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NTT、"道路陥没リスク"を光ファイバで発見する新技術
2025年10月21日 15:00
NTTと産業技術総合研究所(産総研)は、光ファイバを使った道路陥没リスクの早期発見を実現する地盤モニタリング手法を実証した。地中に埋設された既存の光ファイバを使い、地盤の状態を監視することで異常の発見に繋げる取り組み。現地に人員を派遣する必要がなく、定期的な監視が可能になる。
1月に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故による被害を始め、都市部では老朽化した上下水道などにおける地中空洞化が社会問題化している。しかし、効率的な地中の調査方法は確立されていない。
従来の地中空洞調査では、地中レーダーや超音波など、現地に人員と装備を派遣して行なう手法が主流だが、これは地表から約3m未満の深度までしか調査ができないうえ、人件費などのコスト面や、調査頻度などに限界がある。
一方、物理探査分野では、交通や自然現象など地表面に存在する人がほとんど感じないレベルの常時微動を複数の高感度地震計(微動計)で計測し、地下約数十mの地下構造を推定する「微動アレイ探査」の研究が行なわれている。今回の取り組みはこの手法をNTTの光ファイバセンシングによって実現する仕組み。
光ファイバセンシングとは光ファイバをセンサのように使用する仕組み。センシング装置から特殊なセンシング光を発振し、反射光の変化から光ファイバ周辺の振動や歪みなどを計測する。
実証では、分布音響センシング(DAS)技術を使用した光ファイバ振動センサにより、実際に地下に埋設されている通信光ファイバケーブルに特殊な信号を発振。戻ってきた信号の変化を計測することで、地盤の状態を記録した。実証場所は茨城県つくば市と、埼玉県草加市で7月~9月にかけて行なわれた。
比較として、産総研が開発した「微動アレイ探査」用の小アレイを同様のエリアに設置して計測を行なったところ、光ファイバ振動センサを使用した場合とほぼ同様の波形を得られることが分かった。「微動アレイ探査」は人員を現地に派遣して設備を置いて計測するが、光ファイバ振動センサの計測ではNTTの施設に装置を設置するだけで計測が可能になる。
ただし、今回の技術は、空洞そのものを瞬時に発見するものではなく、信号の監視を継続的に行なうことで、変化があった場合に異常として検知できるようにするもの。振動の伝わり方は地形によってさまざまで、振動の伝わり方だけで空洞の有無を判断することは難しい。
しかし、地中の空洞には水や空気がたまるが、そうした場所では振動の伝搬速度が低下することがわかっている。定期的に通常時の地質状態の波形を記録し続けることで、地中に空洞が発生した場合には波形が変化するため、異常の発見につなげることができる。
今回の手法は、従来のものと比べて人員を現地に配置する必要がないことからコスト面でもすぐれ、1日1回など高頻度での遠隔モニタリングが可能になる。また、従来の地中レーダーや超音波を使った方法が3m程度の深さまでしか調査できないのに対して、今回の手法では3~30mの深さまで計測可能であることも実証された。
NTTには日本全国の地下管路に62万kmの通信光ファイバ網があり、これを活用することで道路異常の早期発見を可能にする。今後は、2026年度中にNTTグループ会社を通じて、自治体や上下水道事業者と連携。実際の都市環境での実証実験を推進し、同年度内に技術を確立する方針。また、解析アルゴリズムの高度化や検知システムの開発を進め、全国のインフラ監視や防災システムへの適用を目指す。




