西田宗千佳のイマトミライ

第356回

ChatGPTがMacの全操作を記憶して起こること AIの競争は「文脈」「ナレッジ」に

ChatGPTの「コンピュータの履歴」(Computer History)機能

OpenAIは、ChatGPTに「Computer History」という機能を搭載した。

この機能は、PCの中で行なった作業を記録し、検索や再チェックなどが行なえるようにするもの。文字通り「コンピュータのヒストリー」を活用するための機能と言える。

Computer History in ChatGPT

現在のAIでは、こうした「作業の内容をAIの価値として使う」流れが拡大している。そのことが、単純な「生成」「知識の提供」とは異なる価値を生み出しつつある……と言ってもいいだろう。

また、最近筆者はメールソフトを変えた。

Gensparkの開発した「GenMail」である。これもまた、AIの力とナレッジを最大限に活用し、メールの在り方を変えてしまう力を持ったサービスと言える。

Gensparkのメールサービス「GenMail」。9月30日まで無料で使える

GenMail

一般に「コンテキスト」「ナレッジ」と呼ばれるが、AIにどのようなコンテキストやナレッジが蓄積されていくかが、今後の大きなテーマと言われている。

では、「コンテキスト」「ナレッジ」とはどんなものなのだろうか? それをわかりやすく示してくれているのがComputer Historyであり、GenMailと言える。

その一方で、もちろん懸念や課題もある。

そうした懸念や課題も含め、「自らの行動がナレッジになる」世界の意味を考えてみよう。

ChatGPTの新機能「Computer History」

まずはComputer Historyの方から紹介したい。日本では設定項目の中で「コンピュータの履歴」という名称になっている。

この機能は8月14日に提供が開始された。現状は、ChatGPTの有料プランである「ChatGPT Pro」(月額16,800円から)、もしくは「ChatGPT Business」「ChatGPT Enterprise」の契約者にのみ開放されており、Mac版のChatGPTデスクトップアプリを使ったときのみ利用できる。まだまだ利用者は少ないだろう。

Computer Historyはその名の通り、コンピュータ(Mac)をどう使ったのか、ChatGPTが記録していく機能だ。

具体的にどんな感じなのか、筆者の実例をお見せしよう。

以下の画像は、Computer Historyをオンにして数日使った筆者のMacで、ChatGPTに「クリックしたはずの広告の中身」を尋ねてみたものだ。和柄のシャツだったことは覚えているが、名前もリンクも記憶にない。海外のサイトだったことだけは頭にあるのだが。

そこで「和柄のシャツの広告の記録は?」と聞くと、その広告を記録していて、リンク先も表示してくれた。開くと、記憶にあるページが表示されている。

「広告で見た和柄のシャツの記録はある?」と聞くと、そのサイトのリンクまで提示
リンク先のサイト。まさにズバリ

ここで重要なのは、ChatGPTは「ブラウザの履歴を検索しているわけではない」ということだ。ページを表示した時の画面の内容を覚えていて、それを検索可能にしているのだ。

同じように、「さっき見たウェブの内容」を検索してみよう。こちらは表示しただけで全文は読んでいなかったのだが、ちゃんとそのページが示された。そして、「全部は読んでいない模様」ということも提示されている。

ページの内容自体をブラウザの履歴から得ているのではないので、「途中までしか読んでいないページ」は、「途中までしか表示していない」と出てくる

もっとやってみよう。

以下は、「Xに何を書いたか」を聞いたものだ。こちらもXとChatGPTは接続していない。書いた時の画面をChatGPTが理解し、記録として残しているからこういう結果を得られるのだ。

自分がXに書き込んだ内容を提示。Mac上での行動をChatGPTが理解して記録したものだ

さらに、「この3日間の作業内容を」と聞いてみると、以下のように、大まかな作業内容が一覧で示された。外部に出せない内容もあるので、一部モザイク処理をしている点はご容赦いただきたい。

もっと幅広く、この3日間の作業内容を一覧してもらうこともできた

タスクの内容をもう少し深掘りしよう。先週後半に書いた海外イベント「D23」に関する記事でどんなことを書いたかも聞いてみた。かなり詳細が出てきて、内容も正確だ。

他誌向けに書いた記事の内容も、「どんな記事を書いていたか」を聞くと、記録からピックアップして概要を提示

繰り返すが、これらの情報は、アプリ自体がChatGPTと連携して出したものではない。ChatGPTがComputer Historyを使って提示してきたものだ。このくらい、高精度に「自分がMacの中でやっていたこと」を覚えているということになる。

