石野純也のモバイル通信SE

第96回

なぜグーグルは日本独自「Pixel 10a」を発売するのか 価格も日本の規制にマッチ

グーグルが発表したPixel 10a。左から、Lavender、Fog、Berry、Obsidianで、右がヘラルボニーとコラボしたIsai Blue

グーグルは、Pixel 10シリーズの廉価モデルとなる「Pixel 10a」を日本で発表した。同モデルは海外で2月に発表されていたが、日本では商戦期の違いなどもあり、やや遅れて投入される。発売は4月14日で、価格は「Pixel 9a」と同じ、79,900円からに据え置かれた。

日本での取り組みとして新しいのが、限定モデルを投入することだ。グローバルでは4色展開のPixel 10aだが、日本では障害がある作家のアートを起用したブランドを展開するヘラルボニーと協力。限定カラーの「Isai Blue」をラインナップに加えた。

日本で人気のPixel Aシリーズ

Isai Blueは、ヘラルボニーのミッションである「異彩を、放て。」から取った色名。本体カラーを変更しただけでなく、専用のバンパーケースやステッカーが付属するほか、ヘラルボニーの契約作家が描いた壁紙や、その壁紙をベースにAIで制作したアイコンパックなども同梱される。Isai Blueも価格は通常モデルと同額(ただし256GB版のみ)だが、発売日は5月20日とやや遅くなる。

ヘラルボニーの契約作家が描いた壁紙がプリインストールされるほか、テーマでアイコンもその壁紙に合ったものに変えることができる
特別なパッケージで、バンパーやステッカーも付属する

グローバルで展開されるPixelだが、Pixel 10aで日本限定モデルを展開する狙いはどこにあるのか。

グーグルでPixel製品企画アジア太平洋事業統括 リージョナルディレクターを務める阿部和子氏によると、日本のユーザーからは、「Pixel Aシリーズが非常に好まれ、愛されている」という。より正確に言えば、「Pixel Aシリーズの販売比率がグローバル平均と比較しても非常に高い水準」にある。

グーグルの阿部氏は、日本でPixel Aシリーズが他国以上に好調だと明かす

Pixel Aシリーズの販売比率が高いことで、日本は「ブランド全体をけん引する世界で極めて重要な市場の1つ」に位置づけられている。実際、日本ではPixelシリーズのシェアが諸外国と比べても高い。

調査会社MM総研が2月に発表した25年の「スマートフォン出荷台数シェア」では、グーグルが12.4%でアップルに次ぐ2位につけている。グーグルのおひざ元である米国ではサムスンやモトローラが健闘しているため、日本での存在感は相対的に大きいと言えるだろう。

この高いシェアをけん引しているのが、Pixel Aシリーズというわけだ。こうした事情もあり、日本市場限定でコラボモデルが発売されるに至った。

MM総研の調査では、グーグルが25年の国内スマホ出荷台数で2位につけている。Androidではトップだ

フラット化したPixel 10a 支持の理由は「バランス」

では、なぜPixel Aシリーズがここまで高い比率を占めるようになったのか。1つには、コストパフォーマンスの良さが挙げられる。阿部氏も、Pixel Aシリーズは「最新のAIやカメラ機能、デザイン、そして何よりも価格がベストバランスでパッケージングされている」と語る。コスパの高さに敏感な層が手に取っているという構図だ。

Pixel 9aまでは、最新モデルと同じチップセットを搭載しながら、価格を抑えたモデルという位置づけだった。カメラなどのセンサーではコストダウンを図っているものの、ISP(Image Signal Processor)やAIの処理で、その差分を感じさせない仕上がりになっていたというのは大きな理由と言えるだろう。上位モデルとそん色ない端末が安いということで、ユーザーが飛びついた格好だ。

また、Pixel Aシリーズのデザインは、グーグル本社で活躍するインダストリアルデザイナーの松岡良倫氏が手がけており、台湾オフィスが主体となって開発している。カメラバーをアイコンとして目立たせた他のPixelとは異なり、より背面をフラットにすることを志向している。

松岡氏は「カメラが出っ張っていると、視覚的なノイズになりそこに目が行ってしまうため、どうしても平らにしたかった」と語る。

Pixel Aシリーズは、グーグル本社のデザインチームに所属する松岡氏がデザインを手がけている

Pixel 10aではその取り組みをさらに進め、「アルミ製のミッドフレームを0.5mm削り落とした」ことで、ボディとカメラが完全にフラットになった。耐久性を落とさず、フラット化を進めるうえでは、台湾オフィスの環境をフル活用している。後付けかつ推測にはなってしまうが、日本人デザイナーのこだわりや感性が日本のユーザーにしっかり伝わった可能性もある。

Pixel 9a(左)もカメラの出っ張りをなくす方向性を打ち出していたが、わずかながら本体より厚みがあった。Pixel 10a(右)では、それが解消され、よりコンセプトに忠実になった

見逃せない「日本の規制」とのベストマッチ

そのうえで、価格帯が日本の規制と絶妙にマッチしていた。

現状のガイドラインでは、8万円を超える端末については税抜きで4万円までの割引が可能。約8万円というPixel 10aは、ちょうど本体価格に対しての割引を最大化できる価格帯になる。そのうえで、日本では端末を返却することで残債を免除する残クレ方式のアップグレードプログラムが主流になりつつある。

Pixelシリーズはグローバルで流通するモデルで、かつ人気も高いため、下取り価格をある程度維持しやすい。そのため、販売開始直後からMNPで月額1円のような価格を設定するのが容易になる。

約8万円という本体価格は、日本の規制下で販売する際に絶妙な価格設定と言える

実際、ソフトバンクはPixel 10aをMNPで月額1円に設定、KDDIもauでは月額2円にまで下げている。サブブランドのワイモバイルも、ソフトバンクと同様、MNPだと月額1円になる。Pixel Aシリーズは、機能や性能の高さはもちろん、価格設定的にも日本市場の販売方法にしっかりマッチしていると言えるだろう。

ただしPixel 10aは、これまでの成功パターンとは異なり、チップセットがPixel 9aから変わっていない。Pixel 10シリーズが搭載する「Tensor G5」ではなく、Pixel 9シリーズと同じ「Tensor G4」のままで。ソフトウェアの最適化でブラウジングが高速化しているほか、Pixel 10シリーズと同じ「カメラコーチ」や「オートベストテイク」も利用できるが、処理能力自体は据え置きだ。

チップセットには、Pixel 9シリーズなどと同じTensor G4を搭載する
オートベストテイクやカメラコーチなど、一部機能はPixel 10シリーズと共通性を持たせた

また、カメラの出っ張りはなくなった一方で、基本的なデザインも受け継がれているため、Pixel 9aが登場したときほどのインパクトには欠ける。一部キャリアが上位モデルになる「Pixel 10」を月額1円で販売することもあり、実質価格では差が出しづらくなっているのも事実だ。

だからこそ、他社との協業がより重要になる。コラボモデルでこれまでPixelに興味を示していなかった層をどこまで取り込めるかが、成否を左右するカギになるかもしれない。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya