西田宗千佳のイマトミライ

第362回

AI競争の最前線「常時動作型AIエージェント」とはなにか Dots、Grok Bot、Muse

OpenAIのDots

9月30日、OpenAIは、常時動作型のAIエージェントである「Dots」を発表した。SpaceXAIの「Grok Bot」など、こうした24時間/365日動作するAIエージェントに急速に注目が集まっており、ある種のブームになっている。

9月には、Metaがアメリカで「Meta Muse」をスタートし、ヒットを巻き起こしている。Meta自身も、ビジネス戦略の中核に据える発表をした。この点は、本連載の先週分で詳しく説明している。

今回はもう少し、「常時動作型AIエージェントはなにを変えようとしているのか」という話をストレートにまとめてみたい。

各サービスを筆者も使ってみているが、大きく生活を変える力を持っている。

一方で、この流れは急に生まれたものではない。昨年末から年始にかけて起きていた変化が、本当の意味でブレイクするきっかけを得はじめている……と考えるべきだろう。

筆者はすでに、この種のAIサービスを使っているのだが、たかだか数週間で「使っていなかった時のことを思い出したくない」レベルになってきている。

秘書のように「自分の身の回りの作業」をAIに任せる

常時動作型AIエージェントとはどんなものなのか? やはり実例を見せるのが一番だろう。

といっても、その性質上、筆者の実例はプライベートな情報の塊だ。だから、差し障りのない例を挙げていきたい。

以下は、筆者がSpaceXAIの「Grok Bot」を使っている例だ。

筆者がGrok Botで使っている「AI Bot」チームの一部

自分がやり取りする「メイン秘書」AIがいて、その配下に朝のニュースをまとめる「ニュース朝刊」、メールなどを読んで常に予定を確認している「予定確認」、請求や経費などの情報をまとめている「経理チェック」、音声メモをテキスト化してToDoやメモに登録する「音声メモ」、そして締め切りの管理をする「締め切り管理」のAIがいる。他にもいくつかいるのだが、ここでは秘密。

これらには自分のメールやカレンダー、文書を読み書きする権利を渡している。自分がメールをチェックするのと同じようにAIがメールを読んで、「予定確認」が新しいアポイントを、「締め切り管理」が原稿の締め切りを、そして「経理チェック」が購入したものの経費精算を自動的に行なっている。

「〇〇の発表会の返事は明日までです。まだ返答が確認できていません」と言われたので、こちらで改めて返答をする。

すると、「返答が確認できました。スケジュールを確定させ、カレンダーに登録しておきます」という返事が返ってくる。

今まで我々は、メールやメッセージを自分で読み、その内容に対応していた。だが、自分の代わりにそれをやってくれる「秘書」がいるとしたらどうだろう?

もちろん、自分でメールを読まないわけではない。だが、重要なものをAIが確認して教えてくれるとわかっているので、こまめに読む必要はなくなる。

人間は「読んだが返事を忘れてしまう」ような場合も多いが、AIは違う。定期的にチェックをお願いしておけば、「まだあのメールへの返事を書いていません」と教えてくれる。

「下書きを書いて。〇〇という方向性で」と言えば、メールの下書きが出来上がる。あとは、内容を確認して修正し、送ればいい。

筆者はまずGrok Botで試したが、現在話題になっている「常時動作型AIエージェント」ならどれでもいい。細かな機能の差はあるが、OpenAIの「Dots」でも、Metaの「Muse」でも同じことができているのを確認している。

Grok Botは明示的に「メインのAI Botが複数のAIを配下に置いて働く」ような構造になっているが、他も内部では複数のAIが見えない形で同時に働いている。機能や応答の仕方、キャラクターなどで好みは分かれるだろうが、とにかく一度使ってみることをおすすめする。

もちろん、こうしたトレンドは大手3社だけの動きではない。

Manusは「Manus 2.0」と銘打ったメジャーアップデートの一環として「Cue」というサービスを展開する。Cueは内部的に「自分の電話番号」「自分のメールアドレス」を持っており、Cue自身が他の存在と連絡を取りつつ仕事をこなすことを目指す。

Manusの「Cue」

ビジネス向けでは、先日日本で正式サービスを開始した「TANKA」がわかりやすい。

TANKAの場合にはチームで使う常時動作型AIエージェント、と言っていい。それぞれの社員が仕事をする上で行なったコミュニケーションや文書作成を覚えていて、決裁や判断が必要だと教えてくれる。社内事情についてわからないことはTANKAに聞けばいいし、部下から報告を受けるべきことも、その前にTANKAに聞けば、進捗などもわかる。極論すれば、「日常的な報・連・相を最小化しつつ、情報や準備を集約する」仕組み、と言えるだろう。中小規模の企業に向いた仕組みだ。

