小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第8回

東京→宮崎 自動車搬送大作戦。予想外に満足度の高いフェリー生活

第4回:宮崎クルマ無し生活は成立するか?」「第5回:なぜクルマ社会の地方で自転車生活をしているのか」と、やたら「地方で車なし生活」を強調してきた本連載。が、いろいろあってその姿勢を変えなければならなくなった。その理由は……

快適な自転車ライフ。のはずが……

宮崎で車なし生活、ということは通勤ももちろん自転車である。だが6月10日、いつものように自転車で通勤していたところ、駐車場から頭を出してきた車に後輪をぶつけられた格好で路上に転倒した。跳ね飛ばされたほどの速度ではなく、バランスを失っての転倒だったわけだが、法的には接触事故という事になる。

さっそく警察が呼ばれ、現場検証後、病院へと向かった。幸い骨折もなくくるぶしの擦り傷とお尻の打撲ぐらいで済んだが、経過観察が必要ということで10日間ほど通院することとなった。

地元の友人に聞くと、宮崎では自転車と車の事故は結構多いらしい。そもそも自転車があまり利用されていないため、ドライバーも自転車が走ってくる可能性をあまり考えていないように見受けられる。

埼玉に住む妻から自転車通勤は辞めるようにお願いされてしまったので、宮崎で車を手配することになった。とはいえ、今から急に車1台買うとなれば、結構な出費である。そこで義兄とも相談しながら色々検討した結果、カーフェリーで埼玉に置いてある車を持ってきたらどうか、という事になった。妻は免許を持っていないので、埼玉に車があっても誰も乗らないのである。

以前は川崎から宮崎までカーフェリーが就航していたのが、今は廃止されている。現在は神戸-宮崎間ならカーフェリーがある。陸路で埼玉から神戸まで走り、そこからフェリーという手を考えたが、陸路がなかなかの距離である。自分にはちょっと難しいかなと思い始めたころ、妻が東京-北九州間でカーフェリーがあることを突き止めた。北九州から宮崎までは高速道路もあり、約4時間半で行ける。埼玉-神戸間を走るより、距離的にはずいぶん短くなる。

そこで6月下旬、東京での仕事があったのでまず飛行機で東京へ移動、戻りはフェリーで帰る手筈となった。

2日かけて車を運ぶ

40年前ならともかく、今どき船旅で九州まで行こうという人はそれほど多くない。実は筆者が高校生の時、修学旅行で東京まで行って、帰りは川崎-宮崎間を就航していたフェリーで戻ってきた事がある。大量の高校生に個室が与えられるわけもなく、二等船室というのだろうか、だだっ広いスペースに雑魚寝しならが24時間を無為に過ごすという、何の得があるのかよくわからない経験をした事がある。

現在東京港から北九州に就航しているのは、「オーシャン東九フェリー」という路線だ。現在4隻が就航しており、毎日往復している。ただしいったん徳島にも寄るので、実質2日間かかる。

それでも4隻が毎日就航できるのは、この船の積み荷のメインは貨物だからだ。したがって、船の大きさの割には船室の数はそれほどでもなく、またレストランなどがあるわけではない。食事はすべて冷凍食品等を自動販売機で購入、電子レンジで自分で調理して食べる。

今回は、2名個室に1人で泊まる事にした。16人の相部屋もあるのだが、個室の方が安いのだ。それならわざわざ相部屋を選ぶ理由はない。6月30日の日曜日18時出港で、北九州新門司港に着くのは火曜日の5時20分というスケジュールで予約した。

実は初めて有明の東京港に行ったのだが、埠頭へ繋がる橋を渡ると、もはや普通車両など見かけない、完全な貨物港である。旅客用の案内標識も何もないので、とりあえずザックリ船に向かって車を走らせていたら、貨物トラックの運転手があっちだあっちと手で指図してくれた。いくら予約してあるからといっても、まずは旅客ターミナルで乗船手続きが必要である。同じように迷う人が多いのだろう。

大量の積み荷の奥に見えるのが、今回乗船する「りつりん」

あいにく当日は九州地方に豪雨警報が出ている最中で、東京も天気が悪かった。1時間半も前に着いてしまったので、待合室で待つしかなかったのだが、出航30分前になると乗船準備のために車に乗るようアナウンスされる。そのまま自分の車を運転してフェリー内に乗り込み、指示された場所に駐車すると、それで乗船完了だ。

自動販売機が立ち並ぶエントランスホール

就航して4年ほどの船だと言うが、船内は十分綺麗だった。客室は1フロアしかなく、個室は船の外側に配置されている。相部屋は真ん中だ。個室は若干匂いがこもっていたが、ファブリーズが常備されており、そいつをシュッシュすれば匂いは消えた。