RecallとComputer Historyはどう違うのか

PC内での作業内容を覚えておく、という機能は他にもある。

もっともわかりやすい例は、Windows 11が搭載している「Recall(リコール)」だろう。

RecallはWindows 11を、オンデバイスAI搭載の「Copilot+ PC」と組み合わせたときに実現できる機能だ。Recallでは定期的にPC内でスクリーンショットを記録し、それをオンデバイスAIが解析する。そしてそこから検索用インデックスを作ることで、「過去に行なった作業を検索可能」にする。

Recallの設定画面。定期的にスクリーンショットを撮り、その内容から「過去の行動」を検索可能にする

例えば以下の画像の場合には、PC内で「Xbox」と書かれた画面を検索した時のものだ。ここでは正確性を重視して特定のキーワードを検索対象にしているが、「赤い車」のような、概念的な内容でもいい。

Recallで画面に「Xbox」と書かれていた時の情報をチェック。ここからウェブに飛んだり、利用していたアプリを呼び出したりもできる

Computer Historyと非常に似ているが、正直、機能はより限定的だ。

1つ目は、「単語がマッチした場面」しか呼び出せないことだ。Computer Historyはシチュエーションや一定期間のジョブなど、より多彩な内容を解釈して提示する。前出の例でよくわかるだろう。

2つ目は、記録方法とその間隔だ。

Recallは一定のタイミングでスクリーンショットを記録していく。これを「スナップショット」と呼ぶが、画像なのでストレージの容量をかなり圧迫する。そのため、一定の容量や期間を超えたら削除する仕組みが採用されている。

Recallの設定。スクリーンショットが「スナップショット」として記録されるが、最大でどれだけ蓄積するかを設定

それに対してComputer Historyの記録は、基本的には「画面内容を解釈し、時系列に沿って記録したMarkdown形式のテキスト」である。実はこれが「ナレッジ」の正体だ。

以下の画像はその内容だが、画面上での一定期間の操作が、英語の文章として残っているのがわかるだろうか。

Computer Historyでは、操作の内容履歴が英語で残っている
実際に蓄積されている「履歴」。画像ではなく、操作を解析した英語の文章として、Markdown形式のテキストで記録されている

3つ目は、蓄積した内容から「スキル」を作り、AIに作業を実行させられることだ。スキルとは、特定の作業についての手順書のようなものだ。AIはそれを読み、繰り返して作業を行なえる。ChatGPTなどの今日的AIサービスが一般的に備えている機能と言える。

ChatGPTはComputer Historyの記録やその関連作業からスキルを生成する機能を持っているので、「定期的に過去の作業を振り返る」「一度やったまとめ作業をやり直す」といったことも可能になっている。

作業内容を振り返るスキルを作り、チェックしてもらった例。こうしたことを自動的に繰り返せるので、より多くの作業を直接自動化できる

それに対してRecallは、あくまで履歴を呼び出すだけだ。OSと密結合しているので、検索で出てきたファイルからアプリを呼び出し、続きの作業を行なう……といったこともできるのだが、それでも、ChatGPTのComputer Historyより、ずいぶん古典的なものに見える。

要は、この2年間で急速に進化した「エージェンティックAI」「マルチモーダルAI」の技術をもとに作られているのがComputer Historyであり、Recallは「オンデバイスによるマルチモーダルAI」だけで構成されている。2年間の大幅な進化とクラウドベースAIの能力を活用している分、Computer Historyの方が進化した有用な存在になっているのだ。

メールをAIの力でサクサク処理 AI時代のメーラー「GenMail」

ここでもう一つの「いまどきのAI的サービス」を紹介しよう。それが「GenMail」だ。

サービス提供元のGensparkがどんな企業かは以下の記事を参照いただきたい。AIモデルは他社から供給を受けつつ、消費者にわかりやすいサービスと効率的なAIモデル選択によるコストパフォーマンスをウリとする企業だ。

そんなGensparkが7月に発表したのが「GenMail」だ。記事冒頭のリンクからアプリはダウンロード可能。Windows・Macはもちろん、iOSやAndroidでも使える。

9月30日までは無料で利用できるが、その後はGensparkの月額プラン(Genspark Plusは月額約4,000円、もしくは年払いで月額換算約3,200円から)への加入が必要になる。

GenMailは、通常の画面を見ると普通のメールソフトに見える。しかしこれは、あくまで機能の一部に過ぎない。

一般的なメーラーとしてのGenMail。この見た目だと大きな違いはないように見えるが……

実際のメイン画面はこちら。AIサービスなので大きなチャット欄があり、その下にメールが自動的に整理されて並ぶ。

GenMailの本当のメイン画面。チャット欄があって指示を与えられるだけでなく、受信済みメールの整理も自動で行なわれる

今日すぐに確認すべきメールがまとめられ、さらに、決済メールやプレスリリースなどの「見ておくべきだが、そこまで重要ではないもの」、「確認はしておくべきもの」などに分類されている。全て内容がまとまっているので、ざっと斜め読みするだけでいい。

