石野純也のモバイル通信SE
第63回
povo2.0と「セカンドSIM」の競争
2024年11月27日 08:20
povo2.0を運営するKDDI Digital Lifeは、11月19日に「povo Data Oasis」を開始した。“オアシス”という名称どおり、カラカラに乾いてしまったデータ容量を無料でチャージできる場所を設けた。砂漠の中で泉に相当するのは、KDDIが三菱商事との共同経営に乗り出したローソンだ。
仕組みは簡単で、ローソンの敷地内にいる時に専用サイトにログインし、ボタンをタップするだけ。これで、1日あたり100MBのデータ容量が手に入る。
筆者も早速試してみたが、本当にpovoのアカウントでログインし、位置情報を送信しただけで100MBを入手できた。1カ月あたりの上限は1GB。100MBはチャージした翌日の23時59分まで利用できる。これに加え、専用サイト内にはローソンの商品とデータ容量がセットになったトッピングを購入できる「povo shop」を用意している。
povo shopでは、本稿執筆時点(11月25日)で「お買物券500円分」「からあげクン」「なめらかカスタードのプチエクレア」「プレミアムロールケーキ」の4種類がラインナップされている。このうち、お買物券はpovoアプリから購入できるトッピングだが、残り3つはローソン専用サイト限定だ。4つとも、有効期間が24時間の300MBがつく。
価格はそれぞれの金券や商品と同額。元々これらの商品を買おうとしていた人が、povo shopを経由して支払うことでオマケとしてデータ容量がもらえる。
例えば、デザートにプレミアムロールケーキ、晩御飯のおかずとしてからあげクンを購入し、povo Data Oasisにチェックインすれば、データ容量は700MBになる。普段20GB前後の中容量プランを使っている人にとっては、十分な容量と言えるだろう。
ローソンへの送客と「セカンドSIM競争」
狙いとして分かりやすいのは、ローソンへの送客だ。povo Data Oasisは商品の購入を条件としていないため、ユーザーが何も買わずにデータ容量だけをもらってしまう可能性もあるが、少なくとも店舗(の近く)までは誘導できる。ついで買いを促す力はあると言えるだろう。ローソンの売上げが上がれば、筆頭株主であるKDDIにとってもプラスだ。povo shopのように、データ容量をつければローソン側が販売を強化したい商品をプッシュすることもできる。
KDDI側にとっては、回線獲得を強化できるメリットがある。同社の決算説明会で、代表取締役社長CEOの高橋誠氏は「あらゆるキャリアのサブ回線としてご利用いただけることを目指す」と語っている。背景には、「セカンドSIM競争」が徐々に顕在化していることがある。その動きを、高橋氏は次のように解説する。
「他社を見ていると、セカンドSIMとして他のキャリアのスマホに居候のように入っていくという動きが出てきているように見受けられる。povoを入れたときには、障害の関係もあり、何かあったときにセカンド回線として我々をお使いくださいという思想もあった。ローソンに行くと100MB入るのはおもしろい仕組みだが、こういうものを入れていきながらセカンドSIM競争にも一矢報いたい」
各社が狙う「セカンドSIM」市場
実際、例えば楽天モバイルを見ると、8月7日時点で770万契約、10月18日時点で800万契約に達しており、約2カ月で30万回線が増加している。一方、同社が11月の決算説明会で公開したデータを見ると、MNPで同社へ移るユーザーは8月、9月の合計で85,000契約程度にとどまっている。
法人向けや若年層の純新規契約もあるため、差分のすべてがセカンドSIMというわけではないものの、予備回線として契約しているユーザーが相当数いることは間違いないだろう。
料金プランも、こうした使い方を後押ししている。楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」は、3GBまでは最低料金の1,078円で利用できる。これに対し、楽天市場での買い物にはSPUとして4%ぶんのポイントが毎月2,000ポイントまでつく。27,000円程度の買い物をすれば、Rakuten最強プランの料金がほぼ帳消しになるポイント還元を得られるというわけだ。こうした料金体系は、セカンドSIMにうってつけと言える。
ほかにも、ドコモのirumoが用意している550円の0.5GBプランや、ソフトバンクのLINEMOの990円で利用できる「LINEMOベストプラン」など、1,000円もかからず維持できる料金プランは増えている。通信障害や昨今問題視されているドコモの回線品質問題を回避するうえでも、2社以上のキャリアを契約するメリットがある。
KDDIはpovo2.0を無料で月1GBまで入手できるようにすることで、セカンドSIMとしての価値を高めた格好だ。
SIMカードをその都度切り替えていくのは手間がかかるが、デュアルSIM機能を備えた端末も一般的になった。eSIMを活用したデュアルSIMはiPhoneが先行していたものの、その後、Androidも追随。総務省がeSIMを後押ししたこともあり、今ではキャリアが販売するほとんどのスマホが物理SIMとeSIMのデュアルSIMを備えるようになった。
2回線ともeSIMで利用できる「デュアルeSIM端末」も、iPhoneやPixelを中心に増えており、'24年モデルからはGalaxyシリーズもこの仕様に対応した。
ローソン×povoはファーストSIM昇格できるか?
通信障害などをきっかけにユーザーの間で複数回線契約する機運が高まり、実際にそれを可能にする料金プランも増え、受け皿としての端末も広がったというわけだ。キャリアの総契約者数はすでに日本の人口を超えており、2回線目以降をいかに獲得するかが収入を上げるうえでは重要になる。
とは言え、セカンドSIMのままでは、1,000円前後の収入にしかならない。セカンドSIMとしてユーザーのスマホにそっと入り込みながら、いかにファーストSIMのポジションを奪えるかが重要になりそうだ。この点で言えば、povo2.0はトッピングで自由にデータ容量を買い足せる料金体系のため、ファーストSIMに昇格できるチャンスを作りやすい。
何かのきっかけに1日だけデータ無制限のトッピングを買ったユーザーが、回線品質のよさや料金の安さに気づき、以降はpovo2.0をメインに使い続けるということもあるはずだ。povo Data Oasisやローソンの商品をバンドルしたトッピングも、そのきっかけ作りになりうる。
povo2.0は、キャリア側からユーザーにアプローチしていくことをコンセプトに立ち上げられたオンライン専用ブランドだが、ローソンとのコラボによって、その考え方がより明確になったと言えそうだ。