レビュー

テレワークやクルマの眠気は「CO2」? スマホ対応「Pocket CO2センサー」を試す

「Pocket CO2センサー」をスマホと接続したところ。価格は11,900円(税別)。本稿執筆時点ではマルツオンラインなど、マルツ各店でのみ販売される

室内の二酸化炭素(CO2)濃度が高くなると、集中力が低下し、また頭痛や眠気の原因になることはよく知られている。そのため、二酸化炭素濃度を示す「ppm」という値を目安に、換気を行なうのが望ましいとされている。

厚生労働省は1,000ppm、文部科学省は1,500ppmと、基準値にズレがあるのが紛らわしいが、換気が行なわれている環境はおおむね400~700ppmが標準的な値なので、ひとまず4桁の大台に乗らないように気をつけていればよい。最近はコロナ禍で部屋の換気が重要視されており、この二酸化炭素濃度を目安に換気を行っている公共施設や店舗も多いようだ。

ところで二酸化炭素濃度を測定するチェッカーは、Amazonで検索するとさまざまな製品がヒットするが、この種の製品は複数の製品を使い比べない限り、信頼性の有無を判断するのはまず不可能だ。最低限、国内で製造もしくは検品が行なわれている製品に絞って購入しようとすると、今度は候補となる製品が数えるほどしかないことに気づいて唖然としたりする。

前置きが長くなったが、そこに今回登場した二酸化炭素濃度チェッカーが、ヤグチ電子工業が製造販売する「Pocket CO2センサー」だ。測定したデータをスマホを使って表示できることが特徴のこの製品、具体的にどのような使い勝手なのか、購入して検証してみた。実売価格は11,900円(税別)。本稿執筆時点ではマルツオンラインなど、マルツ各店でのみ販売される

スマホアプリで二酸化炭素濃度を表示

製品は小型モバイルバッテリー程度の手のひらサイズ。本体にボタン類は一切なく、背面にmicroUSBポートがあるのみ。USBケーブルでスマホと接続し、スマホから電力の供給を受けつつ利用する。

測定は本体のみで行われる。センサはスイスSENSIRION社製で、自動校正機能も搭載する
背面。USBケーブルで給電する
同梱品一式。USBケーブルのmicroB端子をType-Cに変換するアダプタが付属する
測定した二酸化炭素濃度および温度はスマホアプリ上で表示できる

利用にあたっては、専用のAndroidアプリ「Pocket CO2 Sensor」をスマホにインストールして使用する。現時点でiOS版はリリースされておらず、Android専用となる。ちなみにAndroidのバージョンは4.4以上対応で、OTGをサポートしている機種であることが条件だ。

スマホアプリは、二酸化炭素濃度(ppm)が数値とグラフで表示される。初期設定では10秒ごとにリフレッシュされるので、かなりきめ細かに値が書き換わる。値はそれぞれの区分ごとにメッセージおよび色が決まっており、しきい値を超えると変わるため、見た目に非常にわかりやすい。具体的な区分は以下の通り。

青:良好(~1,000ppm)
黄:やや良い(1,000~1,500ppm)
橙:悪い(1,500~2,500ppm)
赤:非常に悪い(2,500~3,500ppm)
紫:極めて悪い(3,500ppm~)

色分けは「青/黄/橙/赤/紫」の計5段階となっている。これは日本産業衛生学会の指標に基づいているとのことで、信号でおなじみの「青/黄/赤」の3段階に比べると細かいが、現実的には1,500ppm以上はすべて換気を必要とするはずなので、1,500ppm以上がすべて赤になる3段階モードがあれば、筆者はそちらを使っていただろう。

またアプリと同様、本体LEDも色が変化するので、アプリなしでもざっくりと換気の必要性を把握できる。そもそもスマホアプリは本体から情報を受け取って表示しているだけで、測定そのものは本体で完結しているので、非公式な使い方ではあるものの、特定のUSB充電器と組み合わせて、本体のLED表示のみを頼りにスマホなしで運用できる場合もあるようだ。