ビジネス向けAIサービス「TANKA」。中小企業での報・連・相課題の解決に向く

TANKA

そうしたことを、マイクロソフトは「Autopilot」として展開する。大きな企業であれば、マイクロソフトの仕組みを使って自社に向いたシステムを作っていくことになるのだろう。

そして言うまでもなく、他の企業向けソフトウェアベンダーも、同じような路線を採っていくことになる。

秘書としての役割も重要だが、今後は「AIエージェントが自分の代わりに買い物をする」という、「エージェンティックコマース」の世界もやってくる。そうなると、その決済に紐づく部分でのビジネスが拡大していくと予想できる。

「自分のことを知っているAI」がエージェントになる必然

多くの会社が同時に動いたのは偶然ではない。この方法論に行きつくのは、ある種自明のことだったからだ。

大規模言語モデル(LLM)が登場し、AIが「情報を読み取ってまとめる」能力を得たため、LLMは「生成AI」から「解釈して働くAI」になった。翻訳や要約、文章や画像の生成なども重要だが、それらはAIの行なう作業の一部に過ぎなくなった、と言ってもいいだろう。

この2年ほど、AIの世界ではさかんに「エージェンティックAI」の話が行なわれてきた。理由は、「解釈して働くAI」が、本当の意味でAIを社会に浸透させ、我々の生活を変える可能性を持っているからだ。

その1要素として、AIエージェントは「自分のことを覚えてくれる」ようになっている。

Dots

前述のDotsやGrok Botの利用例はその典型だが、以下の記事で書いた「AIの競争軸がナレッジになっている」という部分は、まさにそれを表したものである。

そして、「自分のことや文脈を覚えてくれる」という要素は、もうすぐもっと身近なものになる。

アップルは10月にも、日本語版の「Siri AI」をスタートする。Siri AI自体には、常時動作型AIエージェント的な要素は「現状」ないように思える。しかし、iPhoneやMacの中の情報をApple Intelligenceが読み取り、Siri AIが答えるようになったため、「自分のことを尋ねられるAI」になった。予定や電話番号、対話の履歴など、ちょっとしたことの確認がしやすくなったのだ。

こうした変化が、PCやスマホの中でどんどん拡大していくのは間違いない。

常時動作型AIエージェントについても、スマホOSを持つプラットフォーマーが参入して来ないはずはないだろう。

OpenClawから半年で爆発的に進化

そして、このことをいち早く実現していたのが、今年の頭に大流行した「OpenClaw」であり、その後登場した「Hermes Agent」である。

昨年11月に登場したOpenClawは、メールやメッセンジャーなどと接続、すべきことや自分に関する知見などをMarkdown形式の文書として内部に蓄積しつつ、常時動作するAIエージェントを扱うソフトウェアだ。

Dots・Muse・Grok BotのやっていることはOpenClawでできていたことそのものであり、「新しさはない」という人もいる。

だが、それはちょっとズレた認識だ、と筆者は考えている。

今話題のサービス群が驚きをもって迎えられているのは、OpenClawと違って「設定も管理も最小限で済む」ことにある。

OpenClawは自分が手元にもっているPCで動かすのが基本だ。クラウドにあるコンピュータで動かすこともできるが、そのためには一定の知識が必要になる。

AnthropicのClaudeにしろ、OpenAIのCodexにしろ、「AIエージェントが動いて仕事をしてくれる」要素はあったが、一定以上の自由度を確保しようとすれば、やはり自分のPCの上でアプリを動かし、ファイルを扱い、そのうえで「AIの処理だけはクラウドに依存する」という形になっていた。

だが、常時動作型AIエージェントは、クラウド上に処理主体を置くようになった。スマホの上で動かすのが容易なこと、設定が簡単なことなどが理由だ。

例えばMetaは、Museの特徴として「Secure VM」を挙げる。他のMuseやMeta内のサービスからは独立し、「利用者ごとにセキュリティが担保された仮想コンピュータ(VM)」を用意することで、安全性と効率性を両立したサービスが展開できる……としている。

Meta Museもセキュリティを重視へ

スマホからもPCからも同じ「自分のAI」を使えるようになることで、常時動作型AIエージェントはまさに秘書のような働きをしてくれるようになる。

簡単さ・わかりやすさ・便利さが揃ったことで、OpenClawが目指したことは、たった半年で「誰にでも使えるサービス」にまで進化したのである。これは、OpenClawを作ったピーター・シュタインベルガー氏のビジョンが優れていたことの証でもある。

課題は「コスト」 アメリカでMuseが「無料」でヒット

その上で各社のサービスには、現状、大きな差異もある。

それは「コスト」だ。

常時動作型AIエージェントの課題は、相応に演算能力を必要とする点にある。常時動作していることが問題というよりは、常時利用者の要望に応えられるような「思考力」「分析力」を維持するには、最新のAIの力が必要になるのだ。

