西田宗千佳のイマトミライ

第365回

MetaのパーソナルAI「Muse」日本上陸 iPhone Duoと相性抜群な次の”競争軸”

MetaのMuseが日本展開を開始

Metaが同社のパーソナルAIサービス「Meta Muse」を日本でもスタートした。

筆者も早速使い始めているが、評判通り、非常に完成度の高いサービスだ。

Museについては、9月のアメリカでのスタート以降、何度か記事にしてきた。

また、AIの競争自体も、特にコンシューマ受けという切り口では、Museと同じ「常時動作型のパーソナルAIエージェント」が大きなテーマになってきた。

Museの日本展開とタイミングが同時になったのは偶然だと思うが、アップル初の折りたたみ型スマートフォン「iPhone Duo」も発売になっている。

筆者も購入した実機にMuseなどのAIエージェントアプリをインストールした。そして使いながら、「両者はとても相性がいい」と考えるようになっている。

今回は、Museを使いつつ「スマホや各種デバイスの中に自分のAIエージェントがいる時代」のことを考えてみたい。

iPhone Duoで、MuseとGrok Botを同時に動かしてみた

Museとはどんなサービスなのか

まず、Museがどんなサービスかおさらいしておこう。

Museは「常時動作型AIエージェント」と呼ばれるタイプのサービスだ。

メールやメッセージ、カレンダー、作成したファイルなど、「自分に関わる情報」をAIに読んで分析してもらったうえで、自分に必要なことを代わりにやってもらうサービス、と考えればいい。

Museの基本的な画面

例えば、次のミーティングに関する連絡がメールで送られてきたとしよう。

メールには内容や日時などが記録されている。Museは自分にそれを伝えたうえで、連携しているカレンダーサービスに予定を自動登録する。

さらに、最初の予定ではミーティングの場所が決まっておらず、後日決定と書かれていたとしよう。するとMuseは、後日実際に場所が決定したメールが来ると、自動的にカレンダーへと登録もしてくれる。

旅行をするとしよう。その場合には、旅行の移動計画や現地でのプランを立ててくれるのはもちろん、細かく事前にスケジュールも連絡してくる。

メールの代筆もできるし、セミナーなどの申し込みでウェブフォームへの書き込みが必要になった時でも、代わりにやってくれる。

ウェブフォームへの書き込みも代わりに行なってくれる

通販での買い物について、自動的に集計したうえで、確定申告に必要な適格請求書発行事業者の登録番号を探し、まとめておいてもらったりもできる。

もちろん、毎朝気になるニュースを探し、まとめてもらうことなど造作もない。

メールなどで送られてきた事項や、これまで作った文書の内容について、思い出せないことが出たとしよう。これまでだったら、メールアプリや文書フォルダを開き、ある程度自力で探すのが基本だった。

だが、この種のサービスを使うなら、AIに聞けばいい。自分の情報に関する「相談窓口」が一本化されるので、諸々楽になる。

実のところ、どの機能についても、1つ1つは従来からAIサービスを使えばできたことではある。また、「OpenClaw」のようなツールを自分のPCにインストールすれば、同じことをもっと自由度高くやってもらうこともできる。

しかし、この種の常時動作型AIサービスの場合には、メール等への接続を除けば、特別な設定はほとんど不要。専用のPCを用意して常時動かしておく必要もない。どんなAIモデルを使うのか、という選択もいらない。というより、気にする必要すらないのだ。

AIサービス事業者のクラウドの中で動いているので、スマホからも問題なく使える。スマホに通知が来て、それに応えていれば雑事の大半が終わる、というのは爽快だ。

MuseのようなAIエージェントからは、質問や実行終了時などに通知が届く

自発的でかわいくて「安い」Muse

前置きが長くなったが、これが、常時動作型AIエージェントの特徴である。

その中でもMuseの特徴は3つある。

1つは「自分から色々やってくれる『プロアクティブ性』が高い」ことだ。

特に細かな指示を与えなくても、メールや私の行動のフォローアップをしてくれる。予定変更に追従するだけでなく、荷物が「発送中」になったらそれを教えてくれたり、納期が遅くなったことを通知してくれたりと、かなりきめこまやかだ。

この種のサービスとして、筆者はSpaceXSIの「Grok Bot」とOpenAIの「dots」を使っている。dotsはGrok Botよりもプロアクティブだが「打てば響く」ような賢さが足りず、Grok Botは多少プロアクティブ性で劣るものの、複数のBotを従えてかなり賢く動作する、という印象がある。メインはGrok Botだった。

Museはそれに対して、「賢いしプロアクティブ」。Grok Botの持つ「素早く分業」というイメージとは異なるが、動作に対する印象は非常に良い。

どんなことをしているかもリストになっており、動作の透明性も高い。

どんなことをしているかはリストで表示される

2つ目は「かわいい」。

デフォルトのキャラクターである「Jolly」はかなりよくできていて、日本人にも馴染みやすい。

Museのキャラクターである「Jolly」

使えるのはJollyだけでない。むしろ、自分に合わせてカスタマイズすることが基本になっている。Museを使い始めてしばらく経つと、キャラクターカスタマイズを促すメッセージが出てくるほどだ。

