西田宗千佳のイマトミライ

第361回

Meta、メタバースからの戦略転換 AIグラスと大ヒット「Muse」が狙うもの

Meta Connect基調講演の様子

Metaは9月24日・25日の2日間、米・カリフォルニア州メンローパークにある同社本社にて、年次開発者イベントである「Meta Connect 2026」を開催した。

筆者も現地へ赴いて取材してきたが、その最初のレポートは僚誌AV Watchに掲載している。発表の主軸の1つは、新しいVRデバイスである「Meta VR Glasses」の発表だ。

Meta VR Glasses

ただし、これがMeta Connectのコアだったかというとそうではない。派手な発表ではあるが、Metaの発表の根幹はまた別のところにある。

それは、同社が9月にアメリカでスタートしたAIサービスである「Meta Muse」であり、Meta Museを核にした施策である。

Metaの戦略的サービスである「Meta Muse」

MetaのAIサービスはこれまで、率直にいってあまり支持されていなかった。だがMeta Museは非常に好調であり、同社のあり方を大きく変えつつある。

そして、Meta Museに代表される「エージェンティックAIサービス」は各社が核に据えていく存在であり、スマホやPCなど、IT機器との関わり方を大きく変えていくものでもある。

それはどういうことなのかを解説してみたい。

大量のバリエーションで普及を図るAIグラス

Metaは複数のハードウェア製品を発売している。その中でも大きなパイを占めるようになったのが「AIグラス」だ。

2023年10月にアメリカで発売した「Ray-Ban Meta」を中心としたAIグラスは、販売を拡大しており、同様のコンセプトの製品が複数の企業から発売されるようになった。

Metaも今回、「Ray-Ban Meta」の第3世代製品や、カメラを搭載しないオーディオ専用の「Ray-Ban Meta Audio」(アメリカでは10月発売、日本での展開は2027年中)を発表している。

Ray-Ban Meta Gen 3

米Counterpointの調べによると、現在の市場では96%がディスプレイ非搭載製品であり、ディスプレイ非搭載製品においてはMetaが94%のシェアを持っている(2026年上半期)。Metaの製品も、2026年には全世界での累計販売台数が1,000万台を超えると予測されている。

Metaが積極的なビジネス展開に出ているのもこのシェアを背景にしたものだ。

そして、これまでの同社の成功も、世界最大のアイウェアメーカーである、エシロールルックスオティカとの提携による部分が大きい。初期から品質の高いバリエーションを多数用意し、街中に数多く存在するエシロールルックスオティカのメガネ販路で販売できたため、素早く浸透した。メガネやサングラスは個性を演出するものであり、機能だけでなくバリエーションの豊富さが重要であるからだ。

Metaはこの戦略を継続する。マーク・ザッカーバーグCEOは「年末までに100種類以上のスタイルを展開する」としている。

Metaのマーク・ザッカーバーグCEO。大量のAIグラスのバリエーションを見せ、ビジネス拡大をアピール

「世界で20億人がメガネをかけている」と、ザッカーバーグCEOは話す。つまり、対象となる市場はそのくらいあるということなのだろう。

多くのバリエーションで幅広い層にアプローチ

いきなりアメリカで大ヒットした「Meta Muse」

とはいえ、今後も同社のグラス製品が「そのまま売れ続ける」とは限らない。

AIグラスと呼ばれるものの、ここまでのヒットはAIによるものではない。多くのひとはまず、ヘッドフォン・イヤフォン代わりに「オーディオを楽しむ」ために使い、次に、内蔵のカメラで「自分の視線から見た映像を撮影する」ために使っている。

だがそれだけなら、すでに他社も作れる。質はともかく、開発自体は難しくない。ソフトやサービスでの差別化が必須だ。

これまで、その部分をカバーするのが「AI」だった。だが、Meta AIが素晴らしく便利か……というと、筆者はそう思わない。カメラを使って「目の前のものは何?」と質問すると教えてくれる、というのは面白い体験だが、毎日使うものだとは思えなかったからだ。

AIグラスとはいうものの、MetaのAIはいまひとつであり、「AIが支持されて売れてきた」わけではないのだ。

だが、ここに大きな変化が生まれた。それが「Meta Muse」の存在である。

Meta Museを、Metaは「パーソナル・スーパーインテリジェンス」と呼んでいる。

画面にはかわいいキャラクターが表示され、対話することが主軸だ。キャラクターの「かわいさ」はアメリカのサービスとしてはちょっと驚くべき水準であり、日本でサービスを開始するとヒットしそうである。

Meta Museのキャラクター。Meta社内にはいたるところにいた

発表されたのは9月初旬のことで、まだ2週間ほどしか経っていない。現状はアメリカのみで展開されているが、今後海外にも広げていく。日本での展開時期は公開されていない。

