蚊はCO2で活発化する?　花王と理研が成果発表

花王 ヒューマンヘルスケア研究所と理化学研究所 脳神経科学研究センター知覚神経回路機構研究チームは、蚊に最適化した仮想空間装置を使った実験で、CO2の存在が蚊の行動に影響を与え、視覚情報やにおいに対する反応を強める可能性を明らかにした。

蚊は、感覚刺激を正確に受け取るシステムを備えており、ヒトの呼気中のCO2を感知して飛行行動を活性化。視覚と嗅覚を頼りに近づき、熱と水分を検知して肌に降り立つ、というように、複数の感覚を順番に使って遠くのヒトにたどり着くことができる。

花王と理研は、仮想空間装置を使って蚊の行動について研究を行なっており、今回は、蚊がヒトを感知するきっかけとなる感覚刺激であるCO2が、視覚や嗅覚にどのような影響を及ぼしているかを調べる実験を行なった。

実験では、仮想空間装置に蚊を入れ、ヒトに見立てた1本の黒い線を見せ、蚊の動きに合わせて線を移動させた。蚊は黒色に反応するため、線が動くと追いかけるが、CO2を嗅がせるとその行動がより正確になった。

これまで、CO2は遠く離れたヒトを感知するきっかけで、その後蚊は視覚情報を頼りにヒトに近づくと考えられていた。しかし、実験の結果から、蚊はヒトを視覚で捉えた後もCO2を感知し続け、CO2によってモチベーションを高く保ちながらヒトを追いかけていると考えられるという。

次の実験では、仮想空間装置の中で動く縞模様を蚊に見せた。通常だと模様の動きを速くしても蚊のスピードは一定で、追いかけない。しかしCO2を嗅がせると速く動く縞模様でも追跡行動をとるようになった。蚊にとっては見えづらい低コントラスト(明度)の縞模様でも、CO2を嗅ぐことで追跡を行なう様子もみられた。

こうしたことから、CO2によって蚊は視覚刺激に対してより感度よく反応できるようになると考えられるという。

好きな臭いだけではなく、嫌いな臭いに対する行動も、CO2を嗅がせることで変化する。蚊の好む「ヒトの靴下のにおい」を嗅がせると、CO2を与えた状況のほうがより積極的に飛んで行くようになる。逆に、ハーブなどに含まれる蚊の忌避剤であるリナロールを嗅がせると、CO2があるほうがより積極的に回避する飛行を行なう。蚊はCO2の有無により好き嫌いも増強させられる可能性があるという。

今回の研究から、CO2は蚊がヒトを追いかける行動を強化する一方で、蚊が嫌な状況を避ける行動も強化する可能性が示唆された。例えば、薄暗い夕暮れ時に刺す蚊は、CO2があることで本来なら見えにくいヒトでも追いやすくなっているのかもしれないという。この成果は、8月20日にNature Researchの電子ジャーナルScientific Reportsに掲載。今後の効果的な対策を考えるための重要な情報になるとしている。