中小店舗のキャッシュレス対応

第2回

「Airレジ」をまずキャッシュ“だけ”導入。予想外の反響が……

前回は、筆者の家族が経営する店「紀の善」で、10月1日の消費税増税と軽減税率制度の開始と、キャッシュレスへの対応を実現するために、レジシステムを刷新することになったいきさつを紹介しました。今回は、実際にレジシステム刷新に合わせて揃えた機材や各種設定、実際に導入したレジシステムの使い勝手などを見ていきたいと思います。

iPad、レシートプリンター、キャッシュドロアーなどを用意

前回紹介したように、刷新するレジシステムとして選択したのは、リクルートライフスタイルが提供しているモバイルPOSシステム(mPOS)「Airレジ」でした。導入を決定したのは2018年12月中旬頃で、'19年1月上旬よりAirレジを利用するために必要な機材の調達を開始しました。

Airレジのアプリは、iOS 11以降が動作するiPadまたはiPhoneで動作するようになっています。さすがに画面の小さいiPhoneでレジを構築するわけにはいきませんので、当然選択するのはタブレットのiPadとなります。そして、実際に選んだのはiPadシリーズの中で画面サイズが最も大きい「iPad Pro 第2世代 12.9インチ」でした。

Airレジ用として選択した「iPad Pro 第2世代 12.9インチ」。操作性を考慮して大画面モデルを選択

iPad Proの12.9インチを選択したのにはいくつか理由があります。まず1つは、操作性の考慮です。

実際にAirレジをはじめとしたmPOSを利用している店舗をチェックしてみると、9.7型ディスプレイを搭載するiPadを使っている例が多く見受けられます。タブレットとしては特別小さいわけではありませんし、何よりiPadシリーズの中で最も安く購入できますから、選択する例が多いのも当然と言っていいでしょう。

ただ、実際に量販店などで製品を触りながら操作感をチェックしたところ、9.7型ディスプレイでは表示される文字やボタン類がやや小さく、扱いづらい場面が出てきそう、という印象を受けました。実際に店でレジを担当している従業員は年齢層の幅が広いので、なるべく文字や操作ボタンを大きく表示して操作しやすくなるように、最大サイズを選択したというわけです。

文字やボタンが大きく表示されるので、扱いやすいと考えての選択

そしてもう1つは、軽減税率対策補助金の存在です。今回選択した12.9インチiPad Proは、最も安いモデル(Wi-Fi/64GB)でも購入時点での販売価格が約86,000円と、そこそこ高価です。しかし、軽減税率対策補助金制度を利用することで、購入金額の1/2が補助されて、実質43,000円で購入できることになります。延長サポート「AppleCare+」の料金15,984円を加えたとしても、実質59,000円で、コスト的な負担を大幅に軽減できます。おそらく、この制度がなければかなり躊躇しそうな価格でしたが、今回は制度を有効に活用することで選択できたわけです。

軽減税率対策補助金制度でタブレット購入金額の1/2が補助されるということも購入を後押し

この他に必要となる機材としては、iPadと接続して利用できるレシートプリンター、現金を入れておくキャッシュドロアーなどです。

レシートプリンターはAirレジが対応しているスター精密の「TSP654IIBI-240F JP」を選択しました。そして、キャッシュドロアーは、TSP654IIBI-240F JPに接続して自動オープンが可能なものを選択。さらに、消費税増税開始までにコード決済へも対応する計画でしたので、ソケットモバイルのバーコードリーダー「cx2895-1508-r-wht」も購入。

この他、タブレットスタンドをはじめとした小物類も購入して、総額は203,870円となりました。

レシートプリンターは、スター精密の「TSP654IIBI-240F JP」を選択
こちらはレシートプリンターに接続して自動オープンが可能なキャッシュドロアー
コード決済対応も考慮してソケットモバイルのバーコードリーダー「cx2895-1508-r-wht」も購入

そして、今回揃えた機材のうち、iPadとレシートプリンター、バーコードリーダーの3製品が軽減税率対策補助金の対象となっています。これによって、iPadは購入金額の1/2、レシートプリンターとバーコードリーダーは購入金額の3/4が補助されることになります。計算すると、補助金の総額は約10万円となりました。つまり、実質10万円少々で全ての機材が揃えられた計算です。実際に金額を計算してみると、軽減税率対策補助金制度は非常にありがたく感じます。