Meta Museはいわゆるチャットサービスではない。「自分のことを理解して、代わりに色々なことをしてくれる」、ある種の秘書のような存在だ。

Meta Museにはまず、自分のことを知ってもらう必要がある。メールやカレンダーへのアクセス権を与えると、その内容を読み取り、まるで秘書のように振る舞う。

Meta Museができることの例。ショッピングやスパの予約、ワークアウトの計画立案までこなす

例えば、「明日の飛行機のオンラインチェックインが始まっています」「申し込みの締め切りが近い案内が来ています」といったことを教えてくれて、お願いすればその処理も行なう。メールの代筆などもしてくれる。

特に注目されているのが「お金の扱い」だ。ショッピングサービスと連携して買い物をしてくれたり、チケットの返金を処理したりする。それだけでなく、「毎月払っているサブスクを確認し、無駄をカットする」というところまでやる。

ショッピング連携も重視

文章や画像を生成するのでも、質問に答えるのでもない。言葉を理解する能力、論理的に考える能力を使い、人間が面倒と思うことを代わりに進めるのが、こうした「エージェンティックAIによるアシスタントサービス」だ。

アメリカでMeta Museは、その実用性を強く評価されている。アップルのアプリストアであるApp Storeのランキング1位に躍り出て、多くの場所で話題になっている。このような言い方はMetaに申し訳ないが、これまでの「Meta AI」とは全く異なり、手のひらを返したような高評価、と言っていい。

同様のものとしては、イーロン・マスクの率いる「SpaceXAI」が展開する「Grok Bot」がある。こちらは日本でも使えるため、筆者も先日から使い始めたのだが、驚くほど実用的で便利だと感じる。

またマイクロソフトも、Copilotのリブランディング・機能刷新に伴い、「Autopilot」というサービスを拡充する。Meta MuseやGrok Botに比べるとビジネス向けではあるが、「指示を与えるとAIが作業を定期的に進め、完了に導く」という意味では同じ考え方である

これは先日まで「Microsoft Scout」と呼ばれていた機能を名称変更したもので、ベースとなっているのは、昨年から年初にかけてヒットしたエージェンティックAIソフトウェアの「OpenClaw」だ。

エージェンティックAIにより、人の代わりに様々な作業を進めてくれるサービスが出てくることは自明だった。その先駆けとしてOpenClawが注目されたが、設定や管理は大変な部分がある。

そこで、個人に向けて「AIモデルの種別も、エージェンティックAIの詳細も知らずに使える」サービスが求められる。

Meta Museはまさにそういう存在であり、同時に、Grok BotやマイクロソフトのAutopilotが生まれている。

さらに、今週29日(アメリカ時間)に開催されるOpenAIの開発者会議「OpenAI DevDay 2026」では、OpenAIが、これらのサービスに対抗するAIアシスタントを発表するのでは……と噂されている。

グラスや「チャーム」とも連携

ライバルが続々出てくる中で、Metaはほんの少しだが、先行することができた。

そこで武器となるのが、「AIグラスがあること」であり、「キャラクター性があること」だ。

現状、Meta Museはスマホを介して使う。PCやMacでも使えるが、日常的なアシスタントとしては、スマホから「どこにいても使える」のが重要だ。

だが、そこで「音声で命令」「音声で会話」するなら、スマホを介してではなく、AIグラスと連携するのが望ましい。

Metaはここから、AIグラスが対応しているAIサービスを「Meta AI」から「Meta Muse」へと切り替えていく。質問するだけで終わらない実用的なAIが生まれたことで、それとAIグラスの連携を進めていくわけだ。

Meta MuseはもちろんAIグラスとも連携

さらには年内に「Meta Muse Charm」という製品も投入する。機器の詳細は不明だが、スマホと連携してMeta Museを動作させ、AIグラスをつけていなくても、小さなキーチェーンぐらいの大きさのデバイスで自分のMeta Museキャラクターと対話できるようにする。

Meta Muse Charmを発表するザッカーバーグCEO
Meta Muse Charmが動作するイメージの動画

Meta MuseはAIでキャラクター自体をカスタマイズできて、口調や声色も自由に変えられる。自分のアシスタントとして愛着を持てるものにしているわけだが、それをAIグラスやMeta Muse Charmで持ち歩いて使ってもらうことで、他のAIサービスとの差別化を目指している。

Metaすら見られないセキュリティの確保へ

ここで重要なのは、これらのデバイスで「セキュリティとプライバシーを重視」する姿勢を強調していることだ。

Meta Museは、クラウド上にあるが自分だけがアクセスできる「Secure VM」上で動作しており、対話の内容について、年内にMetaすらアクセスができない「Muse Confidential VM」をリリースし、秘匿性を高める。

Meta Museは「Secure VM」の上で動作

AIグラスとの連携も、他からアクセスできない「Private Processing」という仕組みを導入する。Muse Confidential VMとPrivate Processingでは本人とAI以外は内容を確認できない。仕組み上、サービス提供者であるMetaも内容を把握できない。

