西田宗千佳のイマトミライ

第351回

サムスン新「Galaxy Z Fold」に見る「iPhoneシフト」と「二つ折り普及」戦略

Galaxy Z Fold8 Ultra

サムスンが同社のスマートフォン「Galaxy」シリーズの二つ折りモデルを刷新した。従来からの形状と機能を継承した「Galaxy Z Fold8 Ultra」、縦方向に二つ折りにする「Galaxy Z Flip8」、そして新しい縦横比を採用した「Galaxy Z Fold8」の3モデルだ。

Galaxy Z Fold8 Ultra
Galaxy Z Fold8

石野純也氏のレポートも掲載されているが、筆者の手元にも試用機材が届いたので、使いながら色々考えてみた。

今回の発表は、二つ折り市場をリードしてきたサムスンの矜持ともいえるものだ。一方、多くの人が感じているように、今回の発表が「おそらくやってくる二つ折りiPhone」を控えての動きであるのも間違いない。その辺を少し考察してみよう。

Galaxy Z Flip8

サムスンはなぜ縦横比を追加したのか

今回特に注目されるのは、やはり「Galaxy Z Fold8」(以下Fold8)だろう。Foldシリーズのメイン商品の名前を引き継いだわけで、いかにも「これからのメイン」という印象を受ける。

デザイン・機能的に言えば「Galaxy Z Fold8 Ultra」(以下Fold8 Ultra)が前機種「Z Fold7」を引き継いでいるのだが、あえて両者を残し、新しいFold8を軸に据えたあたりから、サムスンとしての戦略が見えてくる。

両者のもっとも大きな違いは縦横比だ。Fold7やFold8 Ultraは二つ折りした時に「細長い大型スマホ」のサイズを維持し、開いた時には正方形に近い形状になる。

左がFold8 Ultra、右がFold8を折りたたんだ場合
iPhone 17 Pro Max(右)とFold8 Ultraを比較
同じくiPhone 17 Pro Max(左)とFold8を比較

それに対してFold8は縦が短く少し横幅が広く、開いた時には縦横比が3:4になる。要は本を開いた時に近い感じになるのだ。

Fold8 Ultraを開いたところ
Fold8を開いたところ
左がFold8 Ultraで、右がFold8。開いた時の縦横比はかなり違う

二つ折りスマホはこれまで、作業画面を広くするためのものという部分が大きかった。より高付加価値な存在として「三つ折り」が出てくるのも、広ければ広いほど色々なことがやりやすいはずだ……という発想があったからだろう。もちろん、他社に対する競合・差別化の意味もあっただろうが。

それに対して、Fold8は少し軸が変わったように思える。なぜなら、単にサイズを小さくしたわけでも、縦横比を変えてみただけでもないように感じるからだ。

これは結果的に「完全に開いた状態でイージーに使う」ことを目指したデバイスになった、ということだと感じている。

以下の写真は、YouTubeで一般的な16:9の動画を流した時のものだ。映画だとシネスコなのでもっと黒い部分が増える。ドラマやアニメは16:9が中心なので、同じイメージと考えていただきたい。

同じように普通に開いたとき、Fold8とFold8 Ultraでは、Fold8の方が画面が大きくなる。

左がFold8 Ultraで、右がFold8。どちらもサムスンの発表会動画(16:9)だが、画面の有効サイズはFold8の方が大きい

Fold8 Ultraを開いて90度回転すると動画部分は大きくなり、Fold8を横にした時と同じ大きさになる。当然、黒い枠は大きいままだが。

Fold8 Ultraを90度回転させると、Fold8(右)と動画サイズは同じくらいになる

それだけFold8の方が動画には向く、ということだ。

同じことを、手持ちの二つ折りスマホである「Pixel 10 Pro Fold」でもやってみたが、だいたい同じ印象になった。

参考までに、Pixel 10 Pro Fold(右)とFold8を比較。縦横比の関係はFold8 Ultraに近い

書籍では縦横比問題はさらに大きく。アプリの扱いも重要

では書籍・コミックはどうか。

いわゆる「文字もの」の書籍の場合、縦横比に合わせて文字が変わるので、そこまで大きな違いはないように見える。

書籍(拙著『ネットフリックスの時代』)で比較。文字ものならどちらも大きな差はない

だが、画像でデータが提供されるコミックや雑誌の場合、見開きでの縦横比は3:4に近いので、Fold8の方が読みやすくなる。

もう一つ大きな違いは、「アプリの縦横の扱い」の違いだ。

Kindleでコミックを読む場合、Fold8(右)だと見開きになるが、Fold8 Ultraだと、そのままだと単ページに。鈴木みそ氏著『銭』第一巻を、著者許諾を得て利用

