いつモノコト

イタリアで注文した革靴が届いた

ブリージャーしてイタリアで注文した革靴が届いた

イタリアから荷物が届きました。注文していた靴が出来てきたのです。

昨年(2019年)の夏、ドイツへ出張することがありました。その帰り、ちょっと足を延ばしてイタリアはフィレンツェ行ったときに注文した革靴です。出張のついでに遊んでくる、いわゆるブリージャー(bleisure)でした。ただし、仕事に使うような写真も撮っていましたし、空いた時間を使って原稿も書いていたので、完全に遊んでいたというわけでもなかった、という言い訳はしておきます。

イタリアから届いたオーダーメイドの革靴。自分だけのために作られた靴と思うと、開封していて口元が緩んでいました。ロゴの入った靴を入れる袋と、靴ベラも入っていました

ドイツ出張のついでにフィレンツェへ

ちょうど欧州はひどく暑い時期でした。日本からドイツへ向かう往路の飛行機の中で、ドイツは観測史上最高気温になるのではないかというニュースをスマートフォンで見た覚えがあります。実際には40度に届かなかったものの、38度くらいはあったと記憶しています。発汗による水分不足でしょうか、ベッドで足がつる夜もありました。

ドイツでの取材を終えた後、同じ取材に日本から来ていた同業の友人とフランクフルト空港からフィレンツェ=ペレトラ空港へ向かいます。現地ではイタリアに駐在する友人が宿泊先のペントハウスで待っています。ただし宿に着いたのはすでに夕刻。その日は、3人で少し街を歩きつつ晩飯を済ませるのみでした。

翌日は朝から観光です。アカデミア美術館やメディチ家礼拝堂などを回りつつ、同業の友人は衣類や鞄などを買い、イタリア駐在の友人は革製のコートを購入していましたが、私は特段なにか買ってはいませんでした。特に欲しいものがなかったというよりも、最近は旅先であまり何かを買うこと自体が少なくなっていて、買い物欲といったものがあまり沸いていなかったのです。

ただ、「何か買わないの?」と友人に聞かれたとき、「時間があれば靴でも買っていこうかと思う」と答えてしまいました。「オーダーメイドできる店が、(宿の)近くにあるよ」という答えがすぐに返ってきます。そんなやりとりをすれば、その気になってきます。いや、俄然とオーダーで靴が欲しくなってきます。

正直なところ革靴を履く頻度は少ない方だと思います。そもそも仕事でスーツを着る機会は少なく、革靴を履くことはあまりなかったのです。

当時だと、アサヒカメラ編集部の仕事で年間に2回、カメラ記者クラブの仕事で3~4回、それと冠婚葬祭なので、年に10回もありません。スーツを着た私に会った人からは「レアだ」などと言われることもあるくらいです。

そんなこともあり、持っている革靴は一足のみ。買ったのは15年くらい前ですが、履く頻度が少ないこともあり、どこか痛んでいるわけでもなく、この先もしばらくはこの一足で済ませることもできたと思います。とはいえ、長い時間履いていると足がキツイと感じており、機会があれば新しいのが欲しいなと考えていたのも事実です。

緊張の言葉の壁もあっけなく解決

オーダーメイドで注文したのはMannina。店舗の写真は撮ってないと思っていたのですが、本稿執筆にあたって写真を見直していたところ、フィレンツェに着いた夜の散歩中にスナップしていたようです。工房は、日曜日休みで、営業時間は10:30~12:00、15:30~18:30とのことでした

訪れたのはヴェッキオ橋の南側にあるMannina(マンニーナ)という靴店です。あとになって調べてみると手作りの靴で有名な店だったようです。それほど広い店舗ではないものの、奇麗な革靴が並んでいます。まずはどんな靴があるのか眺めるわけですが、いつまでも眺めているわけにもいきません。店員さんに声をかけなければいけないのですが、恥ずかしながらイタリア語はもちろんのこと、英語も満足には話せないのに、オーダーメイド(ビスポーク)なんて可能なのか? という不安があったのです。汗が出てきたのは、暑かったからではないはずです。

いざとなればイタリア駐在の友人に通訳を頼もうと心を決めてお店の方に声をかければ、「日本語でいいですよ」と日本語で返ってきます。話を聞くと、この日本人の販売員の方は、長くイタリアに住んでいるとのことです。

ビスポークで靴を作って欲しいと伝えると、工房から職人を呼ぶから待っていてくれと言われます。その間、徐々に緊張もほぐれて汗もひいていったように思います。職人の方との通訳は、店員さんに頼めばいいのですから。

しかし、しばらくして来た職人さんも大谷英里子さんという日本の方でした。この店の先代で靴職人のカロジェロ・マンニーナさんに弟子入りし、職人になったそうです。2014年にカロジェロ・マンニーナさんはお亡くなりになりますが、その後は大谷さんともう一人のGiovanni Lorenzoさんの二人で、靴を作り続けているそうです。