そのカスタマイズ自体も、MuseでAIを使って行なえる。筆者は以下のようなキャラを作って自分用に設定した。

自分向けに設定した「Tendon」

このキャラが常に動き、画面上ではキーボードをタイプしたりする。日本人にはウケるだろう。

Museは9月頭にアメリカでサービスを開始したばかり。カナダに展開を広げてはいるが、日本でのサービス開始前は、アメリカとカナダ以外の国へは展開していなかった。

Metaの最高AI責任者であるアレクサンダー・ワン氏は、「TBS CROSS DIG with Bloomberg」とのインタビューの中で、日本を選んだことについて、「Museが広く受け入れられそうな国や地域を優先したいと考えた」と語っている。これは規制やサービス基盤の問題を指すものでもあるが、同時に、キャラクター大国である日本を強く意識したコメントでもあるのだろう。

Metaの最高AI責任者であるアレクサンダー・ワン氏。9月のMeta Connect 2026取材時に撮影

彼は自身のXアカウントでも、Jollyと日本のキャラクターを掛け合わせた動画を多数投稿、アナウンスメントのポストでも「アニメのミームに備えてくださいね」と書いている。アニメキャラクターを勝手に使うことの是非はあるが、彼が日本のアニメ好きであり、キャラ人気とセットでMuseの価値を考えているのもよくわかる。

Museの日本進出を伝えるワン氏のポスト

以前の記事でも説明したが、Metaは年末にも「Muse Charm」というハードウェアの発売を計画している。自分のMuseを手の中に入るスマホと連携するハードウェアに入れ、それを持ち運べるようにしたものだ。

Muse Charmを発表する、Metaのマーク・ザッカーバーグCEO

Metaは「Muse Gadgets」というオープンソースプロジェクトも公開している。これは、Muse Charmと同じようなハードウェアを自分で作れるようにするもの。これもある意味、キャラ人気を加速するための施策だろう。

Metaは自作ガジェットでMuseを動かす「Muse Gadgets」も公開

そして最後の1つが「安い」こと。

OpenAIのdotsは、現状、月額100ドル(16,800円)の「ChatGPT Pro 100」以上のプランに契約していないと使えない。無料体験も用意されていない。

Grok Botは7日間の無料体験があるものの、30ドル(約4,700円)の月額プランへの加入が必要になる。

それに対してMuseは、基本無料。週ごとの利用量制限はあるが、スマホアプリをダウンロードして登録するだけでほとんどの機能が使える。ウェブブラウザーのAI内での実行や買い物比較など、より高度な作業を行なう場合に、月額20ドル(約3,200円)の「Power」プランに加入、という形になっている。Metaは多くの利用者には「無料」でMuseを提供する考えでいる。

日本に入ってくる前から、Museはすでにアプリだけで1,000万ダウンロードを実現している。日本でも、10月25日深夜の段階では、iPhone向け無料アプリランキングでトップになっている。

10月25日深夜の段階では、日本でもApp Storeの無料アプリランキングで1位になった

無料で賢くてキャラ人気。この3つがセットになっているのが、Museの大きな強みである。

iPhone Duoなどの折りたたみと相性抜群

自分の手元で改めて使ってみると、MuseやGrok BotのようなAIエージェントは、折りたたみ型スマホと特に相性がいい。

要は、AIエージェントを片方の画面に、もう片方に関連する情報を出して話す、ということができるからだ。

左でMuseに質問し、右で関連情報を別アプリでチェック

PCでも同じことができるのだが、これをどこでも自然に、簡単にできるのはかなり便利だと感じる。

冒頭で示したように、2つのAIエージェントを同時に使うこともできる。それぞれの役割を分けて使うならこんな方法もあるが、まあ、ちょっとマニアックな使い方だとは思う。

スマホプラットフォーマーの「常時動作型AI」はいつ登場するのか

これに限らず、AI関連アプリは、広い画面のデバイスと相性がいい。スマホが標準で備えているAI機能や、ChatGPT・ClaudeなどのAIサービスを他のアプリと同時に見ながら使えるのは、折りたたみ型スマホの大きな魅力の1つになる。

一方で気になるのは、dots・Grok Bot・Museのようなサービスが続々登場している中で、「スマホプラットフォーマーのAI」が足踏みをしていることだ。

Apple IntelligenceにしろGemini Intelligenceにしろ、機能としては悪くない。特にiPhoneについて言えば、もうすぐ公開になる「iOS 27.2」を使うことで、Siri AIが日本語対応し、かなり使い勝手が上がる。「メールや行動履歴を把握し、その内容を質問する」ということなら、これらのAIにもできる。

もうすぐ公開になる「iOS 27.2」に搭載される日本語対応版「Siri AI」
自分の行動に関してAIに質問することは、Siri AIでも可能

しかし、スマホ搭載のAIはまだ「プロアクティブさ」に欠ける。自分でやってほしいことを考え、命令し、機能を使っていけば相当なことができるのだが、そのためには使う側に想像力と慣れが必要になる。以前からのチャットAIと同じだ。

だが、常時動作型AIエージェントになって、AIはどんどんプロアクティブな存在になっている。結果として、利用者は難しいことを気にせず、AIの価値をより活用できるようになってきたわけだ。

この変化が、スマホプラットフォーマーの側に、いつやってくるのだろうか。

コンシューマ向けデバイスにおける大きな競争軸になると思うのだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41