OpenClawが流行った時にも、「AIとしてクラウドAIを使うと費用が大変」という話があった。そのため、Mac miniやMac Studioを使ったローカルAIを使う……という流れも存在していたのだ。そのセットアップと管理の大変さ、AIコストがマスへのブレイクの障害になった、という見方もできる。

トップ3社の常時動作型AIエージェントのうち、「日本から少しでも無料で使える」という条件に合うのはGrok Botだけだ。

Grok Botには7日間の無料トライアルがあり、そのあとは、「Cursor Pro」(月額20ドル)もしくは「SuperGrok」(月額30ドル)などの有料プラン加入が必要になってくる。

Dotsは現状、「ChatGPT Pro」などの、月額100ドルを超えるプランの加入者しか利用できない。試せているのは「AIガチ勢」だけなのである。

Meta Museは、現状日本のアカウントからは利用が難しい。

一方で、アメリカでは無料で使いはじめられる。「週に1億トークン」という使用上限があるものの、一般的な用途ならこれを使い切ることはないし、使い切った場合にのみ課金すればいい。

Museはアメリカでは、9月末の段階でダウンロード数が500万回を超えたとされる。

基本無料であることはMetaが戦略的に手がけていることであり、InstagramやFacebookなどにも積極的に広告展開をしている。そこからの流入がヒットの秘密でもある。

そして、他のサービス以上に「自分が使うAI」のキャラにこだわっているのも、入口戦略の一環であるのは間違いない。以下の画像は筆者がMuseで使っているキャラクターだが、こういうカスタマイズを誰でもできる、という部分は、他社の先を行っている。

Museで筆者が使っているキャラクターの例

「どこまで情報を扱わせるか」という怖さ

一方で、常時動作型AIエージェントには、本質的な「怖さ」もある。

常時動作型AIエージェントには、自分のメールやカレンダー、作業ファイルなどの閲覧権を渡さねばならない。時には、AI自体がファイルを作ることもある。

他者にプライベートな情報を読む権利を与えるほど信頼していいのだろうか? 大手ITプラットフォーマーにそこまでの信頼を置いていない人もいそうだ。

ただ、そこで「使わせるのはもってのほか」「IT企業にすべてを渡すだけ」と斜に構えるのも、ちょっと違うと思う。

確かに、企業内で勝手に使うのは問題だ。システム部門の精査を受けてからにすべきなのは間違いない。マイクロソフトなどが企業向けの展開を考える理由はそこにある。

他方で、大手ITプラットフォーマーも、個人のメールなどを見て、広告に利用したり、秘密を盗み取ったりしようとはしていない。使用許諾や消費者保護の観点で論外であり、「そんなことはしない」から、大手は大手たり得ているのだ。

GoogleもOpenAIも、すでに「個人とAIのやりとり」という意味で多数の情報をもっている。しかし、統計的なデータとしては興味があるだろうが、個人が持つ個々のデータについては、むしろ「危険だから見たくない」と思っている。音声アシスタントやメールサービスと同じ扱いだ。

その上で、Metaは年内には、Museの中に「Metaすら内容を見ることができない」形で情報を扱う仕組みを導入する、としている。

また、アップルやGoogleはスマホとクラウドAIを連携する手法として、「クラウドで処理するがデータは処理が終わると廃棄し、一切保存しない」仕組みを採用している。他社も「処理に使ったデータを蓄積しない」方向へ向かっている。

とはいえ、1つの本質として、「AIが自分のデータを扱う怖さ」があるのは間違いない。その怖さとは「メールを覗かれる」ような話ではない。「AIが間違ってデータを扱う」可能性だ。

Museがアメリカで広がるにつれて、「AIに渡したつもりではない情報をMuseが使っている」という指摘が出てきている。AIが類推した結果としてより深い個人情報を使ってしまったり、許諾範囲にミスがあり、利用者が意図しない情報をAIが使ってしまうこともある。

こうしたトラブルは、OpenClawでも多数あった。全ての人がデータの扱いを完璧に理解しているわけではない。

だとすれば、より安全な方向に倒した活用や、利用者の想定を超える使われ方を抑制する考え方は必須になってくる。

アップルは、Macの上での「フルディスクアクセス」権限について、利用者が明示的に操作しない限り、アプリに付与しないようにする仕組みを導入すると発表した。

「フルディスクアクセス」というとファイルのみを読み書きするように誤解されるが、実際には「Mac上のあらゆるファイルへのコントロールを認める」ことでもある。だから、メールやメッセージのデータを読むことも可能になってしまう。

AIサービスの利便性を考え、アプリ側は「フルディスクアクセス」を求めてくるが、それが利用者の意識とズレる可能性が高く、今後は制御を厳しくする……という話だ。

常時動作型AIエージェントを扱う場合には、より明示的に「これを扱う」「これは許諾が必須」「これを他者に伝える」といった行為が必要になり、そのわかりやすさと安全性が、コストと並んで、サービス選択の大きなカギになってくるだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41