西田宗千佳のイマトミライ

第355回

Google Pixel 11がリアル店舗と〝頑張った価格”で狙う日本市場攻略

Pixel 11をはじめとした新製品群

Googleが新スマートフォン「Pixel 11」を中心とした新製品群を発表した。

「Pixel 11」「Pixel 11 Pro」「Pixel 11 Pro XL」「Pixel 11 Pro Fold」のスマホ4種と、「Pixel Watch 5」、紛失防止タグの「Pixel Tag」が登場し、Tag以外の各製品は8月20日から発売される。今年のPixelシリーズの主力製品が揃ったこととなる。

Pixel 11
Pixel 11 Pro
Pixel 11 Pro XL
Pixel 11 Pro Fold
Pixel Watch 5とPixel Buds Pro 2(カラバリ追加)

現在のトレンドは、「スマホへのAI導入」と「二つ折り」という印象があるが、Googleはそれを、あまり派手な変化をもたらすことなく進めた印象がある。

発表された仕様や説明イベントからの情報などを基に、Googleの目指すところを分析してみたい。

見た目の変化は小さいが……

前述のように、Googleは「派手な変化をもたらすことなく進化させた」印象が強い。

パッと見のデザインは大きく変えず、プロセッサーとOSの進化で価値を高めている。実際の細かな使い勝手は後日の検証が必要だが、今年はよりその傾向が強いと感じる。

Pixel 11シリーズ。撮影は「Google Store 表参道」にて

外観の明確な変化は3つある。

「Pro」系の3モデルには、背面に通知用LED「HiLight」が搭載された。カラーのLEDで、誰からの通知や電話なのかによって色が変わる。スマホを裏返したまま、強く注意を向けていなくても通知がわかる。

Proシリーズに搭載されている「HiLight」のデモ。電話をかけてきた相手に合わせてLEDの色を変える

次はPixel 11のみの要素だ。従来モデルに比べ、カメラバー部分の厚みが40%以上減っている。

左がPixel 11で、右がPixel 11 Pro。カメラバーの厚みがかなり違う

以下の写真はMade by Googleブランドのケースをつけた物を斜めから見たものだが、上のPixel 10ではカメラバーがかなり目立たなくなり、その下のPixel 11 Proではこれまで通り出っ張りが目立つ。

Pixel 11(上)とPixel 11 Pro(下)を純正ケースに入れた展示。Pixel 11はケースに入れるとカメラバーがかなり目立ちにくくなる

3つ目はPixel 11 Pro Fold。他社と異なり縦横比などは変更されておらず、パッと見大きな変化がないように思える。しかし実際には、重量で10%軽くなって239gになり、厚みも折りたたんだ際に0.7mm、開いた際に0.3mm薄くなっている。薄さをウリにしているGalaxyとの競合を意識しているわけだ。

また、背面を新しいグラスファイバー複合材に、ヒンジも再設計したことで、壊れにくさも追求しているという。

Pixel 11 Pro Fold

Pixelだと一目でわかるデザインをそのままに改良を加えた、という方針である。

アピールの形も変わる――表参道に米国外初の直営店も

細かいスペックはともかく、こうした外観は少し前から「公式が公開」していた。一部をチラ見せし、12日の発表を盛り上げるパターンである。

SNS投稿などももちろんだが、ビルボードなどの広告展開も目立つ。

写真は、8月13日にオープンするGoogleの直営店「Google Store 表参道」の正面にあるラフォーレの広告だ。撮影したのは8月10日のことなのだが、もうすっかり「発表された」ような印象すら受ける。

8月10日に撮影。発表前から特徴的なデザインをアピール

発表会に合わせて秘密を全て公開……と行けば理想的だが、昨今はリーク情報も増えてきた。少しずつ「新しさが摩耗する」よりは、チラ見せして人気を煽る方向性にあるのだろう。数年前からの方針ではあるが、去年、そして今年はその傾向をさらに強く感じる。

製品の発表も、ニューヨークからのオンラインイベントである「Made by Google」の半日前に行なわれた。米国・欧州で見やすく、日本でも朝7時からなので負担が少ない。この辺は多分に、ヨーロッパ市場への浸透を強く意識したものではないか、という気がする。

発表会の形式について、GoogleでAndroidエコシステム担当プレジデントであるサミール・サマット氏は、自身のXアカウントで次のように述べている。

「Pixelが昨年、そして今年も行なったのは、このイベントを見直し、メッセージの到達範囲を広げようと試みたことです。一部の人に異論があるのは知っています。新しいオーディエンスに届けるために、チームがこれまでと異なることを試すリスクを取ったのは、本当にクールなことです。そして明確に、このアプローチは成功しました — Made by Google 2025 は前年の5倍の視聴者を集めました。そして今年のイベントの視聴量はさらに良さそうです!」

What Pixel did last year and again this year was to rethink this event and try to broaden the reach of their message. I know some folks had thoughts on it, but it's really cool that the team took the risk to try something different to reach new audiences. And clearly, this approach paid off – Made by Google 2025 attracted 5x more views than the year before.

