小寺信良のくらしDX

第10回

行き詰まるソーラー政策、農地転用の可能性は?

COP28でスピーチする岸田総理(出典:政府広報オンライン)

2023年11月30日から12月13日まで、アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイにおいて、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)が開催された。「2030年までに世界の自然エネルギー設備容量を3倍、エネルギー効率の改善率を2倍」という誓約に120カ国以上が賛同、日本もこれに含まれている。

この誓約に向けた取り組みを来年からスタートするとしても、2030年まであと6年しかない。岸田総理は「我々には、太陽光の導入量が世界第3位となる実績があります。」とスピーチしたが、それは2022年末までのデータで、増加量からすれば4位以下の国に追い越させるのは時間の問題である。日本政府の見解では、これは世界目標であって、日本の目標ではないと逃げを打つ。

2011年の福島第一原発事故以来加速した日本の再生可能エネルギー政策は、太陽光発電に偏重していたが、山林を切り開いてのメガソーラー開発は行き詰まりを見せている。電力の買い取り価格減少により、損益分岐点が遠のいたのはもちろん、森林減によるCO2吸収量の減少や生態系の喪失、風景への悪影響など、地元住民の反対が大きくなり、自治体としても事業を認めない傾向が拡がっている。

今年春頃だったか、筆者宅へ山林を買いたいという事業者を名乗るサンダル履きの男がやってきた。筆者は先祖代々受け継いできた山林を相続しており、現地から登記簿を見て訪ねてきたようだ。登記情報はある意味公開情報なので、他人でも自由に閲覧できる。

山1つ分の土地と樹木を使って、バイオマス発電をやるのだという。ついては山林を3万円で買い取りたい、その程度の価値しかないはずだという。筆者が固定資産税を払っている関係から役所の評価額は承知しているが、面積からしてもとてもそんな価格ではない。あとでサイトを調べたら、会社としては実在するが事業実績がなく求人情報しか出てこない。詐欺、とはいわないが、山林で発電というと、なんとなく怪しげな感じになってきているのを肌で感じた。

農地で発電の現実

ソーラー発電が日本で偏重されたのには様々な理由が考えられるが、実際に家庭で発電してみると、他の発電方式に比べて大規模だけでなく小規模でもやれる点は大きい。つまり再エネ設備としては個人ベースで取り組める、数少ない方式なのである。

実際東京都では新築住宅に対してソーラーパネルの設置を義務付けたわけだが、政府が目を付けたのが、農地の上部空間にソーラーパネルを設置し、農業を営みながら並行で発電も行なう、営農型発電=ソーラーシェアリングである。すでに10年以上前から行なわれている方法だが、環境省が太陽光発電の導入余地が最も大きいのが農地であるという見解を示し、2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」内に営農型発電の推進が記されたことから、急速に注目を集めることとなった。

営農者としても、元々の農業収入以外に売電収入が得られるので、収入の安定につながり農業の永続性が高まるというメリットがある。ただ実際にソーラーシェアリングが可能かどうかは、生産面と法律面のハードルがある。

生産面についてはわかりやすいと思うが、要するに日当たりが多少悪くなっても収穫に影響がないような農産物である必要がある。ニンジン、大根などの根菜、ピーマン、なす、キャベツなどが考えられる。一部水田でも実施している例があるようだ。

法律面としては、農地法をクリアする必要がある。ソーラーパネルを設置するためには、農地内に支柱を立てなければならないが、この支柱の基礎部分の面積だけ一時転用許可が必要になる。

一時転用許可とは、利用が終わったら農地に戻すということが条件になる。これまで許可期限は3年しかなく、営農に問題がなければ延長も可能という状態だったが、2018年には条件付きで10年以内と改正された。ソーラー事業としては3年程度で投資回収できる見込みは薄く、銀行からの借り入れも難しかったが、10年やれるとなれば話が変わってくる。

営農型太陽光発電設備について(令和4年10月 農林水産省農村振興局公開資料)

とは言え、農林水産省としてはソーラーシェアリングはあくまでも農業を永続するための手段であり、発電が主体ではないという位置づけを崩していない。

農地そのものを発電施設等に転用する場合には、非常に大きな困難を伴う。農地の別利用や売買には厳しい制限が加えられているからだ。農地は農地法により、農用地区内農地から第3種農地まで、5つに分けられる。このうち営農以外の用途に農地転用が認められるのは、第2種と第3種のみだ。

農地転用許可基準の概要(令和4年10月 農林水産省農村振興局公開資料)

世の中には休耕田や耕作放棄された田畑などが存在するが、耕作していなくても農地区分が変わらなければ、他の用途には利用できない。荒れ放題の土地を見ても農地には見えないかもしれないが、地目としては「農地」のままであるところも多い。農地であれば固定資産税が大幅に軽減されるため、地権者も積極的に農地転用しない。

農地法は優良な農地を確保するため、土地と地権者を厳しく縛っている。例えば転用許可が出て、農地を駐車場等に利用するために雑種地に変更するとなれば、その土地では農業として利用できないよう、わざわざ砂利を入れて転圧するなどの措置が必要となる。

筆者宅の近所には、おそらくそうして雑種地に地目変更した土地を、地権者が手作業で砂利を掘り起こし、花壇にしているところがある。そうした土地を見るたび、農地でなくすために本当にそこまでしなければならないのかという思いに駆られる。

各自治体の農業委員会では、農地が減れば国からの交付金が減ることから、農地転用に後向きなところもあるという。筆者が経験した中では、地目変更する農地に地権者や開発関係者全員を集合させて立ち会いのもと、開発計画を農業委員会に説明させるといった手続きを求めるところもある。法は法なので条件が揃えば許可を出さざるを得ないのだが、手続きをより煩雑にすることで開発にブレーキをかける意図も透けて見える。

農地の扱いは、農業をやるかやらないかの二択しかなく、やらないなら徹底的にやらせないという方向性である。食糧自給率が低い日本において農地の確保は重要だが、それでも食糧自給率が下がり続けているのは、そもそも担い手が減り続けているからだろう。農機具や耕作設備などに費用がかかる割に、年間の気象や天候に左右されやすく、収入が安定しないことが大きな原因と言われている。

農地によるソーラー発電は、農業と並行するソーラーシェアリングか、農業を辞めて農地転用するかの二択しかないが、営農しなくても一時転用を認める、期間限定で発電事業者に貸すなど、今後時期が来れば農業を再開する等の見込みを残した柔軟な利用を考える必要がある。

ソーラー発電が最適解ではないにしても、有効な手段ではあるはずだ。すくなくとも雑草だらけで朽ち果てたビニールハウスが放置されていても農地は農地という現状より、日当たりの良い平地でなんらかの利益を産む構造に変化すべき時に来ているということだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。