話が表に出てくることはなく、そうでない店ではひっかかる可能性があった……ということのようだ。

前述のように、コード決済でこうした仕組みを導入している企業は、今回のところPayPayだけだった。だが、決済額を設定することでリスクを回避する、という考え方自体は「理解できる」と答える店舗関係者もあった。

ただどちらにしろ、「正常に決済が行なえている店舗であれば、店舗側のサポート窓口に問い合わせてほしい」とPayPay側は説明している。実際、そうやって枠を拡大してもらった店舗も存在した。だから、これが大きな問題か、というとそうではなかろう。

だが、個人の決済限度額と違い、店舗の決済限度額は「利用する人」の側に見えない。決済しようと思っても自分のあずかり知らぬ理由でできない、というのは、顧客体験として間違っている。

もちろん店舗での決済事故は避け得ない部分があり、それに対処するのも決済事業者の仕事だ。だから、こうした措置を無碍に否定するものではない。

しかし、その結果が決済をする人と店の体験を落とす形にならないよう、工夫してほしいとは思うのだ。