イタリアで靴をフルオーダーするのに、日本語で済んだのは、私にとっては幸運だったといえます。

まずは足の採寸です。聞けば、まずその人ごとに木型を作成し、それに合わせて靴を作っていくとのこと。左右の足それぞれ足の形を取ったり、足圧を調べたり、細かく色々なところの長さを測ったりします。数十分はかかったでしょうか。これっきりではなく、木型は保管され、再度注文するときに使われるようです。日本からメールでの注文にも対応しているとのことでした。ちなみに私の足の形は、そう変わっているわけではないが、既製品は合いづらいかもしれないという話でした。よく覚えていないのですが、甲が高いという以外にも、その他のところでもやや異なるとのことです。

そのほか、デザインや革の素材などを相談しながら決めていきます。どういった用途で履くのか、どんな服装にあわせるのか、足/靴に問題をかかえてないか、形は、素材は、色は、飾りの加工はどうするかなど聞かれます。すぐにデザイン画が描かれ、それを元に話が進んでいきます。その場で、ササッと描かれていくのですが、十分イメージでき、楽しくなってきます。私は、二足目の革靴ですから、あまり奇をてらわない感じにお願いしました。中には、デザインはお任せ! という現地の常連の方もいるようです。

採寸やどういった靴にするかの相談をしながら描かれるデザイン画です。その場で描かれ、それを元に、どういった靴にするのか話しが進んでいきます。靴の制作時に使われるため、私の手元にはないのですが、今回Manninaの大谷さんとやりとりをしていたところ写真を送ってくれました。描かれている文字は、Vitello Caffè:カーフスキン コーヒーブラウン、Anticatura Nera: 黒のグラデーション仕上げ、Guardolo:ウェルト/Liscio:スムース、Suola:本底、Mezza Gomma:ハーフラバー、Timbro D’oro:金の刻印とのことです

工房も近くにあり、見学させてもらいました。使い込まれた工具や釘が並ぶ低い作業机と、整然と収納された靴の木型が職人の仕事場であることが伝わってきます。なお、通常は工房でオーダーを受け付けるとのことでした。店舗に行った場合でも、基本的に工房で採寸などを行なうとのことで、私の場合はちょっとイレギュラーだったようです。

店舗近くにある工房も見学させてもらいました。通常はこちらで採寸やどういった靴にするかのヒアリングが行われるとのことです

ここでも新型コロナウィルス流行の影響。でも靴の出来栄えに満足

それから約14カ月後の8月下旬。発送した旨の大谷さんからメールが届きます。注文時は今年の春頃完成予定ということだったのですが、新型コロナの影響で休業を余儀なくされ遅れたようでした。きっとそうだろうと思っていましたし、急かすつもりはなかったのですが、ちょうど問い合わせてみようと考えていたタイミングでの連絡でした。

実際に靴が届く直前に、東京税関から購入価格を知らせるように連絡が入ります。結局、関税が15.7%で14,700円、消費税が10,700円、それに手数料が200円の合計25,600円というキリのいい金額を受け取り時に支払います。

靴の代金はフィレンツェで支払っています。価格は1,250ユーロ。当時のクレジットカードの請求を見ると日本円で15万7,806円だったようです。素材や形によっては変わるそうですが、初回は1,250ユーロからということでした。ちなみに、これは木型作成代の200ユーロと送料50ユーロが含まれます。木型はすでに作られたので、どういった靴にするかにもよりますが、今後はもう少し安く済みそうです。既製品であれば、当然もっと安い靴はあります。もちろん金額としては大きなものです。ただ、フルオーダーの靴で、フィレンツェ土産と考えれば、満足度は高いものです。

届いた靴を開封して履いてみると、最初は足が入りづらいなと思ったものの、入ってしまえばむしろ適度なフィット感ですし、小指が当たっているかなと思ったもののしばらくすると馴染んできます。なお、足に合わないなどがあれば2回までは返送しての修正の依頼ができるようです(それ以降は来店しての対応)。

追加オーダーのときに、前回制作した靴のディテールを確認するため、注文のあった靴はすべて写真に残しているとのことでした。この写真は、完成時にGiovanni Lorenzoさんが撮影した写真だそうです

ただし、問題がないわけでもありません。これは靴ではなく、私の生活の変化です。

靴が届くまでの間にアサヒカメラは休刊し、当然カメラ記者クラブも参加しなくなるわけですから、年に6回程度あった必ず革靴を履く日はなくなりました。とはいえ、せっかくなので、スーツと言わずとも革靴の似合う服装をするようにしてみようかと考えています。

猪狩友則

フリーの編集者、ライター。アサヒパソコン編集部を経て、2006年から休刊までアサヒカメラ編集部で編集者。その他ムック等の編集、ソフトウェアの使い方や各種仕組み解説、スマートフォン関連の執筆もおこなう。趣味はマイル修行。