お金の教室
第8回
NISA上限の1800万円は埋めるべき? 年齢別シミュレーションで紐解く
2026年8月18日 08:20
「NISAの上限となる年間360万円・生涯1,800万円を埋めないと、老後は生活できないのではないか」。こうした受け止め方をされている方がいますが、年間360万円の投資は多くの人にとって現実的な数字ではありません。毎月30万円ずつ12カ月投資し続けるペースになるからです。
また、生涯1,800万円の投資も、すべての人に必要なわけではありません。大事なのは「枠を埋めること」ではなく「必要額に届くこと」です。
そこでこの記事では、老後の65歳から90歳までの25年間に毎月10万円を取り崩すケースで検証します。運用しながら取り崩す前提で必要額を逆算し、その必要額を達成できる投資額であれば十分だという考え方で進めていきます。
1800万円というNISA上限の仕組み
そもそも1,800万円とは、どの金額を指しているのでしょうか。これはNISAの生涯投資上限額です。このうち成長投資枠として使えるのは1,200万円までという制限があります。一方で、つみたて投資枠だけであれば1,800万円すべてを使うことができます。
年間の投資上限は、つみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円で、両方を使った場合は最大360万円までとなります。
ここで押さえておきたいのが、枠を消費するのは購入額(簿価)の合計であり、値上がり分はカウントされないという点です。1,800万円という上限は、投資期間があまり取れない人でも一定額を投資できるように大きく設定されているものであり、1,800万円を投資しなければ老後に困るという性質のものではありません。
シミュレーションの前提条件
どのような運用と取り崩しを想定して計算するのかを整理します。投資開始から65歳までは、全世界株式インデックスファンドで毎月積立投資を行ないます。インデックスファンドとは、市場全体の値動きを示す指数に連動することを目指す投資信託のことです。
65歳から90歳までは、リスクを落とした配分に切り替えます。全世界株式35%、個人向け国債(固定5年)32.5%、預金32.5%という組み合わせです。取り崩し期も運用を続けながら、毎月10万円を25年間取り崩していきます。
想定リターンは、積立期が年+5.4%、取り崩し期が年+2.48%です。積立期はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の外国株式の期待リターンである5.4%を採用しました。取り崩し期は、全世界株式の5.4%×35%、個人向け国債(固定5年)の1.95%(2026年7月募集分)×32.5%、預金金利0.3%×32.5%を合計したものです。なお、個人向け国債と預金の利息には約20%の税金がかかるため、その分を差し引いて計算しています。その結果が年+2.48%です。
65歳でいくら必要なのか
65歳から90歳までの25年間、毎月10万円を取り崩すにはいくら必要なのでしょうか。三菱UFJアセットマネジメントの「取り崩しシミュレーション」を使って計算しました。取り崩し開始年齢65歳、取り崩し年数25年、毎月の取り崩し額10万円、想定リターン2.48%、想定リスクは暫定的に0%という条件です。
結果は、投資をしない場合は3,000万円、投資をする場合なら2,241万円でした。取り崩し期も運用を続けることで、必要額は約760万円少なくて済む計算になります。以降は、この2,241万円をどう準備するかを考えていきます。
例:50歳から2241万円を目指す
例として、50歳から2,241万円を目指すケースを見てみましょう。65歳までの15年間で、毎月いくら積み立てればよいのでしょうか。同じく三菱UFJアセットマネジメントの「つみたて(積立)投資シミュレーション」で計算します。目標金額2,241万円、初期投資額0円、積立期間15年、想定リターン5.4%、想定リスクは暫定的に0%という条件です。
投資をしない場合は毎月124,500円が必要ですが、投資をする場合は毎月81,963円で届きます。運用によって、毎月の負担をかなり抑えられることが分かります。
年齢別の毎月積立額
何歳から始めれば、毎月いくらで2,241万円に届くのか。年齢別に計算した結果が次の表です。
20歳から始めれば積立期間は45年あるため、毎月1.1万円、投資元本594万円で済みます。25歳なら毎月1.4万円、30歳なら1.9万円、35歳なら2.6万円、40歳なら3.7万円、45歳なら5.3万円、50歳なら8.2万円です。