客室の通路。設備はまだ新しい

個室は二段ベッドになっており、それを畳むと約5畳ほどのスペースになる。カーペット敷きだが椅子がないので、和室という事になる。広く使う必要もないので、すぐに寝っ転がれるようベッドは出したままにしておく。

個室は折りたたみ式の二段ベッド

船内にはWi-Fi設備がなく、よほどそれに対する問い合わせが多いのか、船内のあちこちに「Wi-Fiサービスはありません」と張り紙が貼ってあった。ただ陸地近くを航行する際には、陸地側の窓際まで行けばキャリアの電波は入る。あいにく今回割り当てられた船室は海側だったので、エントランスホールまで出ないと電波が拾えなかったのは残念だ。Web予約では個室の場所までは指定できなかったが、電話予約なら可能かもしれない。トライしてみる価値はあるだろう。

陸側の席ならキャリア電波は十分に入る
リクライニングシートがあるリラクゼーションスペースは、Wi-Fiが入りにくい
ネットに繋がるので現在位置もわかる

ゼイタクではないが快適

定刻の18時に無事東京港を出航した。海は低気圧の影響でやや荒れ模様だが、船体が大きいためか、それほど揺れはなかった。ただエンジンの小刻みな振動は、ベッドに寝ていても感じられる。そのあたり純粋な客船とは違うので、細かいことが気になる人には向いていないかもしれない。

乗客は、筆者が見かけただけでおよそ12〜3人ぐらいだろうか。外国人の旅行者ファミリーも見かけたが、多くは車ごと移動のためにやむなく乗っていると思われる。

個室にはテレビもあるが、エリアをどんどん移動していくので、地上波は頻繁にチャンネルスキャンしなければならない。ただ陸地から相当離れてしまうまではちゃんと映る。電波は海上だと長距離飛ぶので、その恩恵に預かれるということだろう。BSはもちろんいつでも映る。船室内にはコンセントが何カ所かあり、充電等には不自由しない。

個室にはテレビも常備

船内にはコインランドリーもあるので、着替えが少ない人でも問題なく過ごせる。お風呂もあり、本来ならば24時間入れるようだ。ただし乗船日は海上が荒れるということで、22時頃には閉鎖されるという。船内にはタオルやシャンプーなどの自動販売機もあるので、なにも持ってなくてもお風呂には困らないセットが購入できる。

お風呂内はシャワールームと湯船スタイルの2つに分かれている

19時頃に入浴したが、中には誰も居なかった。広い湯船を独り占めだったが、悪天候故に船体が揺れているため、湯船が往復する流れるプールみたいな事になってしまっていた。それはそれで面白かったので、よしとしたい。

気になるのは食事だろう。自動販売機は12台ほどあり、冷凍食品のパスタや焼肉丼、炒飯などが食べられる。カップ麺、パンなどもある。コーヒーや酒、おつまみの自販機もある。高速道路の大きめのパーキングエリアぐらいの充実度と言えばいいだろうか。価格も至って普通である。豪華なディナーは期待できないが、何をどう組み合わせて食べるかといった楽しみはある。

翌日の13時過ぎ、徳島の沖洲港へ入港した。ここで半分ぐらいの人が下船する。1時間半ほど荷物の積み卸しのために停泊するが、北九州まで行く乗客はいったん下船できるわけではない。もっとも下船したところで、ここも貨物港なので、観光などできるわけではない。

翌日のお昼頃、徳島に到着

徳島から乗船する人は見かけなかった。それはそうだろう。ここから船でさらに15時間ほどかかるわけだが、徳島から北九州など、車で行けば5時間ぐらいで行ける距離である。

東京からだと2日間の船旅だが、退屈はしなかった。深夜に通過したところはわからないが、日中確認したところではネットにはそこそこ繋がるので、仕事もできる。実際エントランスホールの窓際に陣取ってずっとパソコンで仕事したり、電話で仕事の打ち合わせしたりしている人も何人か見かけた。

ベッドに横になると船の揺れやエンジンの振動も心地よく、風呂もいつでも入れてたっぷり休息できた。高校生の時に無為に過ごした24時間より、ずっと充実した2日間であった。あいにくずっと雨だったので、展望デッキに出られなかったのが心残りであったぐらいである。

今回は普通車1台と人間1人が移動して、運賃は45,840円となった。北九州から宮崎までの高速代を含めると、ざっと5万円ぐらいだろうか。車だけを輸送サービスを使って送ると、10万円ぐらいかかるようである。途中5時間ぐらい自分で運転しないといけない面倒はあったが、リフレッシュもできて半額で車が搬送できた事になる。

多分もう同じ手段で車を運ぶことはないとは思うが、東九フェリーは今回でだいぶ勝手が分かった。次回は妻も連れて、徳島でレンタカーでも借りて四国巡りしながら、のんびり宮崎まで帰ってみたいと思っている。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。