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「人間証明」World ID、画面越しでも“人間”と確認 東大松尾研と連携

Tools for Humanity 日本代表 牧野友衛氏

オンライン上で人間であることを示す認証基盤「World ID」を展開するTools for Humanityは、World IDの機能拡張と外部サービス連携の強化、東京大学との産学連携を発表した。

東京大学 松尾研究室は、同基盤を支えるバックエンド「AMPC」のパートナーとして参画する。Tools for Humanity 日本代表 牧野友衛氏は、今回の発表をWorld IDの普及段階から「実際に社会実装していくフェーズ」に移る動きと説明した。

World IDは、オンライン上で「人間であること」と「1人につき1つのID」であることを示す仕組み。牧野氏は、AIの普及で偽アカウントや偽情報が増え、インターネットの信頼が揺らぐとの危機感から、この仕組みを進めてきたと説明した。メールアドレスや電話番号では複数アカウントを防ぎきれず、政府発行IDをそのまま使う方法は不要な個人情報の提供につながるため、匿名性を保ちながら人間に1つのIDを与えることが解決策になるという考えに基づいている。

認証には専用端末の「Orb」を使う。Orbは日本各地に設置されており、Orbの設置場所で認証を受ける流れ。日本国内での設置は220カ所、認証自体は数十秒、全体でも数分以内に完了すると説明した。Orbでは顔と目の画像を撮影し、復元できない暗号コードを生成して利用者のアプリに戻す。データは同社サーバーではなく、利用者のアプリ内に保持する仕組みという。Google ドライブやiCloudに暗号コードをバックアップ可能で、機種変時にはバックアップデータから復号できる。

Orb

今回の更新点は、World IDを人間認証だけでなく本人確認まで広げたことにある。牧野氏は、政府発行IDを使ったゼロ知識証明による本人確認と、顔画像を使った当人確認を追加したと説明。日本ではパスポートとマイナンバーカードに対応し、NFCで読み込んだ情報をアプリ内に保存する。たとえば年齢確認では、生年月日そのものを渡さず、「18歳以上か」に対して、「はい」「いいえ」で返す使い方を想定する。

顔認証では、Orbで取得した顔画像をアプリ内に戻し、その画像と現在の顔を照合して当人確認を行なう。牧野氏は、World IDを「人間認証から本人確認、顔認証までを統一して事業者が使える仕組み」として提供すると説明した。

あわせて、認証と管理に特化した独立アプリ「World ID」アプリを新たに用意する。ベータ版を近日公開する予定。さらに、認証の仕組み自体をオープンソース化し、他社アプリやプラットフォームが組み込めるSDKも提供する。牧野氏は、今後は各サービスのアプリの中にWorld ID認証そのものを入れられるようにすると説明した。

個人向けの連携先としては、まずTinderを挙げた。Tinderではプロフィール上に人型バッジ「Human Badge」を表示し、そのアカウントの背後に実在の人がいることを示す。日本が最初の展開市場で、すでにTinder Japanで利用可能。牧野氏は、1人1IDの仕組みであるため、問題を起こして削除されたアカウントが再び同じ形で認証付きアカウントを作りにくくなり、詐欺抑止にもつながると説明した。

業務用途ではZoomとの連携も打ち出した。Orb認証時に取得した顔画像、PCカメラに映る顔、会議画面上の顔の3点をリアルタイムで照合し、本人確認を行なう仕組み。ディープフェイク対策としての活用を想定し、将来的にはZoom Marketplace向けプラグインとして提供する。DocuSignとの連携も発表し、オンライン契約時に「人間であること」と「署名すべき本人であること」の確認に使う考えを示した。

日本での用途について牧野氏は、将来の構想ではなく、今起きているオンライン詐欺への対応を重視すると述べた。ディープフェイク対策やオンライン署名時の認証、マッチングアプリ、C2C取引やオンラインショッピングでの詐欺対策など、日本でも関連性の高い領域を重点的に進めたい考え。

基盤面では、東京大学がAMPCのパートナーとして加わる。AMPCは複数拠点で計算を分散しながら認証を支える仕組みで、東京大学は5つ目の拠点となる。松尾豊教授は、単一拠点が侵害されても影響を抑えるために複数拠点が重要であり、自身の研究室がそのサーバー管理を担うと説明した。あわせて、こうした役割を「新しい時代のインターネット拠点」のようなものだと位置付けた。

東京大学 松尾豊教授

松尾氏は、人間かAIかの区別がつきにくい時代に入りつつあり、メールやメッセージ、ビデオ通話の相手が本当に人かどうかを確認する基盤の重要性は今後さらに高まるとの見方も示した。

Tools for Humanity 日本代表 牧野友衛氏 と 東京大学 松尾豊教授