いつモノコト

クッキリ見え過ぎて感動 ニコン双眼鏡「モナーク M7」

ニコン モナーク M7 10×30

ニコンのカメラを仕事・プライベート問わず愛用していますが、同じ光学系でも私にとって近くて遠い存在だったのが双眼鏡でした。幼少期、父親が持っていたニコンの双眼鏡を覗いて、幼いなりに「クッキリと見えてすごい」と感じたことは覚えていたのですが、一人暮らしを始めてからは活用するような機会、欲しいと思う機会が少なかったことから、手を出さずじまいでした。

きっかけになったのは、コロナ禍の終わりの頃、都内でも手軽に楽しめるアウトドアなアクティビティは何かあるだろうか? と考え、公園などに野鳥を観に行こうと考えたことでした。まずはカジュアルな利用ですから、コンパクトさや軽さは重視しつつも、カメラをずっと使ってきた身として、光学性能はそれなりのものが欲しい……ということで、ニコンの双眼鏡のラインナップを眺めることになるのは必然でした。

なにか良い塩梅の双眼鏡が欲しい、そう考え始めた頃に、ニコンから「モナーク M7」という双眼鏡が発表されました。ニコンのラインナップでは「中の上」ぐらいのモナークシリーズの中で、上位に位置づけられるのが「M7」です。価格は4万6,000円ぐらいと、決して安くはないですが、日常的にニコンのカメラやレンズに触れている身から見ても、視界はとても綺麗ですし、得られる満足度とのバランスは良いと思います。

前後のキャップを取り付けたところ

ちなみに日本野鳥の会では、双眼鏡と図鑑をセットにしたバードウォッチングの「スターターセット」という商品を販売しているのですが、このラインナップには現在、ニコンの「モナーク M7」2機種と「プロスタッフ P7」が選ばれています。野鳥観察を本格的に初めたい人にも最適なモデルと位置づけられているようです。

倍率10倍はどうなのか

私が購入したのは「10×30」というスペックで、これは倍率が10倍、対物レンズ有効径が30mmという意味です。双眼鏡は8倍か10倍が定番で、それ以上の倍率は一部の機種に限られます。

対物レンズは、例えば42mmなど大きくなると、暗くても明るくシャープに見えて性能が良くなりますが、大きく重くなるので、目的に合わせた選択が重要になります。店頭で聞いたところ、星空観察など暗い対象に対して使うなら42mmなど大きめのほうがよく、日中がメインなら30mmでも十分以上とのことでした。

10×30は倍率が10倍で対物レンズ有効径が30mmという意味です。6.7°は実視界で、見掛視界は60.7°です。防水仕様で、EDガラスが使用されています
接眼レンズはメガネのままでも見やすいロングアイレリーフ仕様です
ロック機構付きの視度調整リング
対物レンズは有効径30mm。接眼・対物レンズには撥水・撥油コーティング。真ん中のニコンのロゴ部分はフタになっていて、外すと三脚アダプターを取り付ける穴が現れます

倍率の選択は見たい対象との距離によるので正解を見つけることは難しいと予想していたのですが、公園に持ち出して使ってみたところ、8倍や10倍が双眼鏡の定番になっている理由がなんとなく分かりました。

まずこの製品は手ぶれ補正(防振)タイプではないので、8倍や10倍は、対象を観るのに手ぶれが支障を来たさないギリギリの範囲の倍率であると感じました。私が選んだ倍率10倍というのは、カメラのレンズに例えると400~500mmに相当します。撮影するわけではないので多少手ぶれがあっても問題はありませんが、「視界がプルプルしているな」と気づく程度には揺れます。

一方で、都心であっても大きめの公園に赴けば、野鳥との距離は十分にありますから、10倍であっても視界を拡大しすぎるというほどではなく、慣れてくると対象を比較的見つけやすいと感じました。これは、この製品の見掛視界が60.7°と、広角であるという点も影響していそうです。

双眼鏡に慣れていないと、「あそこに鳥がいるのでは?」と思って双眼鏡を向けても、実際には別の場所を見ており、双眼鏡を覗いたまま右に左にと探して、視界が迷子になってしまう、ということがあります(カメラの望遠レンズでも同じです)。あらかじめ、対象を体や顔の正面に捉えておくのがコツですが、10倍は初心者でもなんとか扱える範囲の倍率といえそうです。

グラスファイバー入りポリカーボネイト樹脂を使用した軽量ボディで、シボ加工のラバーコートが施されています

この双眼鏡を買う前は、倍率が高くなくて視界の中で対象が小さく見えると、残念な印象になるのでは? 10倍でもインパクトが足りないのでは? と勝手に予想していて、店頭で試用もしつつ8倍より10倍を選んだのですが、結果からいうと、10倍であってもフィールドで距離が離れていれば小さく見える、というシンプルな事実がそこにはありました。