同時に強く感じたのは、日本市場への注力ぶりだ。

発表(日本時間12日23時)の翌13日には、Googleの直営店「Google Store 表参道」をオープンした。Google Storeはアメリカ以外では初の店舗となる。

Google Store 表参道(撮影は8月10日)

Googleはさまざまな製品を扱っているが、中核はPixelとPixel Watchだ。入ってすぐのスペースではPixelとPixel Watchを展示して販売し、地下にはこれら2つについて、修理や相談ができるスペースもある。

店内の様子。1階ではPixelとPixel Watchを中心にアピール。実際にここで購入もできる。ただし、携帯電話回線の契約はできず、購入できるのはGoogle直販のオープンマーケットモデルのみ
最上階。Geminiを使った機能を実際に体験できる
日本独自のGoogleグッズも用意される。「Google Store Omotesando」の名が印刷されたポーチのほか、オリジナルの小皿や箸置き(4色セット)も。
地下はPixelやPixel Watchについて、修理を含めた相談ができるフロア。

筆者はオープン当日に現地へ行くことはできなかったが、一時は周辺を歩くのが難しくなるほど人が集まっていたという。「ここに来れば見られる・買える」という場所を作るGoogleの戦略は間違っていない。

世界的に見ると、日本はPixelがよく売れる国だ。大手携帯電話事業者がそろって積極的に拡販していること、Googleというブランドへの信頼などが影響しているのだろう。現状ではスマートフォンをメーカーから直接買う人はまだ少なく、携帯電話事業者を介して購入する人が中心だ。そうなると、「大手4社がどう取り扱うか」が重要になってくる。

「頑張った」日本価格 下取りキャンペーンが9月4日までの狙い

もちろん、価格上昇という課題は大きい。ただ、Googleはその影響を小さいものにしようとかなりの努力をしている。

ドルでは100ドルくらい値上がりしているが、日本だといくつかの機種で上がった程度になっている。日本で売れる・日本で売りたいからの価格戦略だろう。

例えば、Pixel 10はストレージ128GBモデルが128,900円だったが、Pixel 11では128GBモデルが廃止され、256GBモデルが136,800円からになった。8,000円の値上げだが、ストレージは倍になっている。Pixel 10の256GBモデルは143,900円だったので、同一ストレージ容量なら値下げとも言える。

Pixel 11 Proも、128GBモデルがなくなり、256GBモデルが174,800円。Pixel 10 Proの256GBモデルが174,900円だったので、100円だが値下げに見える。

しかし、Pixel 11 ProとPixel 11 Pro XLは、256GBモデルのみメモリー搭載量が12GBになっている。Pixel 10 Pro/XLは全モデル16GBだったから、価格を下げるために妥協してきたのだろう。

これが実用上どれだけ大きな差になるかは現状わからないが、Googleが「とにかく価格を上げたくなかった」という事情はよくわかるし、その気持ちも理解できる。

Google Storeでの旧機種下取りによる割引キャンペーンも行なわれており、「いかに価格負担を軽くするか」がテーマになっているのは間違いない。

Pixel 11シリーズの価格。最も安価なモデルでも13万6,800円から

興味深いのは、下取りキャンペーンの終了日が「9月4日」になっていることだ。翌週以降にはアップルが、iPhoneを含む新製品を発表する可能性が高い。その前に買い替え客を掴んでおきたい……という意図が見えてくる。

Pixelの買い取りで割り引くキャンペーンも。ただし9月4日までなので、遅くならないようご注意を。

Gemini Intelligenceはいつ使えるのか

Googleは現在、スマホへのAI導入を積極的に進めている。Android 17では「Gemini Intelligence」が搭載されることになっており、今回の主軸もそこだ。

機能の軸になるのは「Gemini Intelligence」

動画を撮ればそこから「いい感じのカット」を静止画として切り出す「マジックキャプチャー」や、音声入力時に「えー」「あー」といったフィラーを削除し、「じゃなくて」といった言い直しを認識して文章を構成する「AI文字入力」などはとても魅力的だ。

音声入力もGeminiと連動、より気軽なものに

ただ、どうしても気になるのは、Geminiと連携し、AIに作業を任せることでスマホ上でできることをもっと簡単にする「Gemini Intelligence」の提供時期がはっきりしないことだ。

まずはアメリカ英語からスタートし、日本語への対応も公言されているものの、発売日から使えるわけではない。「後日アップデートで」の対応となる。

ソフト開発の時間を考えると、アップデートでの機能追加自体は理解できる。

一方で、いつどんなAI機能が使えるようになるのか、その設定はどこから行なうか、といった情報がわかりにくい。日々この種の技術動向を追っている筆者にとってですらわかりにくいのだから、技術に詳しくない人にとってはもっと難しく、理解しづらい部分かもしれない。

機能提供の時期や設定、使い方などをクリアにしていくことは、スマホ上でAIを活用するために必須のことだ。積み上げていく過程でいかにわかりやすい入り口を作るのか。

「これから出てくるAI機能のために新しいスマホを買う」という人を増やすには、「アップデート対応をどう分かりやすくするか」という点での工夫も必要になってきそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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