やや気になるのは、この本体LEDの色が、前述のスマホアプリの色と部分的に一致していないことだ。具体的には、スマホアプリが「青/黄/橙/赤/紫」のところ、本体LEDは「青/緑/橙/赤/紫」と、もっとも肝心な「1,000~1,500ppm」の範囲がずれている。取説によると、視認性向上のために黄色を緑に置き替えているとのことだが、注意を喚起する色が緑というのは直感的にわかりづらい。何らかの解決策がほしいところだ。

本体とスマホを接続し、アプリ上でアクセスを許可する(左)。左上のスライドスイッチを「ON」にすると測定が始まり、二酸化炭素濃度およびグラフが表示される。温度と湿度も測定される(右)
二酸化炭素濃度が変化すると、それに伴ってメッセージおよび色が変化する。この画像にない青色(1,000ppm未満)を含めると5段階ということになる
本体のLEDもアプリと連動して変化するのだが、1,000~1,500ppm(左)の色が黄色から緑に置き替えられており直感的に分かりづらい。1,500~2,500ppm(中央)も橙というより黄色に近い

眠気の原因が判明? 車の中で二酸化炭素濃度を測定してみた

さて、本製品はスマホと接続し、自宅から持ち出しての利用が可能だ。そこで今回、かねてから試してみたかった場所での二酸化炭素濃度チェックを行なってみた。それは「車の中」である。

車を長時間運転していると息苦しくなってきたり、また眠くなってくるのはよくある話だが、これは二酸化炭素濃度が影響していると考えられる。外気導入と内気循環、さらにエアコンのオン・オフを切り替えつつ、どのような条件で二酸化炭素濃度が上下するのか、確認してみようというわけだ。

今回は、居住スペースが決して広くない軽自動車を用い、運転席の前方にセンサーをセットして測定を開始した。呼気が直接センサーにかかることがないよう、実験はマスクをした状態で行っている。

スマホから電力を供給できるので、車の中に持ち込んでの測定のお手の物

まず最初は、外気を入れない内気循環の状態で、エアコンはオフで測定してみた。乗車時には500ppmにも満たない値だったのが、ほどなくして急上昇。わずか数分で1,500ppmを超え、15分後には2,000ppm、30分後にはなんと3,500ppmにも出した。自宅内ではどれだけ引きこもっていてもまず目にしない値で、これならば眠気が襲ってくるのも当然だ。

続いて内気循環のまま、エアコンをオンにしてみた。こちらは5分後には1,200ppmまで急上昇したのち、15分後には2,000ppmを突破、30分後には2,500ppm突破と、エアコンオフ時とおおむねペースは同じだ。多少緩やかではあるものの、車内で空気をかき回しているだけなので、根本的には変わらないということだろう。

続いてエアコンをオフに戻した上で、内気循環から外気導入へと切り替えてみた。こちらは15分後には1,500ppmオーバー、30分後には2,500ppmと、依然として値は高いものの、内気循環の状態に比べると明らかに上昇スピードが遅い。また15分を超えてからの上昇ペースはかなり緩やか。

最後に、外気導入のまま、エアコンをオンにしてみた。こちらは開始から10分後くらいまでに共通する値の急上昇がなく、30分を経過しても1,000ppmを超えないままだ。また呼吸も苦しさもほとんど感じない。

まとめると、外気導入でもエアコンを使って新しい空気が入り込む環境を作ってやらないと、10~15分もあれば換気が必要になる、ということだ。体感的には分かっていたこととはいえ、数値で裏付けられるのはなかなか面白い。

一方の内気循環は、まったく問題外と言っていい。エアコンを使って一刻も早く快適な温度にするには有用でも、二酸化炭素濃度の観点では明らかによくないことになる。

なお、内気循環のままでも、運転中にほんの十数秒、窓を全開状態にすれば、二酸化炭素濃度はあっという間に1,000ppmを切るところまで回復する。要するにちょくちょく窓を開けて空気をまるごと入れ替えるのが、もっとも効率的な方法ということになる。

ほかの二酸化炭素濃度チェッカーと比べてのメリットデメリット

ほかの二酸化炭素濃度チェッカーと比較した場合の、本製品のメリットとデメリットをまとめておこう。

まずメリットは、何と言ってもどこにでも持ち運びができることだ。電源はスマホから供給されるので、別途バッテリーを用意せずに済むのもよい。空調に問題ありとみられるオフィスの各部屋に持ち込んで別の場所と比較したり、また電車やバスの中など公共交通機関で試してみるのも面白いだろう。