ところで、軽減税率対策補助金が受けられる製品の種類は、タブレット、レシートプリンター、バーコードリーダー、キャッシュドロアー、Wi-Fiルーターなど、かなり多岐に渡っています。ただし、補助金が受けられるのは、利用するmPOSの提供業者が指定した製品のみとなります。今回購入した機器では、iPadとレシートプリンター、バーコードリーダーの3製品が補助金対象の製品でしたが、その他は補助金対象外の製品を選びました。なぜなら、補助金対象として指定されている製品の仕様が、店での利用にマッチしていなかったためです。全ての機器を補助金対象製品から選べば、それだけ投資を抑えられることになりますが、今回はそれよりも利便性を優先した形です。

軽減税率対策補助金では、タブレットは1/2、その他の機器や設置に要する経費は3/4が補助される
補助金対象となる商品は、タブレット、レシートプリンター、バーコードリーダー、キャッシュドロアー、Wi-Fiルーターなど多岐に渡っている
補助を受けられる製品は、mPOS業者が指定する製品のみ

なお、軽減税率対策補助金を利用するには、システムを2019年9月30日までに導入・改修するとともに支払いが完了している必要があります(申請は12月16日まで)。ただ、期限直前になると、駆け込みで製品が売り切れていて、期限までに必要な機材を揃えられないということも考えられます。

そのため、軽減税率制度を利用してレジシステムの刷新を考えているなら、なるべく早めに動くことをお勧めします。

初期設定はパソコン。カスタマーディスプレイはAndroidスマホを活用

以上の機材を発注したのは1月中旬で、発注した機材が全て揃ったのは発注から3日後でした。その後、iPad起動してセットアップし、Airレジアプリをダウンロード。そしてAirレジにログイン後、レシートプリンターを接続するとともに、iPadをはじめとした製品全てが問題なく動作することを確認しました。

続いてAirレジの設定です。設定でやるべきこととしては、レジ内の準備金の登録、販売商品と価格の登録、レジ画面の商品ボタン登録、レシート様式の登録などです。細かい設定方法は省きますが、その中で最も面倒なのが販売商品と価格の登録です。商品ごとに、商品名や価格、税率などを入力して登録していくことになります。当然ですが、商品数が多いとそれだけ面倒な作業となりますし、それをiPadで作業するのはかなりやりづらいものです。

iPadで起動したAirレジアプリのメインメニュー。この中の「設定」から各種設定を行なう

ただ、Airレジでは、PCからブラウザーを利用してアクセスできる管理メニュー「Airレジ バックオフィス」に、商品を登録する機能が用意されています。合わせて、CSV形式の商品登録テンプレートをダウンロードして、Excelなどの表計算ソフトで商品名や価格、税率などを入力したあとに、そのファイルを転送することで、一括登録が可能です。

もともと、商品や価格のリストはデータ化していたこともありますので、今回はこのCSV形式の商品登録テンプレートを利用することで、それほど手間をかけることなく商品や価格を登録できました。

こちらはPCなどのブラウザーからアクセスする管理メニュー「Airレジ バックオフィス」。商品登録などの設定はこちらでも行なえる
Airレジ バックオフィスの商品登録メニュー。パソコンならキーボードで比較的快適に作業できる
Airレジバックオフィスなら、CSV形式の商品登録テンプレートを利用して、商品の一括登録も可能
すでにパソコンで商品や価格がリスト化していたので、Excelで簡単に商品登録できた
商品を登録したら、タブレットでレジ画面の商品ボタンなどを設定

また、4月にAirレジアプリがアップデートされて、新たに軽減税率の準備機能が追加されました。商品設定メニューに「消費税率改定の準備をする」というボタンが追加されて、そこから製品ごとに税率を設定できるようになりました。

ここで商品ごとに10%の標準税率と8%の軽減税率を設定しておけば、10月1日に自動的に税率が切り替わることになります。簡単に税率を変更できるのはもちろん、現時点で設定しておけば切り替わりの時に慌てることもありませんので、かなり便利に感じました。

4月のアップデートで、軽減税率の準備機能が追加された
商品ごとに10%の標準税率と8%の軽減税率を設定しておけば、10月1日に自動的に税率が切り替わる

(軽減税率以外の)初期設定は、3~4時間ほどで終了しました。その後、数日かけて動作確認や細かな設定の見直しなどを行ない、1週間後には最終的に運用できる状態となりました。