メールの内容は以下のように要約されているので、長いメールも、改めて読むか確認だけに留めるかもすぐ判断できる。だから、大量のメールも数分で処理を終えられるわけだ。

メールの要約例。例えばメルマガだとこんな感じでまとまる

さらに、自分にどのような重要なメールが来て、それにどう返信したのかは、ナレッジとして内部に蓄積されている。

「Email Brain」をクリックすると、

  • 最近の動向
  • 自分が誰とやり取りしているのか
  • 自分がどんなテイストでメールを書くのか

などが全て出てくる。

自分の「Email Brain」。メールの受信内容や行動、どんなメールをどう書くかなどのナレッジがまとまっている

GenMailでメールの返信を書くときも、1行内容を書くと、蓄積したナレッジをもとに、メールのテイストや内容を合わせて書いてくれる。

AIでのメールの代筆、というと「自分のテイストとは違うものを書いてくる」「TPOを判断せず、木で鼻を括ったような内容になる」というイメージがあった。だがGenMailの場合、その場に合った内容を短時間で書けるため、今までとは全く感覚が異なる。

GenMailは、Gensparkが開発した「Second Brain」などのナレッジ蓄積技術をメールアプリに応用したものである。AIにナレッジを蓄積する技術をメールアプリ向けにブラッシュアップしているので、単純にチャットをするよりもずっと使いやすい。

機能に不満や課題があった場合の反応・対応も早く、好感を持てる。

前出のように、無料で使えるのは9月30日までなのだが、このままずっと使い続けようと考えているところだ。

エージェンティックAI時代の行動履歴。企業や個人がどう扱うべきか

ChatGPTのComputer Historyにしろ、GensparkのGenMailにしろ、切り口は非常に素晴らしい。

だが実は、技術として見た場合、エージェンティックAIのトレンドをそのまま反映したものであり、信じられないような技術を導入しているわけではない。

去年の末以降、AI業界では、エージェンティックAIである「OpenClaw」が大ブームになった。今はだいぶ落ち着いてきたが、似たような要素を持つソフトウェアは増加傾向にある。今は、OpenClawの他にも「Hermes Agent」を使う人も増えたし、マイクロソフトもOpenClawを企業ベースのシステムに取り込むべく、「Microsoft Scout」を発表した。

Computer HistoryもGenMailも、エージェンティックAIでナレッジ・コンテキストをテキストとして蓄積し、スキルとして活用するという技術の応用例であり、「行動を記録する」という方向で技術を先鋭化させたものである。

エージェンティックAIが一般化するならこうしたサービスは確実に普及するだろう。

同時に、「情報を蓄積する」ということはいくつもの課題を抱えるということである。

まずはプライバシー。

サービス内に蓄積されたものは外に出ないし、サーバーで処理した情報はすぐに除去され、蓄積されない。また、広告などには利用されず、他者とも共有されない。

とはいえ、自分の機械からどれだけの情報がいったんクラウドに出ていくのか、利用者からは見えづらい。「契約・サービス構築上のエンフォースメント」で守られているとはいえ、オンデバイスAIで完結する処理に比べると不安は残る。

当然だが、サービスの利用には、利用者側で機能をオンにし、利用を許可する必要がある。勝手に機能したりはしない。

次に利用範囲。

こうしたサービスを、個人が使う分には「契約・サービス構築上のエンフォースメントで守られている」という理解だけでいいだろう。

だが、企業で使うとなると話は別になる。

個人が勝手に利用すると、いわゆる「シャドーAI」という扱いになる。「契約・サービス構築上のエンフォースメントで守られている」とはいえ、企業が運用する場合には、その企業内でのルールとシステム管理者が定めるポリシーに適合していることが必須になる。

だから、ChatGPTの企業版にあたる「Enterprise」や「Business」契約では、管理者が許諾する形でないと使えないようになっている。

GenMailも、企業では「Gensparkの企業アカウントに加入し、そこで管理者が認める」形で使うのが筋だ。

おそらく今後は、スマホなどの中でも、これらの「行動ナレッジを蓄積して活かすAI」が増えてくる。

Apple IntelligenceもGemini Intelligenceもそうした要素はあるが、ナレッジはプライベートな情報であり、厳重な取り扱いが求められる。

これらの「AIが利用者自身のために使う機微な情報」は、どんどん増えていくだろう。その管理はますます重要になる。

場合によっては「この程度の利便性であれば、情報と引き換えにはできない」と判断し、オフにする必要も出てくるだろう。

この辺りの状況がどうなるかは、スマートグラスやイヤフォンに付いたセンサーの活用と並び、「AIが利用者のために使う機微な情報」として、注目しておく必要がある。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41