一方、同一地点に設置しての継続的な測定は、もちろん不可能ではないのだが、あまり本製品の特性を活かせているとは言えない。壁面固定用のギミックはなく、また付属のケーブルも長くない。壁面に固定するのであれば、長いケーブルに換装した上で、壁面に両面テープで固定する必要がある。フック掛け用の穴などがあればなおよかったと思う。

ただし定点観測に向いた機能もある。それは測定データをCSV形式で書き出す機能だ。このログファイルには二酸化炭素濃度だけでなく、温度と湿度、さらにはGPS経由で取得した緯度や経度まで書き出される。アプリ上でのグラフ表示は(初期設定では)直近の数分程度のみだが、こちらのデータを使えば、長期的な値の変化を分析することも可能だ。

ログをCSVデータでメール送信することが可能。データには温度や湿度、緯度や経度も記載されている(ここでは緯度経度は削除済み)

一方、長時間の連続使用でネックになるのが電源だ。本製品をオンにしていると、スマホのバッテリーが早いペースで消費される。今回はPixel 3に接続して使用したが、1時間ほどオンにしていると、100%だったバッテリーが70%まで減少する。

並行して充電しようにも、USB Type-Cポートは本製品との接続に使っているため、有線での充電は行なえない。今回はPixel 3をワイヤレス充電しながら測定することで解決できたが、スマホの機種によっては、この点は大きなネックになるだろう。

なおアプリを使用中になんらかの通知が割り込んできたり、また別のアプリを表示して本アプリがバックグラウンドに回っても、測定自体は続行されるが、きちんと測定が続いているか定期的に確認するのはかなりの手間だ。利用頻度によっては、専用のAndroidスマホを1台用意したほうがよいかもしれない。

設定画面。メール送信先の設定のほか、グラフ表示の間隔が設定できる。ppmの範囲ごとのメッセージはカスタマイズできるが、範囲そのものを変えたり、また色を変更する機能がないのが惜しい

手頃な価格で信頼性の高い二酸化炭素濃度チェッカー

筆者はカスタム社の「CO2-mini」という二酸化炭素濃度チェッカーを使い、自室のCO2濃度をここ1年ほど測定しているが、本製品はこの「CO2-mini」に近い値を常時表示しており、数週間ほど試した限りでは、あり得ない値を表示することもなかった。息を吹きかけたり、強制的に外気を当てた場合も、すばやくLEDおよびアプリに反映される。信頼して使える印象だ。

カスタム社「CO2-mini」(上)との比較。おおむね同様の値が表示される。ただし濃度のしきい値が異なるため、本製品では「良好」のところCO2-miniでは注意を示す黄色のLEDが点灯するといった食い違いは起こる。CO2-miniの詳細はこちら

本製品は販路が限定されており、かつ本稿執筆時点ではかなり品薄だが、日頃から二酸化炭素濃度をチェックし、換気の習慣をつけるには、非常に有用なツールだ。しばらく使い続ければ、どれだけの時間換気を怠るとマズいか、また窓を開けるとどのくらいの時間で二酸化炭素濃度が許容レベルに戻るか、体感的に把握できるようになるだろう。

現時点での問題点があるとすれば、前述のLED色のズレくらいだろう。なにせ手頃な価格で測定値に信頼がおける二酸化炭素濃度チェッカーは数少ないので、今後の進化も含めて、大いに期待できる製品だ。

なお二酸化炭素濃度の測定値は、設置場所によって大きく変わる。例えば同じデスク上でも、息がかかりやすいキーボード奥に置いた場合と、ディスプレイ上に置いた場合とでは、測定値は大きく異なり、前者は換気が十分でも1,000ppmを切らない場合がある。利用にあたってはなるべく呼吸の影響を受けない場所に設置することをおすすめする。

側面から見ると内部の基盤(右側)が見える。息を直接吹きかけると、途端にLEDが赤や紫になる

山口真弘