上記の画像は、電子書籍サービスである「Kindle」を、Fold8 Ultraで使った時の表示だ。普通に横に開いた状態では「スマホと同じく縦の画面」だとアプリが認識しているので、表示は見開きにならない。本体を90度回転して持つと、本体を横に持ったと認識されて「見開き」になる。

Fold8 Ultraを90度回転させると見開き表示になる

同じFoldシリーズでも、Fold8は逆で、「開いた状態ではアプリは横画面を基本」とする。だからKindleは、最初から見開き表示になったわけだ。

こうした挙動はアプリによって変わる。同じ電子書籍アプリでも、「eBookJapan」のものは、Fold8 UltraでもFold8でも「横と認識して見開き」になる。

エンターテイメントを考えた時、多くのコンテンツは横に広いアプリ画面の方が使いやすい。例外は縦型動画くらいだろうか。

一方、スマホ向けのアプリは縦画面が多い。これをそのまま使う、もしくは複数画面で使うとすると、縦を基本とし、画面分割した時のアプリ表示も大きくなるFold8 Ultraの方が有利になる。

つまり、「スマホをよりプロダクティビティ向けに使う」「普段からスマホっぽく使う」ならFold8 Ultraの方が向いていて、「スマホをよりエンターテイメントに使う」「気軽に開いて使う」ならFold8が向いている、ということになるのだ。

Pixel 10 Pro Foldもアプリの扱いは「縦」が基本だ。Fold8で「横」を基本としているのは、明確な意思があって選択されているのだろう。

ヒンジの軽さがFold8の魅力だが……

アプリの扱いを含め、サムスンは2つのFoldで、かなり明確に味付けを変えている。同じ二つ折りで2つの違うディスプレイを採用するとバッティングしてしまうからこそ、価格も変えて味付けも変えた上で製品を仕上げてきたわけだ。

特にそのことは「ヒンジ」に現れている。

Fold8の特徴として、ヒンジが軽くてとても開きやすい、という点が挙げられる。これは、Fold8 Ultraだけでなく縦開きのFlip8と比較しても軽い。

Fold8を開いたところ。非常に薄くて軽い。薄さはFold8 Ultraも同様

今回のZ Foldシリーズでは、ヒンジの動作にマグネットを使い、開く・閉じる動作を軽くしている。開くのに(若干だが)力が必要になると、日常的に開くタイミングが減るからだ。

筆者も二つ折りスマホを何機種か使ってきたが、日常的に使う場合の課題は「開くのが面倒になって開かなくなる」ことであり、そのことが「次は二つ折りでなくていい」という印象につながっていた。

二つ折りスマホが良いと思うには、「日常的に開いて使う用途がある」ことと、「開く動作が楽である」ことが重要になる。

Fold8 UltraとFlip8は、従来に比べ開閉が楽になった。本体が薄く、軽くなったからでもあるだろう。

Fold8は、それに輪をかけて軽い。これなら日常的にすぐ開くだろう、と感じられるくらい快適だ。「開くことを日常とする」ことを強く意識しているのがわかる。

どこでもエンタメを楽しむなら、スマホを横に持つのと同じくらいの労力で開けないとダメだろう。その条件を満たしているように思う。

一方そのためか、Fold8は他の2機種や過去の二つ折りと異なり、「折り畳みの途中で止める」ことが難しい。サムスンが「フレックスモード」と呼んでいる機能は、Fold8では使えない。ヒンジを軽くするために取捨選択されたのではないか。

Fold8 Ultraは「フレックスモード」があるので、折り曲げた途中で止めるのも簡単
Fold8の場合、フレックスモードがなく、途中で止めるのは難しい。このくらいが限界

フレックスモード自体は、カメラを使ったり机の上に置いて会議に参加する時などに便利だ。正直なくして欲しくない。だが、Fold8を開くときの軽さを考えると、これもまた選択の結果か……とも思う。

なお、フレックスモードは「机の上にスマホを置いて動画を見る」にも便利だった。この場合、Fold8では外側のディスプレイを使い、以下の写真のような置き方をすれば良い。カメラの分、ちょっと傾いてしまうが……。

Fold8を机の上に置いて動画を見るときは、外画面を使って見るのがベスト

背後に見える「二つ折りiPhone」 先に「二つ折りの席」を確保するには

サムスンはかなり慎重にFold8を作っている。逆に言えばそれだけ重要な製品だと考えている、ということだろう。

理由は明白。「背後にiPhoneが控えている」可能性が極めて高いからだ。

あくまで「噂では」という留保はつくものの、次に発表されるiPhoneの中に、二つ折りタイプが含まれる可能性はかなり高い。そして、その縦横比やサイズがFold8と同じようなものになる可能性も同様に高いと見られている。