50歳までであれば毎月の積立額は10万円未満に収まるため、つみたて投資枠(年間120万円)だけで対応できます。一方、55歳から始めると積立期間は10年となり、毎月の積立額は14.3万円になります。年間120万円を超えるため、成長投資枠も併用する必要があります。
60歳の場合は積立期間が5年しかなく、毎月の積立額は32.8万円と非常に高額になります。投資元本も1,968万円となり、NISAの生涯投資枠1,800万円を超えてしまいます。逆に言えば、55歳までに始めればどの年齢から始めても、投資元本は1,800万円の枠内に収まる計算です。
1800万円は埋めるべきなのか
必要額から逆算すると、見えてくるものがあります。まず注意したいのは、NISAの上限は投資元本(積立額の合計)で決まるものであり、65歳時点の残高ではないという点です。したがって、必要額2,241万円と1,800万円の枠を直接比べる必要はありません。
そして前項のとおり、20歳から55歳までの間に始めれば、必要な投資元本は1,800万円の枠内に収まります。
問題は60歳から始める場合です。積立期間5年では毎月32.8万円、投資元本1,968万円となり枠を超えてしまいます。そもそも投資期間が5年しかないと、株式市場の下落局面に当たった場合にマイナスで終わってしまう可能性があります。投資期間は最低でも10年は取っていただきたいところです。積立期間を10年に延ばせば、毎月14.3万円、投資元本1,716万円となり、枠にも収まります。
こうして見ていくと、NISAの1,800万円という投資上限は、多くの場合は使いきらなくてもよいかもしれない、ということが分かってきます。
NISA活用のポイント
では、どこに力を入れればよいのでしょうか。枠があるとつい埋めたくなりますが、そこは気にしなくてよいと考えます。
資産がどのように増えるかを式で表すと、資産=投資額×(1+利回り)^投資年数となります。「^」というのは、投資年数が2年であれば(1+利回り)を2回掛ける、ということです。つまり増やせるのは投資額という金額だけではなく、投資年数という「期間」も伸ばせるということです。
投資額は人それぞれ制限があると思うので、投資期間を長く取ることに注力するのがよいでしょう。また「NISA貧乏」という言葉もあるとおり、投資しすぎて今の生活を犠牲にしないことも大切な考え方です。埋めることよりも、早く始めて長く続けることを優先してください。
ゴールは枠を埋めることではなく各々の必要額
今回のシミュレーションから分かったことを整理します。
(1)必要額は逆算できる:65〜90歳に毎月10万円を取り崩す場合、運用を続けながら取り崩す前提なら65歳時点で2,241万円あればよい計算です(投資をしない場合は3,000万円)。
(2)NISAの上限は投資元本で決まる:65歳時点の残高の上限ではないため、必要額2,241万円と1,800万円の枠を直接比べる必要はありません。
(3)55歳までに始めれば枠内に収まる:20歳から55歳までのどの年齢から始めても、必要な投資元本は1,800万円以内です。
(4)伸ばせるのは金額だけでなく期間:投資期間は最低でも10年を確保し、早く始めて長く続けることを優先しましょう。
読者のタイプ別に、次の一歩を整理すると次のようになります。
50歳までに投資を始められる方は、毎月10万円未満の積立でこのモデルの必要額に届くため、つみたて投資枠だけで完結できます。無理に枠を埋めようとせず、続けられる金額で長く積み立てることを優先してください。
55歳以降に始める方は、毎月の積立額が年間120万円を超えるため、つみたて投資枠に加えて成長投資枠の併用を検討することになります。あわせて、積立期間を10年以上確保できるよう、取り崩し開始年齢を後ろにずらすことも選択肢です。
すでに投資をしている方は、「枠がまだ余っている」ことを焦る材料にしないことです。自分の取り崩し計画から必要額を逆算し、そこから毎月の積立額を決め直してみてください。
枠を埋めることがゴールではありません。自分に必要な金額を逆算して、積立投資額を決めていきましょう。
塚本俊太郎の金融リテラシーチャンネル
近著「私が投資したNISA・iDeCoのお金、このままで大丈夫?」
出所: 三菱UFJアセットマネジメント「取り崩しシミュレーション」「つみたて(積立)投資シミュレーション」、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、財務省「個人向け国債」(2026年7月募集分)、金融庁の公表資料を基に作成。本記事のシミュレーションは一定の前提に基づく試算であり、将来の運用成果を保証するものではありません。








