小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第36回

駅前再開発から1年、地方で「アフターコロナ」を生きる

宮崎駅前交差点を通過する「ぐるっぴー」

10月中旬より東京でも新型コロナウィルスの新規感染者は100人を下回る日々が続いており、次第に日常の動きが戻ってきていると感じる人も多いのではないだろうか。11月16日から4日間、筆者は幕張メッセで開催されたInterBEE 2021取材のために上京したが、移動中の電車や街なかの人波を見るに、日常の7~8割ぐらいは戻ってきているのかなという気がする。

ここ宮崎でも10月21日以降はずっと感染者ゼロの日が続いており、年末の帰省シーズンまではなんとかこのまま行くのかなという気がしている。とはいえ、マスク着用や手指の消毒、検温といった行為はすでに習慣化し、面倒にも感じなくなった。

JR九州が各地で地元企業と提携して展開している駅前再開発事業「アミュプラザ」が宮崎でも展開され、宮崎駅前に大型商業施設「アミュプラザみやざき」がオープンしたのが、ちょうど1年前である。オープン当初、宮崎県内の感染者は20人以下であり、そこそこの人出を記録したが、元旦から感染者が急増し、県独自の緊急事態宣言に突入した。

人の流れというのは習慣に左右されており、これを変えるには定着が重要なのだが、オープン約1カ月後という重要な時期に行動が制限されることとなった。アミュプラザを含むと市街中心地を結ぶ電動コミュニティバス「ぐるっぴー」も、利用者は想定の半分であったことが地元紙で報じられている

新型コロナウィルスの影響とするが、まったく同じニュースが半年前にも報じられている。この半年、何も手を打っていないということで、宮崎人特有の、思い切りのなさが懸念される。

アミュプラザオープンのほぼ1年後となる11月22日、宮崎駅からアミュプラザ内を歩いてみたが、相変わらず人の少ない様子は寒々しい。

施設前の幅広い歩道も、ほぼ無人
閑散とした店内

とはいえ、Agoopによる人流変化の解析によると、宮崎駅周辺の人流増減率は、コロナ前の2019年同月比で約61%、開業時の2020年同月比で約31%増と、確実に増えてはいる。だがマックスでも2万人超えるかどうかという程度では、期待した数字の半分にも満たないというところだろう。

2021年11月23日時点での人口増減率(データ提供:株式会社Agoop)
宮崎駅半径500mの平均人口(データ提供:株式会社Agoop)

賑わいを取り戻しつつある「ニシタチ」

宮崎県最大の繁華街「ニシタチ」。宮崎市のメインストリートである橘通り(たちばなどおり)の西側にある「西橘通り」を中心としたエリアだから「ニシタチ」なのだが、この一角だけで飲食店が1,500件、そのうちスナックが700~800件を占める。人口10万人あたりのスナック軒数では全国1位の密度である。

ビル全部がスナックという建物も珍しくない

11月22日は勤労感謝の日の前日なので飲み歩く人もいるかと思い、夜20時過ぎのニシタチを歩いてみた。昔を知っているものからすれば、通りの人影はまだまだ全然、という感じなのだが、本当に閑散としていた時期からすれば、お客さんはだいぶ戻ってきているように見える。

少しずつ飲み歩くお客さんが戻ってきている

馴染みの寿司屋を覗いてみると、コロナ対策で間隔を開けてカウンターに座るため、席は空いているが入れないということであった。席が半分では利益も半分になってしまうところだが、その代わり持ち帰りを希望する客が増えたことで、なんとかなっているようだ。レジ前でお客さんが貯まらないよう、順番に会計を案内されるなど、細かい配慮が行き届いている。

東京から移住してきたママがニシタチで7年営業していたワインバーは、今年3月でサッと閉店。その代わりにニシタチから離れた「アミュプラザ」へ通じる道路沿いに、昼間からアルコールなしで営業できるカフェをオープンした。この割り切りの速さは、都会人ならではのセンスである。

ニシタチで70年以上営業を続ける小さなショットバーは、7割ぐらいの入り。筆者もここを訪れるのはおよそ3年ぶりだが、カウンター内外を分けるアクリル板が新設され、バーテンダーも常時マスクで対応。カウンターは毎回アルコールで除菌、グループごとに席を離すといった営業スタイルとなっていた。

老舗の人気ショットバーも7割り程度の入り

とはいえ、何もかもがコロナ前と同じというわけではない。ニシタチに繋がるアーケード街は、昔はドラッグストアや本屋、飲食店などが立ち並ぶ、いわゆる商店街で、女性や学生が多く行き来する場所だったが、久しぶりに通ってみると大型飲食店やゲームセンターが風俗店に変わっていた。小学生の頃からよく買い物に来ていた通りに黒服が客引きで立っているのは、なんだか変な感じがする。

大型居酒屋はいつのまにか風俗店に

出口が見えないコロナ禍の中、大店舗は生き残れず、小さなスナックが生き残ったというのは、助成金の傾斜配分がうまく機能していないという部分はあるだろう。しかしそれよりも大きいのは、馴染みの客のために開け続けるという経営者の思いの強さの違いではないだろうか。

これまでになかった習慣を定着させようとして苦労している駅前、一度廃れた習慣を取り返そうとする繁華街。それらは必ずしも対立の構図ではないはずだが、外から見ていると、どうにも噛み合わせがうまくいっていない感があってもどかしい。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。