AIグラスとの間の処理は「Private Processing」で、本人以外内容がわからない仕組みに

Meta Muse Charmも、指紋認証機能を持っており、自分以外は利用できない仕組みになっている。

自分のメッセージや経理情報など、非常に秘匿性の高い情報にアクセスするため、エージェンティックAIを使ったアシスタントには高いセキュリティが求められる。Metaもそれはわかっているので、プライバシー重視を打ち出しているのだ。

メールなど秘匿性が高い情報を扱うので、Meta Museのセキュリティは高度なものが求められる

正直、ソーシャルメディアであるFacebookはプライバシー問題であまり評判が良くないが、サービスとしての立ち位置の違うMeta Museでは、かなり厳格な姿勢で臨む。

そして、こうした「AIデバイスでのセキュリティとプライバシー」は、どの企業も目指す方向性は同じだ。データをとにかく集めて企業側が使うのではなく、個人の情報自体にはアクセスせず、「どのような機能が望まれるのか」といった点のみを活用する方向に行くのだろう。

この辺は、先日、「アップルがAIデバイスでどのようなポリシーをもって進もうとしているのか」を解説した。

そことある種の類似性を感じる。

メタバース路線からの転換を明言 その上で「真のブレイクスルー」を

Metaの発表は「Meta MuseとAIグラス」が主軸になったが、そのことから、もう1つの方針も見えてきた。

それは「メタバースへのブレーキ」である。

Metaの主軸ビジネスは、現状、ソーシャルメディアとそこに挿入される広告だ。

一方、それだけで今後の成長が目指せないことは、彼ら自身、ずいぶん前から理解していた。複数の柱を作り、収益構造を堅牢なものにすることが求められている。

その中で、まず目指したのは「メタバースとそれに付随するビジネス」の構築だ。2021年、Facebookから現在の「Meta」に社名変更したのも、FacebookやInstagramだけのビジネスから脱却する目的があったのだろう。

だが、仮想空間をコミュニケーション基盤にしていく「メタバース」という構想自体は、はっきり言ってうまくいっていない。ゲームやVRChatなどの形で仮想空間を使う人はいるが、それが、携帯電話網やインターネット自体のような「マスのためのコミュニケーション空間になっている」かというと、そうではない。

ザッカーバーグCEOは、Meta Connectの基調講演でこう説明した。

「私たちがグラスデバイスの開発を始めた当初、物理世界とデジタル世界を統合するというアイデアであるメタバースは、AIよりも先に実現すると考えていました。高度なAIは後から来るだろうと予測していたのです。しかし現在では、パーソナル・スーパーインテリジェンスが先に到来するだけでなく、そちらの方がはるかに大きく重要であることが明確になりました。そのため、私たちはパーソナル・スーパーインテリジェンスに最適なデバイスを構築することへと戦略をシフトしました」

「Reality Labsは現在、MuseやAIに向けた優れたグラスの構築に注力しています。そして、当面はメタバースへの注力を少し減らす決断をしました。つまり、VRデバイスの製造数を減らし、真のブレイクスルーが生じた時にのみリリースするということです」

つまり、メタバース自体への注力が「戦略上読み違い」であり、AIへとシフトする、と宣言したのだ。これは現状追認であり、多くの人がすでに感じていたもの、とも言える。

だが、ディスプレイを搭載し、メタバース的な世界が使えるデバイスをもう作らない、というわけではない。

「これがそのブレイクスルーです」と言って発表したのが、冒頭でも説明した「Meta VR Glasses」である。

Meta VR Glassesを発表するザッカーバーグCEO

グラス部が100gと軽量で、性能も画質も高い。他社でいえば、アップルのVision Proをリファインしたようなものだ。アップルの発売から2年、発表からなら3年が経過しており、その時間に生まれた技術進化を反映した機器と言える。筆者も体験したが、完成度は非常に高い。

ジェームズ・キャメロン監督はデバイスを高く評価
MetaのVR事業の元となったOculusを創設、現在は防衛系企業のアンデュリルを率いるパルマー・ラッキー氏もMeta VR Glassesに興奮

とはいえ、Meta VR GlassesはAIグラスのように「つけて街中を歩く」ことを想定したものではなく、ある種「頭につけるPC」のようなデバイスだ。1,299ドルという価格はVision Proより大幅に安く、他の競合に対しても優位性があるものの、誰もが簡単に買える価格ではないので、AIグラスほど大量に売れる製品にはならないだろう。

しかし「グラスデバイスで生活を変える」第一歩にはなる。ゲーム中心に設計した「Meta Quest」シリーズとは別の層を目指した製品と言えるだろう。

そして同社内では、「屋外でかけたまま生活する」、ARデバイスの開発も進んでいる。その登場はまだ先のことになるが。

その上で、「グラスの中に実用的なアシスタントとして、Meta Museが存在する」形が作れるようになってきた。

Meta VR Glassesのデモ。画面内にはMeta Museがいる

Metaとしては、Meta Museを活かせるデバイスを用意していくことで「パーソナル・スーパーインテリジェンス」をプラットフォーム化し、ビジネスの柱にしていく。この戦略転換こそが、今回行なわれた、もっとも大きな発表なのである。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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