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ムーアの法則を打開する「光エンジン」 NTT光電融合デバイス戦略

NTTイノベーティブデバイスは、光電融合デバイスの今後の戦略について解説した。従来の通信領域を超えた、最先端のコンピューティング領域全般を対象にした技術となり、世界市場も視野に取り組みを進める。2025年開催の大阪・関西万博でも展示を行なう予定。

NTTイノベーティブデバイスは、最先端の部品メーカーとして実績を積んできたNTTエレクトロニクスが母体で、NTT研究所のデバイス技術開発部門をスピンオフさせた会社と8月1日に統合されている。同社グループは販売から製造、技術開発までの会社を揃え、一貫体制を構築している。

現在、半導体の世界では「ムーアの法則」が限界に近づいていると指摘されている。従来の微細化技術だけでは、性能を段階的に向上させていくことが難しくなっており、リーク電流の増加や発熱、それによる性能低下といった問題に直面している。

そうした電気による限界を、「光」に置き換えて解決しようというのが、NTTイノベーティブデバイスが手掛ける領域となる。

光電(こうでん)融合技術は、光導波路、光調芯技術などからなり、これまでは通信領域を中心に展開されてきたが、これをサーバーや高性能コンピューターといったより広範なコンピューティングの領域に拡大することで、規模の拡大とコストの低下を図り、コンシューマ領域を含めて、より幅広いデバイスへの搭載を目指す。

現在はネットワーク向けや小型・低電力デバイス向けに、「CoPKG」(コパッケージ)と呼ぶ第2世代までの製品を展開中。「CoPKG」はコヒーレント通信用DSPがひとつのパッケージに収まっており、DSPを個別に用意する場合よりも採用企業の開発負担を軽減できる。

第1世代のCOSA(コサ)2.0
コヒーレント通信用DSP
第2世代の「CoPKG」(コパッケージ)

2025年に商用化を見込む第3世代はさらに「光エンジン」(FAU:Fiber Array Unit)をパッケージに収め、省電力化や高速化を図る。この世代はサーバーやデータセンターでの活用を見込む。

第3世代(光エンジン)
16個搭載した大規模スイッチ基板
中央のチップはブロードコム製

光電融合デバイスのサイズはこの第3世代が最大になる見込みで、光源の薄膜レーザーをパッケージに収める第4世代以降は小型化され、2032年商用可予定の第5世代は2×5×2mm(縦×横×厚さ)にまで小型化するのが目標。第5世代の伝送距離は最大1cmまで縮むが、伝送容量は15Tbps/2mmにまで拡大される。

展開する市場として、コンピューティング領域以外では自動車の市場にも期待を寄せる。現在の自動車は車内の配線に大量のケーブルが使用され、重量も相当なものになっている。こうした配線を光電融合デバイスに置き換えると大幅な軽量化や省電力化が見込めるという。このほかデータセンターなどで活用した場合、発熱量の低下や低消費電力化に寄与するとし、電力消費の増大を押し下げる効果が見込めるとしている。

光電融合デバイスの規格化については、業界団体の「OIF」(Optical Internetworking Forum)や、PCI Expressの団体(PCI-SIG)とも話し合いをしているとのこと。ただし、標準化ありきで進めているわけではなく、デファクトスタンダードを狙う方向もあり得るとして、業界の動向を見ながら舵を切っていく方針。

NTTイノベーティブデバイスの母体となったNTTエレクトロニクスの2022年度の売上高は379億円。今後の光電融合デバイスの展開で、ひとまずは売上高500億円を目指し、1,000億円以上が目標としている。設備投資については第4世代以降が最大になるとし、1,000億円を超える、4桁億円の規模になる見込み。

旧NTTエレクトロニクスはこれまでは長距離伝送技術を中心に通信領域で活動してきたが、これからはコンピューティング領域、そしてゆくゆくはコンシューマ領域も狙うとして、NTTグループの中でも異端と言える事業会社になる。

一方、こうしたコンピューティングやコンシューマの領域で、最先端技術やその発展を下支えする光電融合デバイスは、NTTグループが提唱する「IOWN」(アイオン)構想に寄与するものと位置づけている。

左からNTTイノベーティブデバイス 代表取締役社長の塚野英博氏、同 代表取締役副社長の富澤将人氏