しかしながら、最終的にそれを残念に感じたかというと、少し違います。この双眼鏡の視界は非常にシャープで解像感に優れているため、例え対象が視界の中で小さくても、隅々までクッキリとディテールが見えます。ピクセル数に制約があるデジタルの世界では「小さく映る=ディテールが潰れる」ですが、純粋なアナログの光学製品である双眼鏡の視界では、別次元のシャープな視界が得られることに感動しました。

スタジアム観戦で感動

最近になってサッカー観戦の機会があり、ちょうどよいとばかりにこの「モナーク M7 10×30」を持ち出しました。自分のシートの位置と10倍という倍率の相性がどのようなものか、現地で使ってみるまでは分からなかったのですが、結果的には大満足でした。

私の席からは、選手にクローズアップしすぎず、周囲の選手やボールの動きがよく見えて、かなり便利に使えました。国立競技場のホームスタンド側、1層(北側、1階)の奥の席で、ペナルティエリアの横ぐらいでしたが、双眼鏡を覗くとゴールマウスやペナルティエリアがちょうど視界に収まり、ゴール前の攻防も双眼鏡の視界に入れたまま観ることができました。また、自分の席から遠い方のゴール前の攻防でも、肉眼ではよく見えなくなる距離なので、10倍の倍率が威力を発揮しました。

新国立競技場の座席から。アバウトですが、緑の丸が双眼鏡で見えていた範囲です

実はサッカーの試合をスタジアムで観戦するのは初めてでした。これはスポーツに限ったことではないですが、いつも映像や写真で見ている選手やその動きを生で見られることに興奮しましたし、「8K映像だってこんなに鮮明ではないのでは!?」「いや双眼鏡だから当たり前か……」と、双眼鏡の持つプリミティブな魅力に改めて気付かされました。遠くのものがリアルタイムにはっきり見えるということ自体が、単純に楽しいんですよね。

もちろん、高性能なレンズで良い発色やコントラストになっているという点は大きいです。加えて、普段の視力はメガネで視力1.2程度なので、双眼鏡で見た時のキレキレでシャープな視界自体がそもそも新鮮ということもあります。

サッカーも普段は映像で見ていますから、選手が生でプレーし躍動する姿や表情が、超鮮明に、そして自由に観られて、その単純だけれども贅沢な事実をぞんぶんに味わうことができました。デジタルな映像に慣れきっていた身にとって、新鮮な感動があったというのが正直な感想で、初めてのスタジアム観戦を楽しく終えることができました。

アウトドア、スポーツ観戦といった定番の用途以外では、美術館の鑑賞でも活躍できます。もちろん美術館での使用をターゲットにしたコンパクト製品は古くからありますが、「モナーク M7 10×30」の最短合唱距離は2mで(実際にはもう少し短いです)、けっこう近くにある物にもピントを合わせられます。倍率10倍のこの双眼鏡では、仮に2mの距離から見た場合、肉眼で20cmの距離から見た場合と同じ見え方になりますから、作品の細部のディテールまで楽しめます。館内で双眼鏡は大げさに見られるかもしれませんが、試してみる価値はあると思います。

記憶に残す道具

「モナーク M7 10×30」は見掛視界が60.7度と広視界タイプですし、レンズの性能やレンズコーティング、防水・防曇構造など、各所の高性能な仕様は初心者にはもったいないほどですが、天候を気にせず使えたりレンズが汚れに強かったりというのは初心者にこそありがたい部分だとも思います。

コントラストや解像力も十分以上で、日中や明るい場所を観るならまったく不満はありません。星空観察は、レンズ径42mmのバージョンがラインナップされているのでそちらに譲る形ですが、かといって夜間に使えないかというとそうではなく、夜でも肉眼と同じような明るさで観ることはできます。

外観デザインはこのモナーク M7から雰囲気が刷新されており、鏡筒がストレートになるプリズムの構造もあって、シンプルなシルエットです。ロゴなど文字類もシルバーになり(以前はゴールドでした)、周囲を威圧せず、ユーザーも気負わずに使えるデザインだと思います。この後に発売された下位モデルの「プロスタッフ P7」も同じ路線が踏襲されています。

コロナ禍を経て、ライブや展覧会など、リアルなイベントに改めて行ってみようと考えている人が増えているかもしれません。双眼鏡は録画もスクショもできないですが、肉眼で見る視界を感動的なまでに拡張してくれます。記録を残す道具ではないですが、その場限りの体験を何倍も楽しい記憶にして残してくれる道具だと思います。

太田 亮三