どちらが先に企画したのかなどは、まあ考えても意味はない。

なんだかんだ言って、iPhoneはアメリカでも日本でもシェアが大きく、世界全体を見ても影響力は大きい。

二つ折りスマホは8年以上前から製品化されているが、一定以上のシェアにはならなかった。高価なことも大きなハードルだが、「アップルが手がけて来ない」ことの影響もあっただろう。

アップルが二つ折りを作らなかったのは、生産量がなかなか上がらなかったこと、そして、堅牢性に問題があったことなどと見られる。二つ折り対応のディスプレイはまだ壊れやすい。表面が傷む、使っているうちに折り目が大きくなるなどの課題はあり、今年の製品でも完全に解消されたかどうかはまだわからない。

しかし、アップルとして一定の水準に達したと判断した可能性は高い。数量よりも高付加価値な製品を増やすという判断になった可能性もある。折り目の問題は、Fold8シリーズでも大きな改善が見られる。

Fold8とFold8 Ultraのディスプレイ。折り目は非常に目立ちづらくなった
参考までに、Pixel 10 Pro Foldの折り目。長期間使った後のものなのでイコールで比較というのは厳しいが、イメージはつかめるはず

「アップルが作らなくても価値はあるのに」と思う人もいるだろう。その通りだ。だが、市場としてiPhoneの影響が強いことは、ケース市場やガラスフィルム市場などの動きを見てもわかる。これらの市場が大きいからこそ、外観のリークが続くのだ。

重要なのは、「二つ折りは高価である」という点にある。

GalaxyにしてもFold8が269,880円から、Fold8 Ultraが296,780円からとなっている。おそらく、iPhoneの二つ折りが出るとしても、これを大幅に下回る価格にはならないだろう。

私用と仕事用、OSや機能の違いなどでスマホを2台持つ人も少なくない。だが、高価な二つ折りを2台持つ人は限られる。二つ折りを買うとしても、それ1台にするか、普通のスマホ+二つ折りの2台持ち、というところだろうか。二つ折りの席は、消費者のもとに2つ用意されてはいない。

だとすれば、圧倒的に強いiPhoneが来る前に、サムスンは二つ折りの市場を確保しておきたいはずだ。

Fold8を慎重に設計し、より使う人が多いであろう「エンタメ向け」に振り切ったのも、「対iPhone」ゆえだろう。

円安の中で実は割安。サムスンが仕掛ける価格戦略

そしてもう一つ、サムスンが力を入れたのが「販売戦略」だ。

高価な二つ折りスマホを値下げするには限界がある。

今は円安の最中。どうしても高くなりやすい。だが今回の販売価格を決める上で、サムスンは相当に安く設定した。

Fold8は米ドルだと1,899.99ドル(税別)だが、日本でのFold8の価格は269,880円(税込/サムスンオンラインストア価格)。消費税を勘案して円ドルレートを計算すると、1ドル約142円になる。

同じ計算をFold8 Ultra(2,099.99ドル、日本円では296,780円)で行なうと、円ドルレートは1ドル約141円だ。

1ドル160円を超える今、かなりがんばった値付けなのは間違いない。

さらに予約キャンペーンとして、15,000円相当のポイント還元がある。ポイント還元は4社の大手携帯電話事業者でも行なわれるので、2年後に端末を下取りすると残りの支払いが免除される「端末購入プログラム」を活用すると、さらに安価に手に入れられる。もちろんそれでも、毎月5,000円から8,000円くらいの支払いになるので、安いわけではないのだが。これもまた「先に二つ折りの席を確保する」ための作戦だ。

サムスンは15,000ポイントを還元する予約キャンペーンを展開

高価であるため、特に若い層は二つ折りスマホに興味を持ってこなかった。今でも高いが、今回の新製品やiPhoneでも二つ折りが出ることで、見方は変わってくるかもしれない。

そのためには、より若者に向いたFold8が「高いから無視」というパターンではなく、「次の機種変更で求められる」ようになる必要がある。

果たして二つ折りは、価格の高さを超える魅力を感じさせることができるだろうか。市場に強い製品が出てくることは、印象を変えていくための必要条件だ。

意外に思うかもしれないが、メモリーが高騰する今の市場においては、原価が高くなる分、「安価なスマホ」の方がビジネスは厳しい。特に今秋は、比較的ハイエンドな製品にフォーカスが当たるだろう。その中で、今までと同じスマホよりも二つ折りに……という話になるかどうか。

目論見が当たれば当面市場が続くだろうし、そうでなければ二つ折りを見直していくかもしれない。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41