ところで、通常レジシステムには、お客様側に向けて金額などを表示する「カスタマーディスプレイ」と呼ばれる機器が付いています。そして、Airレジにもカスタマーディスプレイを利用する機能が用意されています。

標準では、AirレジのカスタマーディスプレイはiPhoneやiPod Touchの利用が推奨されています。ただ、Airレジのカスタマーディスプレイ機能は、Airレジを導入しているiPad内に作られたカスタマーディスプレイ用のWebページに、iPhoneなどからWebブラウザーでアクセスすることで、そのiPhoneがカスタマーディスプレイとして機能するという仕様となっています。

そのため、実はiPhoneだけでなく、Android端末をカスタマーディスプレイとして利用することも可能なのです。実際に手持ちのAndroidスマートフォンで試したところ、問題なく利用できることを確認ししました。そこで今回は、余っていたAndroidスマートフォンをカスタマーディスプレイとして活用することにしました。

余っていたAndroidスマホをカスタマーディスプレイに利用

まずは現金決済のみで2月頭より運用開始!

このような過程を経て、1月末にAirレジを利用する準備が全て整いました。そして、店は月曜日が定休日となっているので、2月の第1火曜日となる2月5日から運用を開始しました。運用開始日を2月5日に設定したのは、比較的お客様の多い週末を外すことで、操作の未習熟によるトラブルをなるべく減らそうと思ったからです。

また、まずは現金決済のみで運用を開始しました。Airレジの導入を決めた時点で、クレジットカードと電子マネーの決済サービス「Airペイ」と、QRコードまたはバーコードを利用するコード決済サービス「AirペイQR」も同時に申し込んでいて、そのうち一部クレジットカードは1月末時点で利用可能になっていました。

ただ、まずはレジ担当の店員にAirレジの操作に慣れてもらうことが重要と考えて、あえて現金のみでの運用としました。

こちらが実際に店で運用しているAirレジのシステム。2月5日より現金のみでの運用開始した

運用開始直後は、それまでのレジとは全く異なる操作方法になったことで、店員が操作に戸惑う場面が見られました。

例えば、間違った入力の訂正や、間違ったボタンを押して違う画面に遷移してしまった時に、どうすればいいのか戸惑うことが多かったようです。そういった場合は、操作を確認しながらのレジ対応となってしまいますので、どうしてもお客様をお待たせしてしまい、ご迷惑をおかけする場面もありました。

ただ、1週間もすれば皆操作に慣れ、それまで使っていたレジシステムとほとんど変わらずスムーズに対応できるようになりました。実際にレジ担当の店員に使い勝手を聞いてみても、難しい部分はほとんどなく、文字やボタンも大きくて扱いやすいという声ばかりでした。

大画面のiPadにしたおかげもあって、店員からも扱いやすいという評価だった

ただ、実際に運用してみると、Airレジ側の機能に問題がいくつか見えてきました。

多くは運用上致命的なものではないのですが、ひとつだけ重大な問題があります。それは、レジとして運用しているタブレットで、レジ機能だけでなく、売上げの確認や設定など、全ての機能に誰でもアクセスできてしまうというものです。

レジとして利用しているタブレットでは、レジ機能のみに制限して運用したいのですが、現時点ではそれができないのです。リクルートライフスタイルには、Airレジの利用者からタブレットで使える機能を限定したいという要望が多く届いているそうで、そういった機能の実装も予定しているそうです。しかし、この原稿を執筆している6月初旬時点では、まだ実装されていません。とにかく、この点は早急に改善してほしいと思います。

現時点ではタブレットで利用できる機能を制限できず、全ての機能を誰でも使えてしまう。この点は早急な改善を期待したい

予想外の「カード使えないの?」増加。キャッシュレス化は1カ月後

今回、店にAirレジを導入して運用を開始した直後から、お客様に、クレジットカードや電子マネーが使えないのかと聞かれることが増えました。そういった声は、以前は1日に数人だったのが、Airレジ導入後はかなり大勢の人から頻繁に聞かれるようになったのです。

タブレットを使ったレジということが、キャッシュレスへの対応を期待させるということもあるのでしょう。しかし、想定以上の反響には少々驚きました。そして、その反響からも、キャッシュレス対応は避けられないという思いを強くし、Airレジ導入から1カ月後となる3月頭からキャッシュレス対応を開始すると決定したのでした。

というわけで次回は、店でのキャッシュレス対応について取り上げたいと思います。

平澤 寿康